文房具メーカーは、知られざる優良企業だ

就職活動をする大学生なら、誰もが文房具を使っているだろう。しかし、文房具メーカーの名前を何社あげることができるだろうか。さらに、その会社の事業内容まで知っている就活生となると、ほとんどいないのではないか。

今回は就活生が企業を探すとき、身近でありながらアンテナに引っかからない、”灯台下暗し”ともいえる、「文房具」の優良企業を紹介したい。

■実は三菱鉛筆は「三菱グループ」でない

三菱鉛筆の名前はほとんどの就活生が知っているだろう。小学校に入る前から鉛筆を使って、中学生、高校生になると、「uni」ブランドのシャープペンシルやボールペンで勉強したのではないか。よく知っている企業だと感じる就活生は多いだろうが、「三菱」と社名にあるが、三菱財閥系列でない独立系の会社であることまでは、あまり知られていないかもしれない。

 矢野経済研究所の調べよると、日本の文具・事務用品市場は、2014年で4662億円。このうち、シャープペンは145億円、ボールペンは439億円だ。

 三菱鉛筆は文房具のトップ企業として国内展開するのにとどまらず、海外にも進出しており、海外売上高比率は約50%。さらに筆記用具で培ってきた「書く」技術を生かしてメーキャップ用具の製造も手掛けている。
また、鉛筆の芯を作る炭素の技術を生かして、カーボン電極材やカーボンスプリングなどを生産している。2015年3月期の連結売上高は637億円、本業の収益力をあらわす営業利益は118億円という優良企業だ。

 今回は、みんなが知っている三菱鉛筆だけでなく、普段から商品を使っているが、名前が知られていない優良企業を紹介したい。

 ものを貼り付けたいときに使う透明の「セロテープ」。使ったことがない就活生はいないだろう。では、これを作っている会社の名前を言える人は、どれだけいるだろうか? 

セロテープも絆創膏も売るニチバン

 セロハンテープのトップメーカーは、東証1部上場のニチバンだ。1918年に設立されたニチバンは、絆創膏、軟膏、膏肓(皮膚の塗り薬)の製造から始まったメーカーだ。

 1934年には鎮痛貼り薬を開発。1948年には、貼り付ける技術を生かしてセロテープを市販し、現在でもロングセラーとなっている。現在、セロハンテープの市場規模は80億円程度とみられるが、ニチバンはその6割以上のシェアを誇り、圧倒的なNo.1の地位を有している。

■あのFCバロセロナとスポンサー契約も

また、歴史に裏付けされた塗り薬の製造力とテープのノウハウを生かした絆創膏「ケアリーブ」は、高機能製品として高価格帯でも市場に受け入れられている。

 絆創膏市場全体ではシェア30%(業界2位。1位はジョンソン・エンド・ジョンソンのバンドエイド)を有している。テープ事業とメディカル事業を軸に、2016年3月期は連結売上高424億円、営業利益33億円を計上した。

 ニチバンは塗り薬の製造力と貼りつける技術を組み合わせた事業を今後も押し進める。中期事業計画では、創業100周年の節目である2018年3月期に売上高500億円、営業利益42億円の達成を目指しており、アジアや中東、ヨーロッパなどの海外市場での展開を強化する。

 海外で知名度を高めるために、2015年にサッカーのスペインリーグ名門「FCバルセロナ」とパートナーシップ(スポンサー)契約を締結した。

 人材育成にも積極的だ。2011年には人事部から、名称に「財」を使用した「人財開発部」を独立させた。経営として、社員を大事にする会社でありたいという意思を社内外に示したうえで、社員の節目に応じた階層別研修、自己啓発の促進を図った通信教育の費用援助、資格取得奨励金制度、Eラーニングシステムなどを通して、積極的に人材育成に取り組んでいる。

 さらに新入社員の育成にも熱心である。入社直後の研修から、配属後の先輩社員がトレーナーとしてつくOJT(On the Job Training=現場での育成)、入社半年後・2年目研修など、手厚い育成体制を構築している。

明治維新直後に創業のボンドメーカー

 筆者が「どんな人材に来てもらいたいと考えているか」と訪ねた際、堀田直人社長は、おとなしい従業員が多いとしたうえで、今後は「出る杭になるような元気な人材」に積極的に入ってほしい、と語っていた。

 2016年の社内報においても、堀田社長は「弾む心」をキーワードとして挙げている。地味でおとなしい社風の企業が、今後どのような展開を行うか注目だ。

■接着剤で圧倒的シェアを誇るコニシ

図工などの工作で木材を貼り付けるときに使う木工用接着剤「ボンド」。黄色いボンドの容器は誰もが知っているだろう。しかし、それを作っているメーカーの名前を言える就活生は少ないのではないか? 

 ボンドを作っているのが、東証1部のコニシである。富士総研によると、2013年の粘・接着剤の国内市場は2660億円。この市場でNo.1のメーカーだ。特に住関連用接着剤を得意としており、床用の接着剤では60%を超える圧倒的なシェアを持っている(市場規模約60億円のうち、コニシの売上高は約40億円)。

 コニシは1870年に製薬の製造販売を行う「小西屋」として創業、1912年から商社業務を本格的に開始した。商社として、多くの取引先や利用者のニーズに細かく対応してきたことから、住宅用や産業用、土木用などのさまざまな用途で、幅広い製品のラインナップを有している。この幅広い供給力は他社の追随を許さず、接着剤の総合トップメーカーの地位を支えている。

 コア事業である住関連用接着剤事業、化学品商社事業、そして、接着技術を応用した高速道路や学校、病院施設などの補修を行う土木建設工事事業を展開している。2016年3月期の連結売上高は1188億円、本業の収益をあらわす営業利益は63億円だ。

 2012年に社長となった横田隆氏のもと、自前での物流センターを設置するとともに、工場の製造能力を高める設備投資を行い、主力3事業を強化している。その結果、横田社長就任後の4年間で、連結売上高は15%増加(2012年3月期の1002億円から2016年3月期の1188億円へ)、営業利益は33%増加している(同47.7億円から同63.7億円)。

団塊世代退職で中途より新卒重視

 今後は主力の住宅用途で、リフォーム需要が高まると見込まれており、外壁・内装用途の接着剤が収益を牽引する。老朽化した道路設備や建物の補修も収益にプラスとなる。

 筆者が人員の状況について質問した際、横田社長は「社員の定着率が高く退職者が少ない」とコメントしている。社員にとって居心地のよい社風が窺われるが、それゆえ、団塊世代の社員構成が大きかった。ただ近年は、団塊世代社員の定年退職が進んだことから、社員数はバブル時代の1000人超から730人程度まで減少した。

 このような現状も踏まえ、横田社長は2016年11月の決算説明会で、今後の事業展開を支える人材採用・育成は、経営課題のひとつである旨のコメントをしている。

 人材採用・強化にあたっては、中途採用での補充よりも新卒採用社員を主体に、長期的な視野に立ち中期的なスパンで次世代を担う人材の育成を図る方針だ。これから新卒で就職する就活生にとっては、注目したい企業の採用姿勢といえるだろう。

■長い「歴史」を持った企業に注目せよ

今回紹介した、身近なトップの文房具メーカーは歴史ある企業だ。創設年では、三菱鉛筆が1887年、セロテープのニチバンが1918年、ボンドのコニシが1870年。長い年月の間には経済危機だけでなく、自然災害や戦争などもあったが、こうした苦難を乗り越えてきた。

 一見、ロングセラーとなっている、身近なNo.1商品にばかり目がいってしまうかもしれないが、歴史を創ってきた経営自体が評価される優良企業だ。就活生は、身近にある商品から、優れた企業を探してみてはどうだろうか。