デマや嘘ほど拡散される ネット健康情報の実態が明らかに

いま、ネット上の医療健康記事が大きな話題になっています。

DeNAが運営するWELQの騒動に端を発し、サイバーエージェントなどが運営するメディアでも医療分野の記事を中心に「問題がある可能性が見られた」として非公開化が進んでいると報道されています。

この問題について考えるうえで、とても参考になる研究が、つい最近発表されました。

「信頼のおける情報」と「デマ」どちらが拡散されるか?

研究を発表したのは、ウィスコンシン医科大学のメガ・シャルマ医師らの研究グループです。フェイスブックなどSNSを通じて、どのような医療健康記事や動画が拡散されやすいかを確かめようとした論文です。(論文名は末尾を参照)

注目したのは「ジカ熱」に関する記事や動画でした。

ジカ熱は蚊や性行為によって広がるウイルスを原因とした感染症で、去年から今年にかけて流行し、妊娠中の女性が感染すると出生異常の原因になるとして大きな話題になりました。

シャルマ医師らは、このジカ熱に関する記事や動画がフェイスブックでどのようにアクセス・拡散されているかを調べました。

その結果、もっともアクセス・拡散されている200の記事・動画のうち、81%は適切な情報源(CDC・アメリカ疾病管理予防センターなど)をもとに、正確な情報を伝えていました。

いっぽうで12%は、誤解を生む情報を伝えていました。例えば、「ジカ熱は発展途上国の人口削減のために利用されている」とか、「大企業によるでっちあげだ」というようなものです。

この結果を見ると、フェイスブックの情報の正確性はおおむね保たれているように思えます。

ところが「どのコンテンツが拡散されたか」を調べると、驚くべき実態が見えてきました。

「誤解を生むコンテンツ」ほど拡散されていた

調査の結果わかったのは、「誤解を生む」コンテンツのほうが、正確なコンテンツよりはるかに多く拡散されているということです。

調査した200のコンテンツの中で、もっとも拡散されていたのは「10 reasons why Zika virus fear is a fraudulent medical hoax(ジカウイルスの恐怖が不正なでっちあげである10の理由)」という、ジカ熱は大企業によるでっちあげであると主張する動画でした。研究によれば、この不確かな情報を含む動画はフェイスブック上で53万回以上再生され、19万6千人によってシェアされていました。

いっぽうで「正確」とされたコンテンツで最も拡散されたのは、WHO(世界保健機構)によるプレスリリースでした。ところがアクセス数は4万3千程度、シェアも964にすぎなかったといいます。

この結果についてシャルマ医師はCBSのインタビューに対し、次のように述べています。

多くのアメリカ人はネット上でニュースを得るようになっており、フェイスブックはなかでも有力なツールです。しかし、伝統的なメディアと異なり、フェイスブック上の医療健康情報は規制されておらず、疑似科学的な陰謀論は人気があり、したがって正確な情報よりも多くの人に届く傾向があります。

この傾向は、パンデミック(感染爆発)の際に有害になると考えられます。なぜなら感染を広げる原因となる行動やパニックを生み出す可能性があるからです。ジカ熱だけでなく、エボラ出血熱や新型インフルエンザ、鳥や豚インフルエンザでも同様です。

CBS NEWS 「On Facebook, the most popular health posts may be the least accurate」より。和訳・太字は筆者

「大統領選の教訓」は医療健康の分野にも

今年行われたアメリカ大統領選では、クリントン候補を誹謗中傷するような「根拠に基づかないニュース」(いわゆるフェイク・ニュース)がSNSを通じて広く拡散され、選挙の結果に一定の影響を与えたのではないかと指摘されています。

捏造記事が民主主義を壊すとき 増幅装置となったFacebook、そして政治家は沈黙する。(BuzzFeed News 11月23日)

BuzzFeedによる報道で、ヨーロッパの人口200万人ほどの小国・マケドニアの若者たちが、これらフェイク・ニュースを量産していたことが判明し、大きな話題になりました。

記事によれば、若者たちの動機は政治的なものではなく、「そのほうが儲かるから」だったそうです。

感情的・煽情的であればあるほど拡散され、よりアクセスが増える。その結果として広告収入を得ることができる。ある意味で「合理的」ともいえる考え方によって、「嘘」や「デマ」が量産され、SNSの手を経て拡散されていきました。

前段でご紹介した「ジカ熱」の研究結果は、医療健康分野においても、同様な事態が生まれる可能性を示しています。

実は上記のBuzzFeedの記事によれば、マケドニアの若者たちはいま「より稼げる」分野として健康分野に力を注いでいるということです。中には、月平均で100万ページビューを誇るものもあるそうです。

「儲かるから」というモラルハザードにどう備えるか

ここまで記してきた状況は、アメリカを含む海外の問題として、無視して良いものでしょうか?

個人的には、そうは思えません。程度の差こそあれ、今回話題になったWELQの記事が量産された根底には、「まずは儲けないと」という意識が全くなかったとは思えないからです。

感情的で、煽情的なものほど「気になる」ということ自体は人間の性であり、致し方ない面もあると思います。でも、せめて命や幸福に直結する医療・健康の情報では、丁寧で正確なものがもっと日の目を見るようにならなければと思います。

どうすれば良いのか。発信を生業とするひとりとして、1mmでもよりよい道を探っていかなければならないと痛感しました。