長時間労働 退社時刻を早めるだけでは減らせない

広告代理店大手の電通は、女性社員の過労自殺が労災認定された後、残業抑制策として、午後10時の社内一斉消灯を導入しました。多くの企業が長時間労働の抑制に取り組んでおり、退社時間を早める施策が一般的です。一方で、見過ごされがちなのが休憩時間です。社員が強制的に働かされた休憩時間の残業代を労働基準監督署から支払うよう命じられた会社の事例をもと、特定社会保険労務士の井寄奈美さんが、長時間労働の抑制を目指す際の注意点を解説します。

 ◇休憩を取れない社員に残業代支払いを命令

 長時間労働の抑制策には、電通のように定刻で一斉消灯する方法や、特定の曜日をノー残業デーとする方法があります。

 そうした企業では、社員は定刻に会社から退出せざるを得ません。多くの仕事を抱えている社員が早朝出勤をしたり、休憩時間を取らずに働いたりしているケースもあるようです。

 労働基準法は、休憩時間の付与を義務付けています。労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、労働時間の途中に取ることとされています。

 休憩時間は、社員が自由に使うことができる時間です。社員が自分の意思で仕事をするのは自由ですが、仕事をせざるを得ない状況を会社が作り出して、社員が休憩を取れずに働く場合は、残業代の支払いが発生します。

 ある小売チェーン店の事例を紹介します。同社の営業時間は午前10時〜午後8時です。社員はシフト勤務で1日9時間半の拘束時間です。休憩は1時間半に設定されていました。1時間の昼休憩と30分の夕方休憩です。

 しかし現実には、社員が休憩を取ることができるようなシフトは組まれていませんでした。昼休憩には入れるものの、早めに切り上げざるを得ないことが大半でした。夕方休憩はほとんど取れていませんでした。

 現場には、「休憩を取るぐらいなら、一人でも多く接客をして売り上げを伸ばすべきだ」という雰囲気があったそうです。夕方休憩が取れないことについて、表立って不満の声を上げる社員はいませんでした。

 実は、会社の管理部門は、社員が夕方休憩を取れていない状況を知りませんでした。むしろ、常に休憩室にいるといううわさのある社員の実態を調べるために、休憩時間をタイムカードで管理すると発表したのです。

 すると、多くの社員が夕方休憩を取れていない実態がわかりました。管理部門はすばやく対応すべきでしたが、すぐには人員を補充できなかったため、現場の管理職に対処を求めただけで放置していました。

 そんなある日、労働基準監督署の調査が入りました。労基署は社員が休憩を取れていない実態を指摘し、その時間分の残業代支払いを命じたのです。

 ◇退社時間の管理だけが残業抑制ではない

 休憩時間の開始と終了をタイムカードに打刻させる会社は、そう多くありません。タイムカードがなければ、社員が「休憩も取らずに働いていた」と訴えても、その実態を確認するのは困難です。また、働いたことが社員の意思だったのか、あるいは働かざるを得なかったのかを判断するのも難しいでしょう。

 会社は、タイムカードなどで時間の特定ができないからといって、休憩時間も仕事をしなければならない状況を作り出してはなりません。残業代支払い義務が発生するだけでなく、社員の健康被害につながります。

 総労働時間短縮を目指す会社は、退社時刻を早める施策ばかりに目が行きがちです。しかし、社員が休憩時間を設定通りに取れているか、持ち帰り残業をしていないか、休日出勤が増えていないかなども併せて確認することが大切です。