キタムラが「大量閉店」を決めた本当の理由

1月中旬、ネットニュースの報道を皮切りに、大手新聞メディアも「写真専門チェーン最大手のキタムラが大量閉店に追い込まれている」と書き立てた。

 1月中に21店舗、2月中に1店舗の合計22店を一気に閉店するとの内容だが、理由として各媒体が報じたのは総務省のスマートフォン販売規制による影響だった。総務省は昨年4月、「実質ゼロ円販売」(2年間の利用を前提に端末代金と同額の料金を値引きする)や高額キャシュバックなどを禁止するガイドラインを発表し、各社を指導している。この影響でスマホ販売が低迷し、キタムラの大量閉店につながったというものだ。

 だが、同社はスマホ販売のほかにもカメラ販売、年賀状印刷、写真プリント、写真スタジオなど幅広い事業を手掛けている。スマホ販売の低迷だけが店舗閉店の理由だろうか。真相を探った。

■毎年、店舗の整理や統合は進めている

 2016年9月末時点で「カメラのキタムラ」は850店ある。1月中に閉店するのは郊外を中心に21店舗。2月は1店舗の閉店が決定しているが、まだ増える可能性もあるという。2016年度は4〜12月までに14店閉店しており、合計36店の閉店となる予定だ。

 1月に閉店する21店のうち、約3分の1はイオングループ内にある店舗で、定期借地権の期間終了によるものが多い。「赤字店または今後採算の改善が見込めない店舗を中心に撤退した」と、取締役管理部長の菅原孝行氏は説明する。

 1月までの新規出店数5に対して、36店の閉店は確かに多いように映る。だが同社は毎年、店舗の整理・統合を進めており、今回がそれほど突出して多いというわけではないのだ。実際、2015年度は閉店23(出店8)、2014年度は閉店19(出店5)、2013年度は閉店20(出店2)、2012年度は実に閉店53店(出店7)だ。

デジカメ販売の調子は?

 キタムラは写真館の「スタジオマリオ」やアップル製品の修理などを行う「Apple正規サービスプロバイダ認定店」などの店舗を拡大させる一方で、カメラのキタムラ内にそれらの店舗を併設する「複合型店」の出店も推進してきた。店舗のスクラップ&ビルドは従来から「戦略の一環として実施している」(菅原氏)のだ。

 スマホ販売についてはIR資料で「総務省のタスクフォース(規制を決めた会議のこと)の影響で販売数が減少した」と明記されている。菅原氏も「販売台数や売り上げは非開示だが、確かに減少はしている」と認めるが、「それを理由に店舗を閉めたということではない」と断言する。

 それでは一体何が原因なのだろうか。

■デジカメ苦戦も要因のひとつに

 理由の一つとして考えられるのは、売上高の約半分を占める「ハード部門」の低迷だ。ハード部門とは、店舗におけるスマホ、デジカメ、中古カメラの販売を含む中核部門の一つだ。

 2016年4〜9月期のハード部門の売上高は、前年同期比2割減の271億円。特にデジカメの落ち込みが顕著で、販売台数は同21%減の21.2万台だった。内訳を見ると、一眼ミラーレスは同10%減の10.9万台だが、コンパクトデジカメは熊本地震の影響でメーカーの生産・出荷が遅れ、同30%減の10.2万台に沈んだ。

 デジカメ販売が軟調なのは、スマホ搭載カメラが高機能化している影響が大きい。写真は保存されるよりも、スマホで撮影してSNSなどで共有する人が増えているからだ。さらに痛いことに、インバウンド需要も特に都心部で一服感が見られ、店舗での「爆買い」の動きも鳴りを潜めている。こうした要素がデジカメの販売台数減につながっている。

写真プリントはどうか?

 ただし、ハード部門は規模こそ大きいものの、利益率は高くはない。むしろ利益面で影響を与えるのが、デジカメプリントや証明写真、七五三撮影、年賀状などのプリントで構成される「イメージング部門」だ。キタムラは現在、デジカメ・スマホからの写真プリントや、スタジオマリオでの七五三撮影など、プリント枚数の底上げを目標に据えている。

 2015年度には約32億円を投じて827店でフォトブックなど写真作りができる「photo+(フォトプラス)コーナー」を新設。店頭やネットで注文し、プリント写真やアルバムを楽しむ流れを作る取り組みだった。こうした改革によって、今上期のフォトブックや証明写真の売上高は前年同期を上回ったが、デジカメやフィルムのプリントは前年割れとなり、イメージング部門全体も前年同期比2.5%減の166億円となった。店舗改革の成果が十分に発揮されているとは言い難い。

 こうして見ていくと、今回の大量閉店の背景には、スマホ販売の不振という要素はあるものの、従来から進めてきたスクラップ&ビルドの戦略、デジカメの低調、さらには店頭やネット経由でのプリント販売枚数の減少など、複合的な要素がからんでいるといえそうだ。

■年賀状商戦の結果はどうか? 

 今後の最大のポイントは、2月に発表される第3四半期決算で明らかになる収益柱「年賀状商戦」の結果だ。キタムラは、スマホやタブレット経由で年賀状の注文をしやすくするために複数のアプリを開発したり、上質感を意識したデザインの「キタムラオリジナルプレミアム年賀状」を販売したり、あの手この手で年賀状印刷の魅力を高め、6800万枚(前年比1.3%増)の獲得を目指していた。

 前述の菅原氏は「年賀状はそれほど心配していない」と話すにとどめるが、年賀状商戦の結果次第では、さらに店舗の統廃合を加速させる要素が出てくるかもしれない。なにしろ、日本郵便の発表では、年賀状の発行枚数は2008年から8年連続で減少し、受注枚数増を続けるのは至難の業だ。同社としても年賀状頼みのビジネスモデルから早期に脱却する必要が出てくるだろう。

 東洋経済「会社四季報」の業績予想では、2017年3月期の売上高は1600億円(会社予想1668億円)、営業利益が10億円(会社予想14億円)といずれも、会社予想よりも減額している。デジカメやスマホ販売の台数減の影響が大きく、スタジオマリオの改修費も見込んでいるからだ。さらに、例年よりも店舗撤退が多くなれば、売上高の減少は必至。通期の決算はさらに厳しいものとなる可能性はある。

 スマホ、デジカメ、年賀状…。主力商材を巡る環境が厳しくなる中、どう改革を進めるのか。キタムラはまさに今、正念場を迎えている。