奨学金の「保証人」が危ない! 奨学金による連鎖的破産を避けるための方法

奨学金延滞訴訟が激増する中で、給付型奨学金制度の創設を求める声が大きくなっている。今月10日に行われた参院選では、ほぼすべての政党が給付型奨学金制度の創設を公約に掲げていたほどだ。

ここで一つ注意を促したい。それは、奨学金は決して「若者問題」ではないということである。なぜなら、奨学金の返済は本人だけではなく、保証人となる家族にまで及ぶからだ。

実際に、私が代表を務めるNPO法人「POSSE」には、奨学金を借りた本人が返せなくなってしまったため、保証人になっている親・兄弟・親戚に一括で返済するよう請求が来ているという相談がよせられている。

そこで、この記事では奨学金返済の実情を紹介しつつ、奨学金の「保証人」になっている方、これから保証人になる可能性がある方に向けて「対処法」をお伝えしたい。

保証人のリスクが高まっている

高校や大学、専門学校に通う学生が借りている奨学金のほとんどは、日本学生支援機構(以下、JASSO)の提供する奨学金だ。JASSOの奨学金には無利子タイプ(第1種)と有利子タイプ(第2種)の2つがあり、どちらも卒業半年後から返済がスタートし最長でも20年間で返済するように返済額が決まっている。

この奨学金を借りる際には、保証人を用意するか保証会社を利用することが条件となっている。どちらを選ぶかは借り手の自由だが、保証会社を利用する場合は毎月数千円の保証料を支払わなければいけないため、多くの学生は保証人を選択している。

保証人は連帯保証人と、保証人の2人が必要で、かつ基本的には両親からいとこなどの親族の必要がある。ほとんどの場合、連帯保証人は父親もしくは母親で、保証人は祖父や祖母、叔父、叔母などだ。

親世代の感覚からすれば、大学を出さえすれば、よっぽどのことがなければ「まともな就職」ができるはずだと思われがちだ。親世代の感覚として「まじめに働けば返せるはずだ」と考え、保証人となっている方も多いのではないだろうか。

「まさかうちの孫が」あるいは「うちの甥っ子が」奨学金を返さないなどという馬鹿な真似をするはずがない。このように思い、保証人になる方も多いことだろう。繰り返しになるが、その背後には、「まじめに働けば何とかなるはずだ」という経験則がある。

だが、そうした前提は就職氷河期とともにもろくも崩れ去ってしまっている。大学を卒業しても、非正規雇用が4割近くを占める。正社員であっても「ブラック企業」が蔓延している。たとえ「まじめな若者」であっても、奨学金の返済を確実に履行できる保証はないのが現実なのだ。実際に、JASSOのデータによれば、3か月以上延滞者の80.2%が年収300万円以下だという(「2013年度 奨学金の延滞者に関する属性調査」)。

また、JASSOが近年「回収強化」の名のもとに取り立てを強化していることも、保証人のリスクは高めている。現在JASSOは9か月間滞納した者に対してはほぼ機械的に「一括返済」を求める法的措置を執る。

JASSOは2014年度に8459件の裁判所を通じて「支払督促申立」を行っており、それでも支払わない者に対して320件の「強制執行」を行った。もし本人が返せなくなった場合は、残金を全額一括で連帯保証人、あるいは保証人に請求する。

このようにして、そもそも自分が借りたものではない奨学金の請求書が突然自宅ポストに入っているという事態が相次いでいるのである。

「家族連鎖破産」の実例

支払いの請求が保証人にまで及ぶことで、家族の「連鎖破産」が引き起こされている。POSSEに来た相談事例を見てみよう。

事例1 兄からの相談

妹が大学に通うために月10万円の奨学金を借りることになり、父親とすでに働いていた自分(兄)が保証人になった。奨学金の返済は妹自身が働いて返すという約束だったが、妹は疾病を発症してしまったため満足に仕事ができず失業し、奨学金を返済できず破産した。父は既に他界したため、利子と延滞金が元本に上乗せされた約800万円の請求が自分に届いた。正社員で働いているが家族がいるので自分の生活で精一杯。到底支払えない。(50歳代、男性)

事例2 家族の破産連鎖の危機

専門学校の通学費用として総額300万円を日本学生支援機構から借りた。しかし卒業後は非正規の仕事で手取りが十数万円しかなかったため、返済が滞ってしまった。延滞が続いたため裁判を起こされJASSOと和解したものの、その後も支払えず財産を差し押さえると言われている。自分が破産してしまうと保証人になっている母親に請求が行ってしまい、パートで働く母親も破産するしかない。(30歳代、男性)

事例1ではすでに保証人である兄弟に請求書が届いており、事例2ではまだ保証人には請求がいっていないものの、今の非正規職の収入だけでは返済が不可能なのは目に見えており、このままでは本人が破産した上に母親も破産せざるを得ないという、まさに家族を連鎖的に破産に追い込む奨学金の現状があらわになっている。

奨学金破産を避けるための対処法

これらの事例からも分かるように、奨学金は学生や若者だけの問題ではなく、親や兄弟どころか親戚まで巻き込む可能性のある深刻な問題だ。非正規雇用でそもそも経済的に奨学金を返済するほどの給料もらっていない人や、正社員になっても「ブラック企業」によって短期間で使い潰されうつ病になってしまった人が、月数万円の奨学金を何年にも渡って返済するのは難しい。奨学金破産は、家族である保証人を巻き込むのだ。

では、保証人はどうすればよいだろうか。返済困難に陥ってしまった場合、大きく分けて2つの解決策が考えられる。それぞれ見ていこう。

(1)返済に困っている本人に返済猶予などの制度を利用するようアドバイスする

JASSOは返済に困っている人に対して、いくつか方法を用意している。それらは「減額返還」「返還期限猶予」「返還免除」である。

A)減額返還

これは、毎月の返還額を半分にして返還を続けるという制度である。例えば月2万円の返済を月1万円に減らすことができるので、当面の生活は少し楽になるだろう。

ただ注意しなければいけないのはトータルの返済額は変わらないという点だ。月2万円×100回払いが月1万円×200回払いになるだけで、返すのはどちらも200万円である。また既に延滞している場合は使えず、さらに使うための条件として「災害」「疾病」「失業」などの項目に該当しないといけない。

B)返還期限猶予

返還に困っている場合で一番よく使われるのがこの「返還期限猶予」である。これは、返還を先延ばしにする制度で、年収300万円以下や病気がある場合に使うことが出来る。所得証明書などを申請書と共に提出すれば、猶予を受けることが出来る。

ただこの場合でもトータルの返済額が減ることはなく、また猶予も最大10年までと決まっているので、それ以上は使えない。

C)返還免除

これは文字通り、返還じたいが免除され、返さなくてもいいということになる。ただ、本人が亡くなるなどかなり限定的な事情がなければ使えないので、ほとんどの場合で該当しないと考えたほうがよい。

このように「使える制度」はいくつかあるので、まずはこれらを利用することを検討してみるのをおすすめする。これらを使うにはまずJASSOに連絡して、必要な書類等を確認することが必要だ。

(2)法的な手続きを踏んで、債務を整理することをアドバイスする

次に、本人が返済できず、上にある制度も該当しない場合には「債務整理」という形で、借金を減らすことを検討したほうが良いだろう。「債務整理」には、「自己破産」や「任意再生」など残額や今の収入などによって使える制度が異なってくる(要件が複雑なので、ぜひ心当たりのある方は巻末の窓口に相談してほしい)。

ただし、もちろん本人が自己破産をした場合には、支払いの請求は連帯保証人および保証人に行くことになる。事例のように、連帯保証人の親自身も債務整理を検討せざるを得なくなることもある。

それでも自己破産を勧めたほうがよい理由は、延滞期間が延びるとその分だけ「延滞金」が発生するからだ。本人が自分の債務整理を後に延ばせば伸ばすほど、かえって「保証人のコスト」が増大するのである。

そもそも、JASSOの延滞金は遅れている元本に対して年間5%もの高利。その上、JASSOは9か月間延滞すると「一括返済」を求める。そうなると、そこからは年率5%の延滞金が、残りの元本すべてにかかってくる。

例えば、400万円を借り、月に2万円返している人の場合を考えよう。8か月の滞納までは16万円に対して年間5%の延滞金が発生するだけだが、9か月目からは、400万円すべてに延滞金が発生する。その金額は年間20万円にも上る。その状態が5年続くと、延滞金だけで100万円になる(尚、2014年3月28日までの分については延滞金の利率が10%であり、さらにこの二倍の金額になる)。

保証人になっている以上、もし当人が破産せざるをえない状態であれば、その分の保証を免れることはできない。そうであれば、保証人に降りかかる延滞金の発生を極力押さえるように、猶予手続きに加え、早めの債務整理が求められるのだ。

保証人になっていて不安な方、裁判を起こされた方はすぐに専門家に相談を

JASSOの手続きを踏むにしても、債務整理を検討するにしても、1人で検討し判断を下すのは大変だろう。また、返済猶予などの手続きは書類が煩雑なうえ、JASSOの電話相談窓口で丁寧な説明をしてもらえないことも多い。そこで、私たちNPO法人「POSSE」や「奨学金問題対策全国会議」といった、支援団体に相談してほしい。支援団体は、利子や延滞金が発生する前に返済猶予などの手続きを行うことができるようにサポートできる。

また、もし、既に延滞していて返済期限猶予などの手続きが取れなかったり、もう既に訴訟を起こされてしまっていたりしても、相談してほしい。むしろ訴訟を起こされてしまっていれば法律的な知識がどうしても必要になってくるので、奨学金専門の法律家を間に立てて対処するかどうかが裁判の結果を左右することになる。

実際に、この問題に詳しい弁護士に依頼してことで、JASSOの主張する延滞金が減額されたり支払いが分割にされたりというケースは多い。特に借りた本人ではなく保証人になっている場合、そもそも支払う必要があるのかどうかもポイントになるため、JASSOの主張や請求を鵜呑みにせずに、まずは専門家に相談することが大切だ。

無料相談窓口

NPO法人POSSE 奨学金ナビ

03-6693-5156

soudan@npoposse.jp

http://www.npoposse.jp/syogakukin/index.html

(土日対応可)

奨学金問題対策全国会議

03-5802-7015

http://syogakukin.zenkokukaigi.net/