「宅配ポスト」は疲労困憊する配達員を救うか

EC(ネット販売)の隆盛で拡大の一途をたどる宅配便市場。だが、宅配業者はその取り扱いに頭を悩ませており、素直に喜べないのが現状だ。

 2016年度の宅配便の個数は37.4億個と、この5年間で15%増えた。経済産業省によると、2010年に7.7兆円だったEC市場は2015年には13.8兆円(62%増)にまで膨らんだ。

 宅配大手のヤマトホールディングスの決算も順調だ。10月31日に発表された中間決算は、売上高7066億円(前年同期比3.3%増)、営業利益209億円(同16.4%増)だった。前期は「宅急便コンパクト」や「ネコポス」など新サービスの広告費等がかさんだ反動はあるものの、宅急便個数が1割近く増えたことが好決算の主要因だ。

■ECの増加で単価に下押し圧力

 とはいえ、ECは小型物品の割合が多いため、1個当たりの単価は低くなりがち。宅配業者は、ECの荷物が増えれば増えるほど単価に下押し圧力がかかってくるというジレンマを抱えている。

 ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配便大手3社は2013年以降、料金の適正化として値上げを行ってきた。だが、「配送料無料などのEC事業者間での競争が激化しており、宅配業者への値下げ圧力は厳しい」(アナリスト)。実際、ヤマトはEC通販事業者の大口先の物量が増えていることに加え、(宅急便コンパクトなどの)小型の宅配サービスが拡大しているため、今期の宅急便単価は557円と前期比3.6%下がると予想している。

 佐川急便は、不採算を理由に2013年にEC最大手のアマゾンとの取引を中止するなど、ECとは一定の距離を置き、単価は前期まで3年連続で改善した。だが、2016年度の宅配便個数はヤマトの6.7%増、日本郵便(ゆうパック)の5.8%増に対し、0.2%増と横ばいにとどまった。

各社の打開策とは?

 EC市場が拡大する中でも利幅を確保するべく、各社が取り組みを強化しているのが再配達の削減だ。国土交通省によると、宅配便の約2割が再配達になっているという。これは年間で約1.8億時間の労働時間、9万人分の労働力に相当する(国土交通省の試算)。ドライバーが恒常的に不足する中、再配達を減らすことができれば業務の効率化やドライバーの疲弊を抑制することができる。

 再配達の削減施策の代表的なものが、コンビニでの受け取りだ。受け取り先をコンビニに指定してもらえれば、配達員はコンビニへの一度の配達で済ませられる。受け取り側も、宅配業者の配達時間(通常8時から21時)以外の時間でも荷物を受け取れるため利便性が上がる。また、配達員に自宅まで運んでもらうことに抵抗を感じる、一人暮らしの女性などの利用も多いという。

■宅配ロッカーを主要駅に設置

 そして最近、じわじわと増え始めたのが宅配ロッカーだ。宅配ロッカーは駅やショッピングセンターなどに設置される、24時間いつでも受け取り可能な宅配便受け渡し棚だ。EC注文時や再配達を依頼する際、受け取り先を宅配ロッカーに指定する。ロッカーに荷物が届くと、開錠用の暗証番号がメールで届き、荷物が受け取れる仕組みだ。

 ヤマト運輸は5月、欧米を軸に宅配ロッカー事業を展開しているフランスのネオポストグループと合弁会社を設立、宅配ロッカー「PUDO」(プドー、Pick up & Drops off stationの略)の事業をスタートした。利用可能な宅配業者を限定しないオープン型を標榜し、ヤマト運輸に加え、一部地域では佐川急便でも利用が始まっている。

 現在、JR池袋駅や東京メトロ、阪神電鉄などの駅中心に約40カ所に設置されており、2022年度には5000台を目指して拡大する予定だ。本格展開前に都内で行ったテスト運用では、再配達削減効果が確認されており、浸透すればさらなる効果が期待できるという。

 日本郵便でも、楽天市場などでの購入商品を受け取れる宅配ロッカー「はこぽす」を、昨年から郵便局内に設置。今年は渋谷駅をはじめとした京王線沿線の駅に広げたほか、関東圏外への設置も進めている。日本郵便のみの利用を想定したものだが、他業者も利用できるようオープン化も検討している。

 宅配ロッカーで受け取る場合、受け取り側に別途発生する負担はない。オープン化しているPUDOのビジネスモデルは、宅配業者がロッカースペースをレンタルする賃貸収入でまかなうもので、黒字化は3年をメドとしている。設置数を増やし狙い通りの再配達削減効果を得られるか。定着するまでに事業が存続するためにも、他の宅配業者が呼応して足並みがそろうことが大前提になる。