バーバリーなき三陽商会、リストラばかりで先細りの懸念

英バーバリー社とのライセンス契約が切れた影響などによって2016年1〜6月期に58億円もの営業赤字に陥り、進行中の中期経営計画を取り下げていた三陽商会。10月末までに新計画を練り直すと公言していたが、結局、予定通りに発表できずじまいだった。同社は今、復活できるか否かの土俵際に立つ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

 三陽商会の社員が震えている。ようやく来た秋の寒さに、ではない。10月28日、経営陣が、10月末までに公表するとしていた新経営計画の詳細な発表を来年2月に延期すると表明したことに、だ。

 三陽商会は、2015年6月末に英バーバリー社とのライセンス契約が終了して以降、文字通り危機に直面している。

 「バーバリー」関連ブランドの“後継”として始動させた「マッキントッシュ ロンドン」や「ブルーレーベル/ブラックレーベル・クレストブリッジ」の実績が計画を大幅に下回ったことなどにより、16年1〜6月期には58億円もの営業赤字を計上。これを自身の「『実力』として真摯に受け止め、実力値を出発点として計画を練り直す」として7月末、17年12月期に営業黒字へ浮上させるとした18年12月期までの中期5カ年経営計画を取り下げた。

 今回、詳細発表を延期し、「目指す方向性」を提示するにとどまったのは、この練り直すと宣言した計画のこと。言うまでもなく、同社の再建への本気度が示されるべきもののはずだった。

 練り直しへの意気込みはあった。7月には杉浦昌彦社長を委員長とする経営改革委員会を立ち上げた他、二つの分科会で課題の洗い出しや環境分析を行って取り組むべきテーマを抽出。これらテーマに沿った具体的な施策案を出させるべく、若手リーダーや現場社員による六つのワーキンググループも設置した。

 こうした一連のプロジェクトは「SANYO INNOVATION PROJECT」と銘打たれ、外部アドバイザーのサポートまで仰いでいる。

 しかし、10月末までという制限時間内に「プロジェクトの成果」として明示できたのは、来年8月までに完了させるという2ブランドの撤退、170売り場の削減と、存続売り場における人員の効率化の3施策だけだった。

 「8月の夏季休暇期間が入ったことなどもあって、ワーキンググループが実際に稼働したのが9月くらいになってしまった」(岩田功経営統轄本部長)。新計画の詳細発表を延期することになったのは、こうしてタイムオーバーに陥ったのが原因なのだという。

 岩田経営統轄本部長は、「全社一丸となっていろんなことを考えていく体制をきっちりつくることに重きを置いた」と弁明したが、のんびりが過ぎる事態に、ある幹部は一言「怖い」とあざけった。

 さらに、「若手は今の経営陣にうんざりしているから、もはや驚かないかも……」とも語る。経営陣が叫ぶ「全社一丸」の思いは、果たして社内にどこまで届いているのか──。三陽商会はまさに土俵際に立たされている。

● 人員、株、美術品 資産整理は進むも先細りの懸念

 むろん経営陣も、ワーキンググループの意見を待ってばかりいるほど危機感が薄いわけでもなく、およそ思い付く限りの整理には着手している。

 この下期以降の案件だけでも、例えば希望退職は募集済みで、249人が応募。前述したプロジェクトで決定した2ブランドの他に、来年2月にかけて計8ブランドの撤退も進行している。また、保有株式、美術品などの売却や、社内から批判の声が上がっていた本社新別館ビル建設の一時凍結などで、50億円も捻出する予定だ。

 とはいえ、成長戦略が明確に定まらなければ、先細りは必至だ。16年12月期の売上高は、ただでさえ700億円に縮小する見通しである。取り下げた中期5カ年経営計画で1000億円規模を維持できると予想していた売上高は、15年12月期に30年ぶりにあっさりと974億円に沈んで以来、減少が止まっていないのだ。

 16年12月期は利益ベースでも、営業損益で68億円、最終損益で95億円の赤字を見込む。そもそも規模がさほど大きくないだけに、60%を超える自己資本比率を誇るといえども、余裕をかましていられる状況ではない。

 新経営計画の策定に向け、三陽商会が検討課題として挙げたのは、以前からそこかしこで問題視されていた百貨店に偏重する販売チャネルの拡充や、アパレル各社が同様に注力するEC事業の成長加速など、驚きを伴うものはなかった。

 実は同社は、今回ほど抜本的な改革を目指したものではなかったものの、これまでにも社内改革を狙ってワーキンググループを設置してきた過去がある。ただ、中には「経営陣が聞く耳を持たず、ワーキンググループの提案がかなり無視された」ものもあったと、社内からはぼやきも聞こえてくる。

 改革に飛び道具がない以上、業績の立て直しには、どれだけストイックにその精度を高めていけるかが鍵となる。