大麻「町おこし」ご用心 厚労省「栽培許可、慎重に」

厚生労働省が大麻の栽培許可の申請に監視を強めている。栽培はしめ縄などの原料にする大麻草農家に限って認められているが、過疎に悩む自治体に「町おこしになる」と持ち掛けて新たに許可を得ようとする動きが各地で見られるためだ。10月には栽培業者が大麻を吸引していたことが判明して逮捕される事件も起き、同省は小冊子などで自治体に「甘言に乗らないで」と呼び掛けている。

 「麻栽培の伝統を復活させたい」。大麻取締法違反で今月起訴された上野俊彦被告(37)は2013年4月、こう訴えて鳥取県から許可を得て、同県智頭(ちづ)町で大麻草栽培を始めた。大麻は譲渡や所持が大麻取締法で禁じられているが、都道府県の許可があれば栽培できる。町も手続きに協力し、上野被告は大麻を加工した麻薬成分の入っていない炭や種子の油などを特産品として販売。事業は順調に見えた。

 しかし、現場には次第に乱用目的で人が集まるようになった。厚労省によると、被告は通常はフェンスで囲う畑を開放して草取りや刈り取りなどの体験ツアーを企画し、ネットで「大麻セラピー」と紹介されていたという。被告自身も栽培したものと別の大麻を所持した疑いで逮捕された。

 北海道東川町は昨秋、大麻草を建築資材やバイオ燃料、漢方原料などに活用したいと、民間団体と共同で地方創生の国家戦略特区の指定などを国に提案。しかし智頭町の事件を受け、東川町は「大麻吸引が目的だと誤解されてしまう」と、国との協議打ち切りを決めた。また、関西のある村の住民から「村が大麻を特産品にしようと動いているが、法律上問題ないのか」との相談が県に寄せられたこともあった。

 25日には、男女22人が長野県の山間部の集落に移住して大麻を違法栽培していたことが発覚。このケースは自治体が関与していない。

 厚労省は今月、「ご注意ください! 大麻栽培でまちおこし!?」と題した自治体向けパンフレットを作り、厳格な審査を求める通知も出した。「大麻栽培を大規模な産業として発展させた例はない」と指摘し、「もうかる」「無限の可能性がある」といった誘い文句に乗らないよう注意している。

 こうした監視強化に戸惑う人もいる。神社界や神職を養成する皇学館大などで作る「伊勢麻振興協会」(三重県伊勢市)は、国産の麻で神事を執り行おうと、今月末に県に栽培許可の申請を予定している。2年前から会員を栃木県鹿沼市の農家に派遣し、栽培技術を学んでいるという。

 同大教授の新田均理事は「事件はいい迷惑だ。薬物成分は厳しく取り締まられるべきだが、繊維としての大麻まで悪者にされたように感じる」とこぼす。

 ◇医療用の大麻 日本に存在せず

 大麻を巡っては、所持の罪で起訴された元俳優の高樹沙耶被告(53)が、今夏の参院選で「医療用大麻の解禁」を訴えていたことも話題になった。大麻はがんの痛みを和らげる目的で米国の一部の州で使われているが、日本に医療用の大麻は存在しない。

 既に国内ではモルヒネなどが医療用麻薬として承認されている。ただし処方される量は、米国の約15分の1。日赤医療センター(東京都渋谷区)の的場元弘・緩和ケア科部長は「麻薬使用は患者に抵抗感がある。吐き気などの副作用もあるので家族も反対する」と説明する。

 このため、安全性と有効性が確認されている今の医療用麻薬で十分だというのが、厚労省の見解だ。担当者は「大麻解禁の議論は時期尚早」と話す。

 国会でも取り上げられた。安倍晋三首相の妻昭恵さんは週刊誌のインタビューで「いまは大麻に興味がある」「もちろん吸うわけではありません。一つは医療用。もう一つは『祈とう用』」と発言。大西健介衆院議員(民進)が質問主意書で安倍首相の見解をただしたところ、政府は今月15日、「政治家個人または私人としての見解で、政府として答える立場にない」との答弁書を閣議決定した。