亀田製菓が「柿の種198円」にこだわる理由

「ライバル企業はものすごい、びっくりするくらいの安売りをしている。亀田はブランド価値を守るため、売り上げではなく価格維持を最優先する」

価格は200グラムで税抜き198円

 亀田製菓の佐藤勇社長は、こう力強く語る。主力商品である「亀田の柿の種」の話だ。1966年の発売以来、老若男女に親しまれるロングセラーが2016年、値上げに踏み切ったのだ。

158円の商品を198円に値上げ 亀田製菓が「柿の種198円」にこだわる理由

JR東中野駅を降りて徒歩1分。「サミットストア 東中野店」の店内を見渡すと、什器の端のよく目立つ場所に、亀田の柿の種が置かれている。価格は200グラムで税抜き198円。西友のネットスーパーでも同じ価格だ。

 亀田の柿の種は定番商品であるがゆえに、従来はスーパーで安売りの目玉になることが多く、「驚きの158円!」「2袋で300円!」といった価格水準だった。

 亀田製菓は国内米菓で約3割というトップシェアを握る。ただ人口減少に伴い胃袋の数が減っていく日本では、これ以上の大幅な成長は見込みづらい。コメなど原料価格の上昇も採算を圧迫していた。

 一般論として、食品メーカーが出荷価格を値上げしても、実際の店頭価格に反映されない場合がある。最終的な価格の決定権はスーパーなど小売り側にあるためだ。ある菓子メーカー関係者は、「小売りは1円でも安く売ることで売り上げを伸ばしたいと考える。メーカーはとやかく言えない」と語る。

 亀田製菓は値上げの浸透を目指し、あるデータをはじき出した。外部の調査会社に分析を依頼した結果、消費者の購買意欲などを考えると「亀田の柿の種の適正価格は198円前後」だと判明。「価格が高すぎると買われないし、安すぎると品質を疑われる」(マーケティング部の鈴木智子マネージャー)。営業担当者は商談時に粘り強くこのデータを示し、少しずつ小売り側の理解を得ていった。

値上げの結果は?

 営業部隊の意識も変わった。佐藤社長が「売り上げより利益」という方針を示しただけでなく、営業支店長の評価基準も変更したためだ。以前は売り上げが大半を占めていたが、営業利益の占める割合を7割程度まで高めた。その結果、以前は「販売促進費をつぎ込んで値下げをしてでも売り上げを伸ばそうとしていた」(営業担当だった元社員)が、採算重視になり、無理に売り上げを追うことがなくなったという。

 一連の変化で、2016年9月末時点で柿の種ブランドの営業利益は前年同期に比べ約5%改善した。

売れ行きに響いても、198円は変えない 亀田製菓が「柿の種198円」にこだわる理由

だが、値上げによって売り上げの伸びにブレーキがかかった。「以前の安い価格に慣れていた消費者が離れてしまったようだ」(鈴木氏)。3月、亀田製菓は2016年度業績予想の下方修正を発表。従来予想比で売上高を3%、営業利益を6.7%引き下げた。柿の種の失速が、売上高の8割を占める国内米菓事業の足を引っ張った。

 それでも亀田製菓は“柿の種198円”にこだわり続ける。「店頭価格にブランドの価値は連動する」(鈴木氏)という考えのもと、値下げによるブランド価値の低下や採算悪化を避ける狙いだ。

 挽回を期すべく、塩分を30%カットした「減塩 亀田の柿の種」や、チョコ味やチーズ味の柿の種が入った「亀田の柿の種 トレイルミックス」など、派生品を次々と投入。2017年1〜3月の亀田の柿の種ブランド合計の売り上げは、金額ベースでようやく前年同期の水準を上回るようになってきた。

 とはいえ、派生品の積極投入は従来品の顧客を奪うリスクがある。定番化せずに終売となれば改廃コストもかさむ。亀田製菓は利益ある成長を続けられるか。本家本元である「亀田の柿の種」の復活に懸かっている。