相模原19人刺殺 福祉施設、入所者見守りに重点「不審者の侵入、防ぎようがない…」 関係者に広がる困惑

多数の入所者が侵入してきた男に殺傷された事件に、同様に多くの入所者を受け入れる福祉施設関係者には困惑が広がった。24時間職員が常駐する福祉施設でも、入所者の見守りに力点が置かれ、外部からの侵入に対する警備体制は、学校施設に比べて手薄だ。逮捕された男は元職員で、障害者たちへの明確な殺意を供述。福祉施設を取り巻く過重労働によるストレスも背景にあるのではないか、と指摘する声があがった。

 大阪府内の知的障害者施設の男性施設長(59)は「重度の知的障害であれば事態を理解できず、夜間の少ないスタッフで誘導は困難だ」と訴える。身体障害者ら約100人が生活する「茨木療護園」(大阪府茨木市)は防犯対策として出入り口に暗証番号入力式のカギを導入する。ただ担当者は「元職員など番号を把握している人物の侵入は防げない」と懸念する。

 公共施設の防犯を手掛ける「セキュリティハウス・センター」(京都市)によると、知的障害者らが入所する福祉施設では、建物外への徘徊(はいかい)や窓からの転落などを防止するため、建物内外のセンサーや入退室管理システムなどを設置しているケースが多いという。

 しかし、同社の植村光代課長は「福祉施設の安全は入所者の見守りが中心。外部から侵入者の想定は少ない」と指摘。身体障害者約35人が入所する大阪府高槻市の障害者支援施設の担当者も「悪意を持った人の侵入を想定していない。不審者が侵入してきたらどうしようもない」と語る。

 平成13年に8人が犠牲になった大阪教育大付属池田小(大阪府池田市)の児童殺傷事件を契機に、学校現場では安全面を強化する必要性が指摘されてきた。植村課長は「これからは福祉施設でも侵入者を意識する必要がある」と話す。

 今回の事件を受け、大阪府は26日、約90カ所の障害者施設に対し、安全管理態勢の徹底を呼びかける文書を通知する方針を決めた。

 一方、福祉施設をめぐっては、川崎市の有料老人ホームで昨年、入所者が相次いで突き落とされる事件が発生。逮捕された元職員がストレスを募らせていたと供述し、福祉現場の過重労働なども問題になった。

 今回逮捕された元職員も「障害者なんていなくなってしまえ」などと、供述している。

 別の大阪府高槻市の障害者施設の担当者は「職員の労働環境は障害者支援に直結するため、最優先の課題だ」と指摘する。

 障害者施設に詳しい大阪市立大大学院の野村恭代(やすよ)准教授(社会福祉学)は「意思疎通が難しい入所者もいて、ストレスを感じる職員もいるだろう。職員同士の意思疎通を図ったり、支援を充実させたりする必要がある」と話している。