ミクシィ・森田仁基社長 「モンスト」大ヒットを生んだ信念

トップ直撃 ミクシィ・森田仁基社長(40)

 今やインターネットでやりとりをすることは当たり前の時代となった。人間関係の希薄化も指摘されて久しいが、どんなサービスを作れば、人と人のコミュニケーションが活性化するのかを考えてきた。そんな発想から生まれ、大ヒットにつながったのがスマートフォン向けゲームアプリ「モンスターストライク(モンスト)」だった。世の中のためになるサービスを−。若き経営者が示すビジョンは明確でストレートだ。 (三宅陽子)

 −−主力事業を教えてください

 「モンストが伸びたときはゲーム会社というイメージがあったと思いますが、もともとは、ネットを使って就職をマッチングしたり、友達同士のコミュニケーションをSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)というものでつないだり−といった体験の場をユーザーに提供してきた会社。こうしたメディアプラットホーム事業のほか、スマホ向けゲームやアニメ制作などエンターテインメント事業にも力を入れています」

 −−モンストは一人で遊ぶというより、仲間が集まって遊ぶゲームとして人気を呼びました

 「スマホが誕生して以降、ゲームの多くはどんどんオンライン化し、“顔の見えない人たちと遊ぶ”という概念も生まれていった。でも、こういう時代だからこそ“集まって遊ぶ”ということをやってみたらどうかと。フェイストゥフェイスのコミュニケーションを取ることは素晴らしい、との信念から生まれたのがモンストでした」

 −−モンストの利用者は世界累計で3500万人(今年4月現在)。ゲームのヒットは何をもたらしましたか

 「それまでの会社は辛い時期を過ごしていました。業績も悪く、辞めていく人もたくさんいた。社内の雰囲気も当然悪かった。モンストは一筋の光でした」

 −−上昇気流に乗るきっかけとなったわけですね

 「自分たちの好きなように、信じるものをやってみようと動き出したら、結果もついてくるようになりました。そのことは自分たちの自信につながっていきました」

 −−挑戦に当たる事業は

 「すべてが挑戦といえば挑戦ですが、例えば、行けなくなったチケットが紙切れになってはもったいないと事業を拡大させたのが、チケットフリマアプリの『チケットキャンプ』。さらに、髪を切るということをもっと安く気軽にしたいとの発想から(カットモデルなどの情報を満載したアプリ)『minimo』が生まれている。子供の写真や動画の共有アプリ『家族アルバム みてね』はおじいちゃん、おばあちゃんも一緒に楽しむことができます。日常生活の中で不便と思ったら、どうやったら解決できるかを考える。それが新たなサービスを生み出す基となっていると思います」

 −−社長に就任し、発信してきたメッセージは

 「社員にはこの会社で働くことに誇りを持ってもらいたいと思っています。そのためには、家族や友達などに『自分たちはこんないいものを作っている』と、胸を張れるようなサービスを生み出していくことが大切。私自身は、頑張っている人の努力に報いることのできる評価制度、いい仕事をすれば対価となって還元される賃金制度の改革などを進めてきました」

 −−社員との距離を大切にしているそうですね

 「従業員とは近い距離で働いていたいと思っているので、席は横並びですし、飲みにもいきます。コミュニケーションをよく取り、経営陣が何を考えているのか分からないというのはなくしていきたいですね」

 −−求める人材は

 「自分の知らない分野であっても、『分からないけど、いろいろやってみたい』と考え、実際に体を動かしていくフットワークの軽い人がいいですね」

 −−思い描く会社の将来像を教えてください

 「今後も引き続き、文化となり得るものを作っていきたい。基本的には国内中心の事業ですが、僕らが作り出している価値は日本以外にも受け入れられる可能性がある。多くの人に使われるのは私たちにとって大きな喜び。世の中に生まれる革新的な技術を使って人々の生活をどう心地よいものに変えていけるか、アンテナを高く進んでいきたいと思っています」

 【フリーター時代】

 大学を卒業後しばらくは、フリーターをしていた。

 「たまたま派遣登録したIT関連の会社に行くことになり、事務として雇われました。それまでは『働く』というイメージを持っていなかったのですが、『自分たちでどんどんやっていくしかない』という職場が性にあっていた。正社員となり、広報、営業、ゲームを作るプロデューサーなどさまざまな仕事をさせていただきました」

 【座右の銘】

 行動指針となっている言葉は「謙虚にしておごらず」だ。

 「学生時代なども含めてガソリンスタンドの店員、スポーツ用品店の販売などさまざまなアルバイトをしてきましたが、横柄な態度のお客と接することも多かった。でも、そういう人にも『教えてください』という謙虚な態度で接すると、相手の反応は違ってくる。どんな相手であっても、学ぶ姿勢を持つことは、大切だと思っています」

 【子供時代】

 とはいえ、子供時代はある時期まで、自信過剰な性格だったと笑う。

 「私は4月生まれなので、小学生の頃は、知力も体力も他の子より上回っているという妙な自信がありました。だから、周りの子が何かできないでいると『何でできないんだよ!』となる、そんな子供でした」

 【転機】

 性格を“修正”する機会も訪れた。

 「ある時、自分に対する陰口を聞いたんです。周囲は自分がやることを楽しんでくれていると思っていたのに、違っていた。このままではみんなに嫌われる…と。転校を機に性格を改めようと決め、変わることができました」

 【趣味】

 「好きでよく行くのはゴルフです。うまくても下手でも、みんなで楽しむことができるのは大きな魅力だと感じます」

 【あだ名】

 “特技”もある。

 「(あだ名で呼ばれる社員に)『誰に付けられたの?』と聞くと、『森田さんです』と(笑)。キャラクターが際だっているような人には、飲んでいるときなどに、思いついたあだ名を付けてしまうんです」

 【会社メモ】ソーシャル・ネットワーキング・サービス「mixi」「モンスターストライク」などゲームアプリの開発、運営会社などを展開。1999年6月設立。本社・東京都渋谷区。資本金96億9800万円(今年3月末現在)。売上高2087億円(同3月期)。従業員数は558人(同3月末現在)。

 ■森田仁基(もりた・ひろき) 1976年、東京都出身、中央大総合政策学部卒。2008年、ミクシィに入社し、「mixiアプリ」の立ち上げを担当。11年に同社とサイバーエージェントの合弁会社「グレンジ」の取締役副社長に就任、経営を担った。13年1月、ミクシィの執行役員に就任。同年11月よりmixi事業本部長を務めるとともにエグゼクティブプロデューサーとして「モンスターストライク」の創出と事業拡大を統括した。14年6月から現職。