現状は不動産バブルなのか 上半期融資が「バブル期」超え

日本銀行が2016年2月に導入した「マイナス金利」政策の影響で、不動産市場にバブル期を上回る資金が流入している。

日銀が11月16日に発表した「貸出先別貸出金」によると、銀行や信用金庫の不動産業向けの新規融資は2016年4〜9月期(上半期)に、前年同期比14.7%増の7兆706億円に達した。バブル期の1989年上半期の5兆5669億円を超え、上半期としては過去最高を記録した。

REITへの資金流入、「過剰ではない」

不動産業者や不動産に投資するファンドなどが、銀行から積極的にお金を借りている。日銀によると、2016年上半期の不動産業向け新規融資は、都市銀行や地方銀行など(139行)が16.8%増の5兆8943億円、信用金庫(265金庫)が5.4%増の1兆1763億円だった。合計の7兆706億円は前年同期比14.7%増で、上半期としては過去最高。日銀は「不動産業向け融資は下半期にかけて伸びていく傾向があります」と話し、通期でもバブル期に記録した過去最高(1989年度の約12兆円)を更新する可能性があるとみている。

2020年の東京五輪・パラリンピックに向けた首都圏の再開発事業や不動産投資信託(J‐REIT)を含む、不動産ファンドに対する融資が伸びたほか、相続税の節税目的で賃貸アパートを建設する個人向けの融資が増えたこともある。

みずほ証券のチーフ不動産アナリスト、石澤卓志氏は「銀行は、企業向けの新規貸し出しが伸び悩んでいることから、日銀のマイナス金利政策を背景とした低金利環境の影響で、資金需要が旺盛な不動産業を有望な貸出先としてみています。加えて、個人の住宅ローンも堅調です」と話す。

それにしても気になるのが、現状が「バブル」なのかどうか、だ。1986〜92年ごろのバブル全盛の時代には、大手銀行などの不動産向け融資の拡大が地価高騰を招いた。その崩壊で融資が不良債権化し、金融システムの不安につながった。「失われた20年」のはじまりだ。

今回、注目されているのは、J‐REITなどの不動産ファンド。銀行の貸出金利は低く、不動産ファンドにとっては投資物件の取得資金などを調達するには絶好の機会であることは間違いない。そこに銀行が群がる構図が、バブル期を彷彿とさせているようだ。

とはいえ、REITに詳しいアイビー総研の代表、関大介氏は「たしかにREIT向けの融資は伸びていますが、もともとREITには投資家からの資金も入っています。そのため、銀行からの借り入れもそれほど多くないですし、それもあって過剰に銀行の資金が流れ込んでいるようなことはありません」と話す。

みずほ証券の石澤氏も、「REITの中には、投資物件の購入を手控えているところもあります」と指摘。物件価格が高騰するなか、最近は投資に見合う物件を選別する傾向が高まり、かつてのバブル期のように物件を「買い漁る」ようなことは起きていないという。

「バブルとは言えない」

そうしたなか、「バブル再来」の兆しはあるのか――。前出のみずほ証券の石澤卓志氏は「個人的な見解」と断ったうえで、「現状は、バブルの状況に近づいてはいますが、バブルとは言えません」という。

不動産市況をみる場合、最近は賃貸物件の利回りを重視する傾向にある。「利回りが3.4%を下回ると採算がとりづらくなるといわれるなかで、東京・丸の内や大手町界隈は現行で3.5%程度。イレギュラーで高いところ、つまりバブルのところもありますが、全体的には落ち着いているといえます」と、石澤氏はその理由を説明する。

バブル全盛期には、転売目的の「イレギュラーな物件」が増えたことで不動産価格が高騰したが、最近はJ‐REITをはじめ、賃貸を目的とした不動産ファンドが多い。「(ファンドは)きちんと情報を公開していますし、銀行も貸出先の経営内容をしっかりみています。今のところ、バブルのような過熱感はありません」と話す。

また、アイビー総研の関大介氏は、「金融緩和政策で、REITは日銀も買っていますからね。不動産市場が崩れて困るのは日銀も同じです」と指摘。現状、全体的には「REITの財務状況に問題はありません」と話す。