米政治の行き詰まり映す=米大統領選

次期米大統領となるトランプ氏をめぐり最後まで予想外の展開を見せた今回の選挙は、米政治の行き詰まりを映し出した。

民主、共和両党の対立による政治の機能不全に嫌気が差した有権者は、型にはまらないトランプ氏が停滞を打ち破ると期待し、大統領に押し上げた。しかし、選挙戦では候補者同士が次元の低い個人攻撃に力を注ぎ、分断はさらに広く、深くなった。トランプ氏は勝利演説で「分断の傷を縫合する時だ」と述べたが、深手は容易に癒えそうにない。

 選挙戦では、有権者から「政治が選択肢を示せていない」という声が聞かれた。トランプ氏は中央政界への抵抗勢力として旋風を起こした。他方、女性蔑視やイスラム教徒、移民らへの差別的発言で多くの国民の怒りを買った。共和党内の体制派からも嫌われ、「党内無所属」とも言える立ち位置にいた。

 一方、体制側を代表するようなクリントン氏は、「特権階級」への反感を一身に受け、私用メール問題を追及され「彼女を投獄しろ」という罵声を浴びた。ある男性有権者は「どちらがより『悪い』のか、判断する踏ん切りが本当に付かない。自分たちの政治状況が全く恥ずかしい」と語った。希望の一票を投じるというより、消去法の選挙だった。

 「焦土作戦」ともいわれた候補の激烈な非難の応酬で、国民の間にも険悪なムードが漂った。トランプ氏は10月末の選挙演説で、クリントン氏なら「6億5000万人」の移民を受け入れるかもしれないと真顔で言った。うそと即座に分かる主張で平然と相手を攻撃する異様な選挙戦だった。

 ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、クリントン氏支持者の6割近く、トランプ氏支持者の4割が、相手候補の支持者に敬意を払うのは難しいと答えている。

 「お互いに尊敬する良い点を一つ挙げてほしい」。10月9日にミズーリ州で開かれた大統領選の第2回討論会で、非難し合う両候補に男性有権者が最後に質問した。それまでのとげとげしい雰囲気が一瞬和らぎ、トランプ氏も「一つの国民として団結する時だ」と呼び掛けたが、今回の選挙で党派対立はまたひどくなった。残されたのは、国民和解という重い課題だ。