タトゥーはキレイに消せるのか? 医師「死ぬぐらいの痛み覚悟して」 相次ぐトラブル、除去手術の実態


一時の気持ちの盛り上がりでタトゥーを入れたものの、結婚や出産、就職などを理由に除去を願う人も少なくありません。ところが近年、タトゥー除去をめぐるトラブルが相次いでいます。実際に手術を受けた人や医師に取材しました。

「2年ほどでキレイに」信じて…

 福岡県の20代後半の女性は19歳の頃、肩から肘にかけて「トライバル」と呼ばれる民族的な柄のタトゥーを入れました。しかし、数年後に結婚して子どもが生まれると、「海水浴や温泉で困るから消したい」と思うようになったそうです。

 ネットで得た情報を元に、関東地方のある美容外科を受診。「2年ほどでキレイに取りますよ」という医師の言葉を信じ、複数回にわたる切除手術を受けました。

 手術でタトゥーの柄自体は消えましたが、傷口が広がってうんでしまうなど、術後の経過は思わしくありませんでした。

「覚悟がないならボディーペイントで」

 常に引っ張られるような痛みがあり、血がにじむ。ろくに入浴もできない日々が続きました。

 こうした症状を訴えても、担当医は「体重が増えたから傷が開いたのでは」「治らない人なんていないんですけどね」と言うばかり。処方してもらった塗り薬でも、傷はなかなか回復しません。

 結局、4年ほどの通院で、交通費も含めて150万円以上を支払うことになりました。現在は病院を変え、症状も改善に向かっているということです。

 女性は自戒を込めてこう言います。

 「絶対にキレイに治る、なんてウソ。傷が残るリスクなども含めて、病院はきちんと説明するべきです。除去手術の大変さや、多額のお金がかかることを知らない人も多い。知識や覚悟がないのなら、ボディーペイントぐらいにしておいた方がいいと思います」

レーザーの痕・肉割れ・水ぶくれ…

 女性のケースは氷山の一角です。

 「レーザー治療でやけどの痕のような状態になった」(30代女性)
 「切除手術で傷が盛り上がり肉割れした」(30代女性)
 「レーザーで水ぶくれができて痛い」(30代男性)

 全国の消費生活センターなどに昨年度、タトゥー除去をめぐってこうした苦情が寄せられました。

 国民生活センターの担当者は「タトゥーは気軽に入れられる割に、とるのには時間がかかり、様々な困難も伴う。そうした点が、苦情につながっているのではないか」とみています。

「死ぬぐらいの思い」ありますか?

 タトゥー除去治療の現状について、多くの症例を手がけてきた六本木境クリニックの境隆博院長(48)に聞きました。

 ――タトゥー除去を求める患者さんには、どんな人が多いですか。

 20代、30代の女性が多いです。理由は結婚だとか、「上司に言われて…」だとか。ただ、タトゥー除去はそんなに甘いものじゃありません。私は常々、患者さんに「死ぬぐらいの思いをしても取りたいですか」と聞いています。

「機関銃で撃たれているような痛み」

 ――そんなに大変な治療なのですか。

 大変ですよ。たとえばレーザー治療。子どもを産んだことのある女性の患者さんは口々に「お産の次に痛い」と言います。「ゴムではじくぐらい」と説明する医師もいるようですが、私に言わせれば「機関銃で撃たれているような痛み」です。

 レーザーに限らず、治療でタトゥーを消すことはできません。タトゥーを傷痕に置き換えるだけです。タトゥーというのは、墨と傷痕が混在したもの。仮に魔法のように墨を取り除けたとしても、最初にタトゥーを入れた時の傷痕は消えません。実際には、そこからさらに治療による傷も加わるわけです。

「一番いいのは入れないこと」

 ――キレイさっぱり消せると誤解している人も多いのでは。
 
 誤解を招くような宣伝は問題です。部下に「消して来たら」と言う上司も、タトゥー治療の大変さを理解していないのではないでしょうか。「一番いいのはタトゥーを入れないこと。次はタトゥーを取らないこと」というのが、私の持論です。

 ――タトゥー除去をめぐるトラブルも後を絶ちません。
 
 ひどいミミズ腫れや、ケロイド状になってしまった患者さんもいる。医療不信になってしまう人もいますよ。ほかの病院でひどい目に遭ってきた人を診ると、怒りが湧いていきます。

各治療法のメリット、デメリット

 ――各治療法のメリット、デメリットを教えてください。
 
 レーザーは、身体への侵襲性が低いこと、また消えはしないものの、タトゥーを薄くできるのがメリットです。先ほど言ったように、非常に痛いというのはデメリットだと思います。

 切除のメリットは、切った部分を完全に除去できること。ただ、デメリットとしてワンポイントなどのごく小さなものしか対応できません。

 植皮は、太ももや臀部から皮膚を移植する治療です。切除に比べ、大きいものにも対応できるのはメリット。しかし、治療箇所以外に採皮部にも傷がつく、また治療箇所が目立ちやすくなります。

 削皮は、墨の入った皮膚を削りとる手術。短期間で効果が見込め、植皮に比べ広い面積でも治療できます。成功した時の見栄えは比較的いいですが、失敗した場合はケロイド状になってしまう恐れもあります。非常に難しい手術で、医師の腕次第というところがあります。

彫り師は「人」を見て判断できないと

 ――医師資格なしに刺青を入れることは、医師法違反に当たるとして彫り師の摘発が相次いでいます。この点については、どう考えますか。

 タトゥーは入れるところから規制すべきだと思います。人体に傷をつける以上、医療的な知識は必要です。ただ、「伝統を守らないといけない」という話もあるので、難しいですね。厳しいライセンス制度を設けて、よっぽどの人しか入れられないような形にするのが一番いいのではないでしょうか。

 たとえば、講習会を受けないとライセンスが得られないようにする。取得後も「除去したい」という3人が人出たらライセンスをはく奪する――といったやり方が考えられるでしょう。

 客が感謝して、一生入れたままで生きていけるならいい。ただ、彫り師は客の「人」を見て判断できるようでなければ、タトゥーを入れてはいけません。精神的に不安定な人だとか、勢いで来た若者に入れてしまうような彫り師は、ライセンスをはく奪されてしかるべきです。