スシロー、再上場で明らかになった「問題点」

回転ずし業態首位の「あきんどスシロー」を運営するスシローグローバルホールディングスは3月30日、東京証券取引所1部市場に再上場した。2009年に非上場となって以来、8年ぶりの市場復帰だ。

公開価格3600円に対し初値3430円と軟調なスタートになったが、公開時の時価総額は942億円で外食産業としては2014年のすかいらーく(再上場時の時価総額2330億円)以来の大型案件となった。

 「未上場だった8年間で成長力をつけることができた。今後、マーケットの評価につながるように、しっかりとした業績をお見せしていきたい」。同日行われた会見の席上、スシローグローバルHDの水留浩一社長は力強く語った。

 上場に伴い、筆頭株主である英投資ファンドのペルミラが所有する98.45%の株式のうち76%を売り出し、約8%分をJA全農や取引先企業が取得した。ただ、ペルミラは20%強の株式を保有する筆頭株主として、今後も経営に関与する。

■緻密な経営手法で業績向上

 スシローは長い間、経営体制が盤石ではない状態が続いた。2007年に創業家から株式を取得したゼンショーと対立。

 2008年に日系投資ファンドのユニゾン・キャピタルと資本提携を行い、翌年にはユニゾンが主導する形で上場廃止となった。

 ユニゾンは出口戦略として2012年にペルミラに株式を売却。結果的に、スシローはこの10年間で3回も筆頭株主が入れ替わったことになる。

 とはいえ、ペルミラが筆頭株主になり、コンサル出身で日本航空(JAL)の副社長やワールドの専務を経験した水留社長を招聘したことで、徐々に落ち着きを取り戻す。

 寿司はほぼ100円(税抜き)均一だったが、180円や280円の高額商品を加えた。また、デザートやラーメン、コーヒーといったサイドメニューも投入するなどメニューの多様化を図った。

出店戦略も精緻化

 “勘”だけに頼っていた出店施策についても、「ビジョンマップ」と称した戦略図を基に、地域ごとの需要や店舗収益予測を細かく検証する手法を採用し、精度を向上した。

 ペルミラの日本統括責任者で、スシローの社外取締役でもある藤井良太郎氏は現在のスシローについて、「顧客のニーズに合わせて様々な楽しみを提供できるようになった。新しいスシローへと進化することができた」と語る。

 数々の改革が奏功し、ペルミラ出資後のスシローの既存店売上は5期連続でプラス成長を保つ。つれて業績も好調で、前2016年9月期は売上収益1477億円(前期比8.5%増)、営業利益75億円(同9%増)。今2017年9月期も増収増益を見込む。

■脆弱な財務体質があらわに

 念願の市場復帰を果たしたスシローだが、再上場に伴い明らかになった問題がある。財務体質の脆弱性だ。

 再上場に先立って公表された有価証券届出書を見ると、「のれん資産」と「無形資産」(特にブランド)は計849億円と、総資産の7割近い額が計上されている。自己資本に対して3倍以上もの額である(2016年9月期)。 

 ペルミラが株式を取得する際にLBO(買収企業の資産や将来のキャッシュフローを見合いに金融融資を受けて買収資金を捻出する手法)を実施したため、それに伴って計上されたものだ。

 スシローHDはIFRS(国際会計基準)を採用しているため、毎期のれん償却費を計上することはないが、一方で厳しい減損テストが都度実施され、将来の十分な収益性が認められない場合は減損を計上しなければならない。つまり、同社は大きな減損リスクを抱えていることになる。

 社外取締役の藤井氏は「回転ずしは景気の変動を受けにくく、安定している業態だ。さらに店舗内のスタッフの動きをストップウォッチでチェックし作業改善を図るなど、収益向上へ不断の努力をしている。減損リスクは非常に低い」と語る。

 とはいえ、のれんや無形資産が巨額なだけに、今後の動向には留意する必要があるだろう。

 借入金も多い。ペルミラが株式を取得した際に計上した借入金が多くを占めるのだが、2016年9月期の借入金は532億円で、自己資本比率は20%に過ぎない。

 これに対し藤井氏は「キャッシュフローが潤沢に出る業態なので、十分に借入金を返済できると考えている」と説明する。EBITDA(利払い、税金、償却前利益)に対する負債の比率はかつておよそ4倍だったものが、現状3.5倍になった。中期的には2倍ぐらいを目指すようだ。

今後の成長戦略をどう描く?

 財務体質の改善の他にも課題はある。今後の成長戦略である。

 国内で約460店舗を構えるスシローは目下業界首位をひた走るものの、業界2位で斬新なサイドメニューを相次いで投入している「無添くら寿司」や、3位で積極出店を続ける「はま寿司」との競争は厳しさを増す一方だ。

 また、現在は回転ずし業界全体が安定的に成長しているが、やがて頭打ちになる懸念もある。

■問われる成長戦略

 海外展開も遅れている。昨年に米国店舗を閉鎖したことで、現在は韓国の6店舗のみ(2016年9月末時点)。米国で10店舗以上展開し、台湾でも積極出店を仕掛けているくら寿司に比べると、出遅れ感が否めない。

 そこで、スシローは国内では当面30店舗以上の出店を継続する方針だ。得意の郊外店はもちろんのこと、都心型店も強化する。昨年オープンし、連日にぎわいを見せる「南池袋店」をモデルに、この5月に五反田に新店を出す計画だ。

 アジア圏を中心に海外展開も積極化する。「東南アジアからの引き合いが多い。目下、人材の採用や現地調査を進めている」と、藤井氏は話す。

 ペルミラは20%強の株式保有を当面継続する意向だ。現在、スシローHDの取締役(社外取締役含む)9人のうち2人がペルミラからの派遣だが、この複数派遣も続けると見られる。水留社長も「当面は社長を継続したい」としている。

 今後は脆弱な財務体質を克服するような成長戦略が求められる。それはある意味、再上場という選択をしたスシローの背負う十字架でもあるのだ。同社の新たな戦いは始まったばかりだ。