金正男氏殺害 オウム中川死刑囚「あれはVX」発表前に

VX襲撃事件関与 獄中から米国の毒物学者に手紙出す

 【クアラルンプール岸達也】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏(45)の殺害事件で、1990年代に猛毒のVXで殺人事件などを起こしたオウム真理教の元幹部、中川智正死刑囚(54)が、マレーシア警察によるVX検出の発表(24日)前に、正男氏がVXで襲撃された可能性に言及する手紙を獄中から米国の毒物学者に出していた。学者は「彼の経験が事件解明に役立つのではないか」としている。

 中川死刑囚は地下鉄サリン事件や教団による3件のVX襲撃事件に関わったとして死刑が確定し、東京拘置所に収監されている。日本の公安関係者などによると、VXで人を襲撃した事件はこれまでオウム教団が起こした事件以外には明確に確認されていない。

 中川死刑囚が手紙を送った相手は、毒物研究の世界的権威で中川死刑囚の特別面会人として面会を続けてきた米コロラド州立大のアンソニー・トゥー名誉教授(86)。手紙は22日に書かれ、添付メールで手紙を24日に受け取った。

 トゥー氏によると、中川死刑囚は手紙で正男氏が目の痛みを訴えたとする報道に注目し、「目にVXを付着させたのであれば、痛みは当然。症状が早く出て空港内で亡くなってもおかしくない」と指摘。教団の事件を踏まえ「発症までに1〜2時間はかかっていた」と言及した。

 正男氏の口のまわりに泡のようなものが付着していたとの報道についても「VXは気道の分泌物を増加させますので、VXの症状と考えて矛盾はありません」と指摘。「VXは猛毒と言われますがサリンと比較すると気化しないので取り扱いは容易。私がVXを取り扱う際には長袖の普通の服に手袋をつけただけでした」と振り返っている。

 中川死刑囚は、誤ってVXを自分の手に付着させ、解毒剤の注射を受けたことを公判で明かすなど、毒性を身をもって知る一人だ。トゥー氏は取材に「突然の手紙で驚いた。マレーシア警察の正式発表前に、彼は症状からVXを予想していた」と話した。

 ◇オウム真理教のVX襲撃事件

 1994年12月〜95年1月、警察のスパイと疑った男性会社員を殺害し、信者脱会を手助けしていた「オウム真理教家族の会」会長の永岡弘行さんら2人に重傷を負わせた計3件の殺人・殺人未遂事件。元医師の中川死刑囚は松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の主治医で、VX事件では実行メンバーに中毒症状が出た際の治療役だった。