「このままでは航路がなくなりかねない」離島の足、存続の危機 数十億円の費用重い負担に

九州本土と離島を高速で結ぶ水中翼船「ジェットフォイル」が存続の危機に直面している。国内で運航する3分の1の6隻は船齢が30年を超え、35年程度といわれる「寿命」に近づいているが、造船業者は複数の受注がないと新造しない方針だ。数十億円の費用も海運会社の重い負担になるため、新造交渉が暗礁に乗り上げる恐れがある。

 九州運輸局や海運会社によると、国内では6社が18隻のジェットフォイルを使用。九州では3社が博多−壱岐・対馬、長崎−五島、鹿児島−種子島・屋久島の3航路で10隻を運航し、このうち3隻が就航から30年を超える。

 九州郵船(福岡市)は壱岐・対馬航路で2隻を運航。2010年以降の輸送実績は同じ区間のフェリーを上回る。船齢31年の1隻を20年代半ばに新船と入れ替える方針だが、竹永健二郎社長は「更新できないかもしれない」と話す。

「1、2隻の注文では船価も高くなる」

 世界で唯一、ジェットフォイルの造船技術を持つ川崎重工業(東京)は、複数受注を新造の条件にしている。「最近21年間は建造実績がなく、設備の更新などが必要。1、2隻の注文では船価も高くなる」という事情がある。海運会社と商談を進めているが、契約には至っていない。

 海運会社には「1隻50億円程度」(竹永社長)の費用も悩みの種。九州郵船が持つジェットフォイルの初期費用の約2倍に当たる。

 負担を軽くするために、独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は昨年4月、離島のある自治体と建造資金の最大9割を一時的に担う支援制度を始めた。だが、九州のある県は「返済してもらうとはいえ、県の財源も限られる。簡単に費用は出せない」と打ち明ける。関係者によると、新制度を活用する具体的な計画はまだない。

 九州の3航路の年間輸送実績は、記録が残る03年度以降、約134万〜158万人で推移する。日本旅客船協会で高速船建造問題委員長を務める竹永社長は「島民の足であり、観光振興にも欠かせない。このままでは航路がなくなりかねない」と危機感を募らせ、業界を挙げて国などに支援を求める構えだ。

ジェットフォイル

 ジェット推進機から海水を噴き出し、船体の前後の水中翼に揚力を発生させ、海面から浮いた状態で航行する高速旅客船。「海の飛行機」と呼ばれる。時速80キロ(45ノット)前後の高速航行と、波の影響をほとんど受けない乗り心地の良さが特徴。1987年、米ボーイング社が川崎重工業に建造技術を譲渡した。川崎重工業は95年までに15隻を建造したが、以降は受注実績がない。

=2016/10/16付 西日本新聞朝刊=