「かに道楽」 道頓堀vs愛知 商標権の法廷闘争、知名度がカギ

大阪・道頓堀にある巨大な動くカニ看板で知られるカニ料理専門店「かに道楽」が、東海地方で練り物商品「かに道楽」を販売している愛知県内の会社に対し、名称使用の差し止めを求めて大阪地裁に訴訟を起こした。愛知の会社は江戸期創業の老舗練り物店。「うちが先に使っていた」と譲らない。商標権をめぐる争いの行方は−。

 「かに道楽」のホームページ(HP)や訴状によると、道頓堀にカニ料理専門店「かに道楽」の第1号店がオープンしたのは昭和37年のこと。営業不振が続いていた前身の魚介料理店「千石船」で提供した「カニすき」が大ヒットしたのを機に、屋号を「かに道楽」に変更した。「『カニでもうけさせてもらったから、カニで思いっきり、道楽をしてみたい』と捨て身の覚悟と無謀ともいえる熱意」(HP)を込めた。

 ところが今年の年明けに、愛知県豊橋市の練り物会社「ヤマサちくわ」が「かに道楽」という名称のかまぼこを販売しているとの情報があった。同社は江戸期の創業。約190年にわたり、ちくわなどを製造してきた老舗だった。

 カニ料理専門店「かに道楽」は、昭和47年12月に名称の商標登録を出願、58年10月に登録されている。「かに道楽」側は書面でのやり取りで「今後、名前を使うのはやめて」と要望したが、練り物会社側は先に使っていたと譲らなかった。このため「かに道楽」は今年8月、提訴に踏み切った。

 訴状によると、「かまぼこ・かに道楽」は、東海地方で販売されている冬季限定の商品。表記も読み方も同じため、「かに道楽」側は商標権を侵害していると主張した。かに道楽と銘打った商品の製造や、他社とのコラボ商品も販売しており、「『かまぼこ・かに道楽』の販売は消費者や事業者に原告の商品もしくは原告とのコラボ商品との混同を生じさせる」とも訴えた。

 「『かに道楽』の著名性を考えると、被告に故意または過失があったことは確実だ」とし、名称使用に対して練り物会社から受け取るべき金額は「売上高の5%はくだらない」と指摘。販売価格600円(税抜き)の年間販売個数を約5千個と試算して、過去3年間の損害賠償45万円の支払いも請求した。

 一方、練り物会社側は9月に大阪地裁で開かれた訴訟の第1回口頭弁論で請求棄却を求めた。訴訟記録によると、練り物会社が「かまぼこ・かに道楽」の販売開始時期としたのは昭和45年2月。「かに道楽」側が商標登録を出願したときよりも2年早く、「商標法の先使用権を有する」と訴えたのだ。

 先使用権とは、商標権者の商標出願前から、同じような商標を使用しているなどの要件を満たせば引き続きその商標を使うことが認められる権利。練り物会社側は販売開始時期を裏付ける証拠として当時の社内報を提出した。そこには「本場北海のタラバガニで新製品『カニ道楽』発売」という記事が掲載され、「かねがね製造部において鋭意開発中であった『カニ』入り新製品が、ついに2月15日より発売のはこびとなった」などと記されていた。

 練り物会社側はさらに「商品を販売する地域は東海4県(愛知、岐阜、三重、静岡)であるが、この地域で原告の商品が販売されているのをみたことはない」と主張した。

 知的財産制度に詳しい大阪工業大学大学院の大塚理彦教授は「先使用権をめぐる争いは少なくないが、単に先に使っていたというだけで認められるものではない」と指摘する。大塚教授によると、例えばA社が昔から使っているロゴマークを、B社が後から商標登録の出願をした場合、A社の先使用権が認められる。この際、重要なのは「そこそこ有名だった」(大塚教授)という周知性だ。

 今回の訴訟に当てはめると、「かまぼこ・かに道楽」の販売時期が昭和45年だったと仮定して先使用権が認定されるには、同47年に「かに道楽」側が商標登録の出願をした時点で「かまぼこ・かに道楽」がどこまで周知されていたかがポイントになる。大塚教授は「過去の判例からみても、1つの県内だけでなく、隣接するいくつかの県にまたがって『大体知られている』ぐらいじゃないといけない」と話している。

 「かに道楽」では35年前にも、そっくりの動くカニ看板を使っていた飲食チェーンと法廷闘争に発展。平成元年、飲食チェーン側が看板のカニを「かに道楽」と同じマツバガニではなく、タラバガニに変更することで和解が成立した。