キノコ 国内2強、アジア進出 バイオ技術で現地工場栽培

キノコ栽培の国内首位「ホクト」(長野市)と2位の「雪国まいたけ」(新潟県南魚沼市)がアジア進出に取り組んでいる。ホクトは台湾やマレーシアで、雪国まいたけは中国で現地生産を行っている。両社はバイオ技術を使い工場でキノコを栽培しているため、日本と気候が異なる外国でも、品質を高く保ったまま大量生産がしやすい。少子高齢化で国内市場の縮小が予想される中、拡大が見込めるアジアに活路を求めている。

 台湾南部の工業団地にあるホクト現地法人の工場では、冷却された部屋の棚いっぱいにブナシメジが並んでいた。出荷直前のため、大きくなりすぎないよう見学時の室温は9度に抑えられていた。繊細な生育技術は日本の工場そのままだ。ブナシメジはベルトコンベヤーで運ばれ、機械で次々に石づきを切り取られ、袋詰めされていった。

 ホクトは2009年にキノコの栽培・出荷を開始。日本企業ならではの「高品質や安心感」を訴えつつ、現地生産で価格を抑えた。ブナシメジを食べる習慣が無かった台湾人にも鍋用などに受け入れられ、今や一般のスーパーや市場に並ぶ存在だ。12年には第2工場も建設し、年間生産量は09年度の934トンから15年度は2672トンと3倍近く拡大し、売上高は約6億台湾ドル(約20億円)に達する。

 ライバルの雪国まいたけは05年、中国に進出。中国で鍋用に親しまれているエノキダケを生産・販売する。現在は長春市に工場を構え、年間約7000トンを生産する。露地栽培に比べて清潔で、きれいな白色に仕上がることが受け入れられているという。

 それぞれ、課題もある。ホクトの台湾進出の当初の目的の一つは、中国当局の規制のため、日本からはできない中国への輸出だった。だが、11年、台湾から中国へのキノコ類の輸出は一部を除き突然制限されるようになり、目算が狂った。今も状況は変わらない。その中国で生産・販売する雪国まいたけも、競合が大量生産に乗り出し、過当競争で収益が低下。技術的に参入がしやすいとされるエノキ以外のキノコの生産など打開策を検討する。

 一方、ホクトはマレーシアでも15年に生産を開始し、ベトナムやシンガポールへ輸出する。ミャンマーなどの市場開拓に向けた情報収集のため、今年7月にはタイのバンコクに駐在員事務所を開設。海外市場を重視する姿勢は変えない。

 キノコに限らず、工場で栽培する農林水産品は、海外でも気候の制約を受けない上、日本企業ならではの品質や安全性をアピールしやすい。パナソニックは14年にシンガポールで現地子会社が植物工場でレタスなどの生産を開始。年間生産能力も14年の3・6トンから15年は81トンに急拡大。栽培する野菜も10種類から38種類に増やした。アジアを舞台にした日本企業による農林水産品の現地生産は、今後も広がりそうだ。

◇キーワード・農林水産物の海外展開

 農林水産省によると、2015年の農林水産物・食品の輸出額は7451億円で前年から21.8%増加した。輸出先を国・地域別でみると、香港が最も多く1794億円(全体の24.1%)、2位は米国の1071億円(同14.4%)。3位は台湾で、たばこやリンゴなどを中心に952億円(12.8%)と、4位の中国の839億円(同11.3%)を上回る。現地生産も丸紅や昭和電工などが中東ドバイで植物工場の実証プラントの導入を予定するなど、徐々に広がりを見せている。また、「高品質で安全性が高い」とアピールできる日本の農産物を海外の富裕層向けに届けるインターネット通販事業に取り組む日本企業も増えている。