山パンが「ランチパック」を増産する理由

人口減の中、26年ぶりの新工場に踏み切る

パンの国内シェア4割を握る最大手が、26年ぶりに新しい工場を稼働させる。

11月16日、山崎製パンは神戸市にパンの製造工場を新設すると発表した。食パン「ロイヤルブレッド」や菓子パン「ランチパック」、揚げパンなどを製造する。2018年3月に稼働する予定で、パンの製造工場としては1992年の松戸第二工場(千葉県)以来の新設となる。

人口減少が進む国内市場で、同社はなぜ新工場に踏み切ったのか。

千葉県市川市発祥の山崎製パンは、関東や東北など東日本を中心に発展してきた。神戸新工場が位置する西日本は、「東日本に比べてシェアが低く、伸びしろが大きい」(同社)。近年は西日本でも売り上げが拡大しており、一部の製品は名古屋や九州の工場から輸送するなどして補っていた。神戸市に新たな製造拠点を築くことで、供給の安定化と物流コストなどの削減を図る。

「時短」や「簡便志向」で需要拡大

食品市場が縮む中にあって、実はパンの消費額は増加傾向にある。総務省の家計調査によると2015年、パンの1世帯あたり1カ月の平均消費額は2499円と、2010年に比べ7・9%増えている(2人以上の世帯)。コメの消費額が2015年で1822円、同年比20%も落ち込んでいるのとは対照的だ。

パン需要の拡大は、食の洋風化だけではなく、「時短」や「簡便志向」も大きな要因と見られている。これまで炊事を担うことの多かった女性の社会進出や核家族化の進展で、コメをたいて食べる世帯が減少し、代わりに手軽に食べられるパンの人気が高まったというわけだ。

こうした変化は消費者の「買い方」にも現れている。山崎製パンによると、販路別では何と言ってもコンビニが牽引役。コンビニ各社の出店合戦に加え、ローソン向けのPB(プライベートブランド)の取引が増えた。さらに最近伸びているのがドラッグストア向けだ。ドラッグストアでは、パンをはじめとした加工食品が集客の目玉となる。

菓子パンは5年間で10%超増

山崎製パンの製品の中では、たまごやツナマヨネーズなどランチパックの総菜シリーズ、カレーパンなどの売り上げが特に好調で、これらの製品を含む「菓子パン」セグメントの売上高は2010年からの5年間で10%以上増えた。ロイヤルブレッドなど「食パン」セグメントも堅調だ。

もちろん、新工場決定の背景には社内的な要因もある。国内のトップメーカーとして順調に業績を伸ばしてきた山崎製パンは、2015年12月期にはじめて売上高が1兆円を突破。好採算の主力品を安売りせずに展開する戦略が奏功し、本業のもうけを示す営業利益も2ケタ増益が続く。

これまではパンの需要増に対して、既存工場の製造ラインを増設したり、他社工場を買い取り改修して対応。それぞれの投資規模は数十億円程度に過ぎなかった。今回、約200億円をかけた大型投資に踏み切るのは、財務体質が強固になったことに加え、次の成長戦略に向けた種まきという側面もある。

すでに「神戸新工場では増床や製造ラインの増設を視野に入れている」(同社)。ランチパックなどの増産により、山崎製パンは新たなステージに踏み出す。