日銀総裁、緩和縮小論を封印 与党注文「出口リスク喚起を」

日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は27日の記者会見で、物価上昇率について「2%に達するのは平成30年度ごろになる可能性が高いが、安定的に(2%を)超える時期はそれよりも後になる可能性が高い」と述べた。「異次元の金融緩和」の開始から5年目を迎えるが、緩和の「出口」(縮小)の道筋はまだ見えない。国債購入の限界論も意識されるなか、出口段階のリスクを喚起すべきだとの声も出てきている。(永田岳彦)

 「具体的なイメージを持って話すのは『時期尚早』だ」。黒田総裁は会見で、出口の議論に関して、これまでと同様の訴えをした。議論を開始する時期についても「2%目標の達成が始まりだ」とした。安倍晋三政権が目指すデフレからの脱却と経済再生に向けた「三本の矢」のうち、日銀が行ってきた大規模な金融緩和の「第1の矢」は評価されてきた。ただ、ここに来て与党からも出口の説明を求める声が出始めるなど、風向きは変わりつつある。

 19日公表の自民党行政改革推進本部の提言は、大規模な金融緩和が当面継続されるとしつつも「リスクを喚起し、適切な対応を日銀や関係府省庁に求める」とした。また、出口の段階で「毎年数兆円規模の損失が発生すると指摘されている」と警告。日銀に「出口戦略に伴うリスクの分析に関して、市場との対話をより一層円滑に行うことを求める」と注文をつけた。

 市場関係者らからも出口への関心が高まっている。大規模な金融緩和に限界が見え始めているためだ。日銀は年間80兆円をめどに国債の買い入れを行っており、3月20日時点で日銀が保有する国債は423兆円に達した。この1年間で約2割増加し、国債発行残高に占める保有比率も4割を超えている。

 「大規模な国債買い入れの持続可能性について疑念が抱かれている」(農林中金総合研究所の南武志氏)など、日銀が現行の金融緩和を続けると市中に出回る国債を買い尽くし、近い将来国債を買い入れることができなくなるとの見方は根強い。今回の展望リポートで、31年度の物価上昇率の見通しは、31年10月に予定されている消費税増税の影響を除いた数値で1・9%だった。朝鮮半島情勢の緊迫化や欧米で顕著な反グローバリズムの動きなど海外発のリスクも高まっており、30年度ごろとしている2%の物価目標達成時期には不透明感が漂う。

 「米連邦準備制度理事会(FRB)も出口戦略をかなり前に語ったが、現在行っている政策とは違うものだ」。黒田総裁は緩和縮小を進めるFRBを例に、現段階での出口戦略の議論を封印する考えも見せた。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「超金融緩和の継続で日銀は継続的な債務超過も避けられない状況に陥るリスクが高まっている」と指摘する。黒田総裁の任期は1年を切った。続投もささやかれるが、次期総裁への引き継ぎを視野に出口の道筋を示す責任を果たすときに来ている。