大不安「老後の蓄え0円」でも食っていく術

■老後のお金の不安 「一発解消」の妙案?

退職すると収入がなくなる(もしくは減る)わけですが、生活するためのお金は毎月出ていきます。貯蓄や年金だけでやっていけるのだろうか……。そういった不安は、皆さんお持ちだと思います。老後までに「3000万円用意しよう」といった特集や記事がメディアでよく取り上げられていますよね。

ただ、こういったお話のほとんどは「老後は一切働かない」という前提に立っています。実は、老後のお金にまつわる不安は、仕事をすることで解消されることが多いのです。

▼稼ぐのは月5万〜8万円程度 、バリバリ働く必要はない

定年後も仕事をしなくてはならないのか……と落ち込む方もいらっしゃるかもしれません。しかし、人によっては現役時代のようにバリバリ働く必要はありません(もちろん働きたい方は働くと良いのですが)。65歳からは年金を受け取れますので、そこから毎月の赤字分を補填できるだけの分を稼げれば良いからです。

年金の受給額でよく例に挙げられる「平均的な男性の賃金で40年間厚生年金に加入した夫と40年間専業主婦の妻」という設定ですと、受け取る公的年金の額は夫婦合わせて月22万〜23万円です。

仮に、年金以外に収入がなく生活費に毎月30万円かかる夫婦であれば、月に7万〜8万円の赤字が出ていることになります。視点を変えると、月に7万〜8万円の収入があれば家計の赤字はなくなるのです(*平成27年の「家計調査報告」によれば、高齢夫婦無職世帯の1カ月の支出は約28万円。この数字を元にすると赤字は月5万〜6万円という計算に)。

「生活費の不足分のみ働く」と、割り切る

定年後の転職や再就職はなかなか想像がつかないと思いますが、1カ月に最大8万円稼げる仕事で充分。そう考えれば、ぐっとハードルが下がりませんか?(そして、現役時代になんとしてでも数千万貯めなければいけないというプレッシャーから少し解放されます)。

自分たちの生活を維持するための仕事ですので、何も嫌な仕事を選ぶ必要はありません。現役時代よりも、金額も働き方もより自由に自分本位でやりたい仕事を選べば良いのです。

シニア層の働き方は主に、次のような選択肢が考えられます。

・定年後も継続雇用(正社員)で働く
・定年後に一時退職し契約社員(再雇用)になる
・再就職(転職)する
・派遣・パート・嘱託・アルバイトをする(人材派遣会社・ハローワークなどを活用)
・独立起業(自営)する
・シルバー人材センターで働く……。

収入レベルはケース・バイ・ケースですが、ちなみに公益法人全国シルバー人材センター事業協会のサイト(http://www.zsjc.or.jp/index)によれば、「一定した収入保障はありませんが、全国平均で月8〜10日就業した場合、月額3万〜5万円程度になります」とのことです。

同協会に登録している会員がどんな仕事をしているかといえば(平成26年度の場合72 万人の会員が 3050 億円分の仕事をした)、「シルバー農園作業・屋内外清掃など」「施設管理・空き家管理など」「家事援助および子育て支援サービスなど」「販売員・店番・集金など」となっています。

「老後の適職」探しの方法、教えます

とはいえ、自分本位でやりたい仕事を選ぶ……言葉にすることは簡単ですが、自分が何をしたいか、どんな仕事が向いているのか、はっきりと答えられる方は少ないかもしれません。

自分自身を理解するためには、第三者的な観点があると便利です。下の図は、アメリカの行動心理学者のウィリアム・ムートン・マーストン博士が作ったDiSCという自己分析ツールを基にした分類です。

縦軸は行動のペースです。上にいくほどペースが早く、下へいくほどゆっくりです。横軸は人間関係に対する態度で、右にいくほど開放的で人付き合いが多く、左にいくほど抑制的で、人を巻き込むよりも1人で仕事をするのが好きなタイプです。

イメージしやすいように動物に例え、それぞれのタイプの特徴をいくつか挙げています。あなたはどの動物にあてはまりそうですか?

【くまタイプ】
◇自分の意見ははっきり言う方だ
◇即決することが多い
◇部下からの頼みごとは断れない
「くま」は、自分が優位にたって主導権を持ちたいタイプです。
経営者や自営業者などにぴったりで、自己の価値を高く評価しており、仕事中心で成果主義の傾向があります。

【ねこタイプ】
◇定番ではないものをよく選ぶ
◇行き当たりばったりになることが多い
◇買い物が好きで多趣味である
「ねこ」は、楽観的です。
早急に成果を出したい点では「くま」と同じですが、「くま」との違いは、なんとか「なる」と考えるところ。「くま」は自分の努力でなんとか「する」のですが、「ねこ」は楽観的なのでなんとか「なる」と思う傾向が強いでしょう。
社交的で、人から褒めらるのが好きですが、褒められないとしょげてしまいます。自営業者や芸術家など自由な働き方ができる仕事が向いています。

【いぬタイプ】
◇競争を好まない
◇人に譲ることが多い
◇すぐに謝ってしまう
「いぬ」はゆっくり、おっとりしていて、チームプレイに向いています。
我慢強く、慣例や前例に倣うことを好み、現状を維持して波風をたてることは避けたいタイプです。金融機関に勤めている方にはこのタイプが多いようです。

【ねずみタイプ】
◇1日の予定は決めておきたい
◇細かいところが気になる
◇予期せぬことが起きることを恐れている
「ねずみ」は、正確さ、論理的な整合性にこだわります。
自制心があり、コツコツと頑張りますが、自分のやり方を批判されることを恐れる傾向があります。また、仕事の質の向上にこだわり、完璧主義な傾向が強いでしょう。

40、50代から「定年後の仕事」を探す

4つの動物のどれかに、完全にあてはまるとは限りません。くま系ねこタイプ、など2つ以上にあてはまることもあります。

自分のタイプと今の仕事は合っていますでしょうか。

たとえば、本来はチームプレイが好きでおっとりした「いぬ」タイプの人が、ひとりでパソコンに向かってコツコツ根気のいる作業をしているとしたら(ねずみタイプの人が向いているような)、仕事をしている間は自分の本来の性格を矯正しながら頑張っているのかもしれません。

ちなみに私は「ねこ」タイプです。

団体行動が苦手なので、会社には勤めず、ひとりで仕事をしています。決断は早い方ですが、くま(経営者)タイプでもありませんので、人をまとめるのは不得意です。

▼自分の隠れた強みや好きなことを把握

65歳以降の仕事は年金を受給できるので、賃金にこだわる必要はない場合が多いでしょう。自分のタイプにあった(自分の個性を発揮できるような)仕事を選ぶとより楽しい老後を送れるのではないでしょうか。

いい年して、あくせく働きたくない。そんな向きも少なくないでしょう。

ただ、退職後にやることもなく家にいると、無気力になってしまい、心身ともに調子が悪くなってしまうケースもあるようです。体や頭を動かすことで健康を維持しやすくなりますし、周りの人とのつながりも生まれます。自宅で資産運用をして運用益を目指すという人もいるでしょうが、やはり運動不足や人とのつながりの面において不安が残ります。

そう考えていくと、40、50代のうちから、自分が好きなこと、得意なことは何だろう、と考える時間を持ったり、そのためにいろいろなチャレンジをしてみたりするといいのではないかと思います。

たとえば「大好きで得意なことだけれど、あまりお金にならないこと」が見つかったらチャンスかもしれません。儲からない分、競争が少ない可能性があります。

1回の仕事で得られる収入は少なくても、積み重ねていくことで月々の赤字を埋められるような年収になるかもしれません。

また、自分の強みは、自分ではなかなか気づきにくいものです。

40〜50代のうちからいろいろな人、特に、社外の人と付き合うと良いかもしれません(勤め先の常識は社外では非常識、なんてこともありえます)。できるだけ大きな視点に立って、考えてみましょう。

なお、私の最新著『定年男子定年女子』(経済コラムニストの大江英樹氏との共著)には、本記事で触れた内容を含め、定年後に向けての経済的・メンタル的な「準備」のしかたを説明しています。よろしければご一読ください。