東芝、巨額損失で原発再編は加速するか

キーマン、志賀会長はどう動く?

東芝が原子力事業で再び大きな危機を迎える可能性が出てきた。米原発子会社ウエスチングハウス(WH)が昨年末買収した原発サービス会社、CB&Iストーン・アンド・ウエブスター(S&W)について、買収に伴い1000億円単位の減損損失を計上する見通しを示した。今回の減損を機に国主導による原発プラントメーカーの再編が加速する可能性がある。

 今年、トップ交代に踏み切った東芝。その中で多くの関係者が違和感を覚える人事があった。原子力部門の責任者だった志賀重範副社長を会長に昇格させるもの。

 交代会見では、WHの損失開示姿勢ついて問題が指摘された志賀氏を会長に選任した理由について厳しい質問も飛んだ。
 
 小林喜光指名委員会委員長(三菱ケミカルホールディングス会長)は志賀氏を「原子力に知見と人脈がある。強い東芝になるには余人を持って代えがたい。原子力という国策的な事業には、外に向かっては『会長』という立場が適当だと判断した。ブランドイメージ向上にも取り組んでもらう」 と説明した。

 昨年11月にも原子力関連の減損リスクを公表した東芝。当時の室町正志社長は「適切なタイミングで積極的な情報開示をすべきだったと反省している。これまでの姿勢を改め、私自身が先頭に立ち情報開示を進めていく」と話していた。

 具体的な数字などを説明したのは志賀副社長(当時)だった。志賀氏こそWHのトップを務めたこともある原子力事業のキーマン。不正会計問題が発覚後、公の前で話すことはほとんどなかった。

 志賀氏は、これまで連結での減損損失の計上を見送った理由について「原子力事業全体としてはビジネスが順調に進んでいる。WH全体の時価も簿価を上回っている」と話した。今後の見通しについても「中国や米国でプラント建設が進む。廃炉などの新しいビジネスなども見込まれ、ビジネスは順調に拡大する」と楽観論を繰り返している。

 WHは15−29年度までの15年間で原発64基の受注などを目標に設定していることを明らかにし、これに基づき14年度の減損テスト(連結ベース)を実施したが、事業全体の価値は毀損されていないという。

 WHの買収以降、東芝とWHの経営陣の足並みがそろわないことが多く、WHの最高経営責任者が何度か交代。志賀氏はWH会長として長く米国に在住、一時、最高経営責任者(CEO)を兼務していたこともある。志賀氏の東芝会長への就任人事は業界再編への布石という見方もある。

 日立製作所、東芝、三菱重工業の3社は傘下の原発燃料事業会社を統合する方向で調整を進めている。今後は本丸の原子炉事業の統合へと歩を進めるのかが焦点だ。

 原発の炉型は大きく分けて二つ、沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)。長年、日立と東芝はBWRを手がけ米ゼネラル・エレクトリック(GE)との関係が深く、三菱重工はPWRでWHと協力関係にあった。

 ねじれが起きたのは2006年の東芝によるWHの買収。WHに近い三菱重工も買収に名乗りを上げていたが、当時の社長だった西田厚聰氏の大号令の元、6000億円を超える金額を提示し強奪した。「B」と「P」の二つの炉型を手に入れ事業拡大路線に突っ走る東芝に対し、三菱重工の経営陣は感情的なしこりを持ち続けることになる。

 東芝のWH買収をきっかけに日立はGEと合弁を組み、三菱重工は仏アレバと関係を強めることになった。その後、日立と三菱重工は火力設備事業を統合。「次は原発」という報道もメディアであふれたが、そこは簡単ではない。炉型が違うため、それぞれが持つ技術シナジーを出しにくく、また海外のパートナーともなかなか縁も切りにくいのが実情だ。

 国内の新設受注が事実上不可になり、日立や東芝は海外に活路を見出す。日立は英国の原発事業会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を約900億円で買収。最大で4―6基の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を建設する予定。2020年代前半の稼働を予定している。東芝も英国案件ではホライズンを本命にしていたが、日立に奪われたため代わりに原発事業会社「ニュージェン」に出資した。

 国内メーカーの関係でいえば、東芝が経営再建の過程で「WHを自社に残した上で、BWR事業を日立と統合するのが最も理にかなっている」(電機セクターアナリスト)。ただ日立と東芝は長くライバル関係にあり、「特に電力部門は水と油」(日立幹部OB)と言われている。

東芝の不正会計問題の引き金は財務状況に目をつぶったWHの無謀な買収だったという声は多い。危機の東芝にあって面子どころではない。

 WH買収を決断した西田元社長、原子力部門出身の佐々木則夫元社長はもう会社にいない。日立は志賀氏ら東芝の首脳と原発について意見交換しているが、「東芝の腰が重い」(日立幹部)ため、なかなか前に進めないでいる。今回の減損は、東芝が原発事業を抜本的に見直す最後通牒になるだろう。