なぜ「ジープ」はアメ車で唯一売れているのか

「米国人は毎年何百万台も日本車を買っているのに、日本人がほとんどアメリカ車を買わないのは不公平だ」

ドナルド・トランプ米大統領は、選挙戦中から日米自動車貿易の不均衡を批判し続けている。日本の自動車市場は「先進国で最も閉鎖的」と言ってはばからない。実際2016年の新車販売全体のうち、輸入車(外国メーカー車)の割合は7.1%にとどまった。

■アメ車人気は低迷、フォードが撤退

 トランプ氏の不満は「アメ車」の低いシェアにも起因するといえる。日本の輸入車市場はドイツ系が圧倒的で、米国系ブランドの販売台数は2016年で1万台強。新車全体のわずか0.32%、輸入車の中でも4.5%を占めるのみだ。かつて7万台以上を販売していた頃の面影はもうない。こうした苦戦を受け、米大手のフォード・モーターは昨年末に日本から撤退した。

 一方、アメ車で唯一気を吐いているのが、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)のブランドの一角を成す「ジープ」だ。

 軍用車が発祥の4輪駆動SUV(スポーツ多目的車)で、7つのスロットグリルに象徴される独特の個性を持つブランドである。2016年の国内販売台数は過去最多の9392台(前年比31.6%増)を記録した。この5年では3倍の数になった。

 FCA日本法人は今年、この勢いを継続してジープの国内販売で初の1万台超えを狙う。従来は2019年までに1万台を達成する計画だったが、2年前倒しでの大台突破を目指す。

 フォードが日本から撤退したのは「投資に見合うリターンが見込めない」という理由だった。それとは対照的にジープの場合、FCA日本法人とディーラーが連携して積極的に店舗への投資を進めている。

全国で店舗改装が進む

 2014年には66店だったジープの販売店数は着実に増え、2017年3月9日時点で74店となった。今年中には80店に達する計画だ。新店の中には昨年末に開店した「ジープ甲府」のように、もともとフォード車を扱っていたディーラーが、ブランド撤退に伴いジープに鞍替えしたところもある。

 店舗数の拡大だけでなく、既存店舗への投資を怠らないことも販売を下支えしている。ジープの販売店はFCA日本法人が定めた新たなブランド方針に従って、2016年4月以降、従来白色だった外装を黒を基調としたデザインにするためタイルを張り替えるなど、店舗の改装を順次進めている。ただこれは店舗の老朽化対策ではない。

■ジープの販売店が”真っ黒”に

 ジープの販売店は従来、ジープだけではなく同じFCA傘下の「クライスラー」ブランドも併売していたので、店舗名は「クライスラー/ジープ世田谷」のように「クライスラー/ジープ」+「地名」であり、看板にもクライスラーとジープの両ブランドのロゴが掲げられていた。

 ところが昨年4月以降の新方針では、店の看板からクライスラーを外した。ジープに特化したイメージづくりを進め、販売のリソースもすべてジープに投入するという方向性を明確にした。

 複数の輸入車ブランドの販売店を運営するウイルプラスホールディングスの飯田陽二郎・管理部長は、こうした店舗リニューアルに必要な投資額について「最低でも5000万円」と話す。たとえば比較的小型店の「ジープ福岡西」は5740万円を投じて改装が行われたが、さらに大型の店舗になればそれよりも数千万円は高い投資金額を要する。

 2017年中には80店すべてのジープディーラーが新方針に沿った店舗へと改装する。全店舗合計で数十億円規模の投資であり、極めて「攻め」の姿勢が極めて強い計画だといえる。

 積極的な投資策に打って出ることができる背景には、ジープが高いブランド力を築きつつあるという要因がある。それを象徴するのが、ジープの中でも往年のベストセラーである「ラングラー」だ。昨年は約3500台を販売し、ジープ全体の4割弱を占めているが、実は2007年以降にフルモデルチェンジが行われていない。

「ラングラー」が人気の理由

 1941年の本国での発売以来、60年以上ラングラーは2ドアのみだったが、2007年の刷新で初めて4ドアが設定され、日本でも顧客層を広げることができた。モデルチェンジから年数が経つと販売が落ち込むのが自動車販売の通例だが、ラングラーは10年経っても人気が衰えていない。

 2016年度に全国で最も販売台数の多かった「ジープ世田谷」の桑原秀晴セールスマネージャーは、「ラングラー独特のデザインで、競合する車種が他ブランドにない」と人気の理由について分析する。独BMWの「X3」や独ポルシェの「マカン」などが同一車格のSUVだが、顧客がそれらの車種と比較検討してラングラーを選んでいるわけではなく、「指名買い」に近い感覚で選ばれる傾向がある。ちなみにラングラーの価格は396万円からで、X3やマカンよりも200万円以上安い。

■「ラングラー」が固定ファンを広げた

 根強いブランド力を背景に、「ラングラーは下取り価格も高い」(前出の桑原マネージャー)。結果的に、使い古したラングラーから新品のラングラーへ乗り換える顧客層を厚くすることになり、販売店が固定客を囲い込めるという好循環を生むに至っている。

 さらにジープは2015年秋、顧客層の拡大を狙い都市向けの小型SUV「レネゲード」を新たに投入。価格は297万円からと、ラングラーよりも100万円ほど廉価だ。2016年には約3000台が販売され、ラングラーに次ぐ人気車種となった。

 米国で6モデルが展開されているジープは、日本では5モデルが導入されており本国と車種数に大差はない。このように品ぞろえが充実しているのは、FCAがグローバルで販売を強化するブランドにジープを位置づけているからだ。

 同じFCA傘下のブランドでも、「ローカルブランド」に区分されるクライスラーやフィアットは日本に導入される車種が絞り込まれる。たとえばフィアットの場合、本国では19モデルもあるのに対して、日本での販売は4モデルと少ないという違いがある。

 大小に広がるラインナップの強みを基盤に、着々と日本市場を開拓するジープ。さらに数年以内にはラングラーをフルモデルチェンジするとうわさされており、日本でファンを獲得する余地はまだまだありそうだ。