抗精神病薬 知的障害児の1割に処方…「自傷防止」

過剰投与、副作用の危険

 主に統合失調症の治療に使われる抗精神病薬が知的障害児の約1割に処方されていることが、医療経済研究機構などのチームが健康保険組合加入者162万人を対象に行った調査で分かった。人口に対する統合失調症患者の割合よりはるかに高く、うちほぼ半数で年300日分以上も薬が出ていた。チームは「大半は精神疾患がないケースとみられ、知的障害児の自傷行為や物を破壊するなどの行動を抑制するためだけに処方されている可能性が高い」と警鐘を鳴らす。

 チームは、健康保険組合の加入者162万人の診療報酬明細書(レセプト)のデータベースを使い、2012年4月〜13年3月に知的障害と診断された患者2035人(3〜17歳)を1年間追跡調査。その結果、抗精神病薬を期間内に1回でも使った人は12.5%いた。年齢別では、3〜5歳が3.7%▽6〜11歳が11%▽12〜14歳が19.5%▽15〜17歳が27%−−と、年齢が上がるほど処方割合が高くなっていた。

 また、2種類以上の薬が31日以上継続して処方される「多剤処方」の割合も年齢と共に増加していた。

 統合失調症患者は人口の0.3〜0.7%とされ、発症も10代後半から30代半ばが多い。患者の大半には抗精神病薬が処方されるという。

 知的障害児の行動障害の背景に精神疾患が認められない場合、世界精神医学会の指針では、まずは薬を使わず、環境整備と行動療法で対処するよう勧めている。抗精神病薬は興奮や不安を鎮めるが、長期服用により体重増加や糖代謝異常などの副作用があるほか、適切な療育が受けられない恐れも出てくる。

 チームの奥村泰之・同機構主任研究員(臨床疫学)は「国内でも指針を整備し、知的障害児に安易に抗精神病薬が処方されないようにすべきだ」と指摘する。