将来も食っていける職種・企業の「実名」

「職業に貴賤なし」とはいえ、職種・業種・企業によって収入の相場は大きく異なる。どの道を選べば、食いっぱぐれのない人生を歩めるのか?

■「職業に貴賤なし」だが、収入差はある

人工知能(AI)の進化で人間の仕事が奪われる、という指摘がある。近い将来、自動運転車やドローンが普及すれば、タクシーや配送の仕事は劇的に変わるだろう。医師や弁護士、証券アナリストなど知識を扱う仕事にも影響がある、という指摘もある。その一方、創造的で付加価値の高い仕事やコミュニケーション力の高さを求められる仕事は生き残るはずだ、という意見もある。

私は毎日のように企業の人事部に取材している。その際、「どんな人材であれば将来的に食いっぱぐれがないか」と聞くと、どんな業種であっても、みな口をそろえて「高い専門性と企画・提案力」、そして「相手を納得させるプレゼン・コミュニケーション力を兼ね備えたプロフェッショナル」だと答える。

そうした人材は専門知識を持ち、ルーティンワーク的な仕事でなくても臨機応変に対応できるという点で、AI時代が到来しても生き残れる可能性が高いと感じている。

▼なぜ、システムアナリストはガポガポ稼げるのか

ただ、私の感覚だけでは証拠にならない。そのため、転職情報サイト・マイナビの「2017年度版 職種別モデル年収平均ランキング」と、クチコミ情報サイト・Vokersの「上場企業の時給ランキング2017」という2つの調査結果から、将来、間違いなく生き残れる職種や業種とはどんなものか。そのヒントを探ってみたい。

●将来も稼げる職種 IT系1:システムアナリスト

マイナビ調査の「職種別年収ランキング」(図表1参照、以下同)では、この3月までに掲載された1年間の求人の「モデル年収例」から平均値を算出している。これをみると、上位50位内ではIT系の職種が多いことに気づく。調査対象の全350職種の中で1位は「システムアナリスト」で年収1100万円、2位は「システムエンジニア(アプリ設計/汎用機系)」で964万円だった。

IT系といっても、その職種は多岐にわたる。マイナビの区分でも、「システムアナリスト」「プログラマー」「システムエンジニア」「プロジェクトマネジャー」「ITアーキテクト」「プリセールス」「ITコンサルタント」などに分けられている。

またIT系の職種が勤務する企業も、基幹システム、Web・ゲーム、ネットワーク・通信、家電製品、携帯電話のシステム開発などさまざまだ。

■稼げるIT系は、時給換算で4620円!

職種別で年収1位だった「システムアナリスト」は、システムコンサルタントとも呼ばれ、ITシステムの戦略・立案を担当する。システム構築の工程では最上流の仕事だ。ITスキルだけでなく、頭脳をフル回転しないとやっていけない職種と言える。

以前、ある人材紹介会社のコンサルタントは、こう話していた。

「システムアナリストは、基幹システム分野において、企業のビジネスプランに基づいてどういうシステムにすれば実現できるかを企画し、提案するのが仕事です。そして、その仕事を実際に作り込んでいくのがプロジェクトマネジャー(PM)、プロジェクトリーダー(PL)、システムエンジニア(SE)、プログラマー(PG)です」

つまりシステムアナリストとは、創造力・企画力・提案力がなければ務まらない仕事と言える。たとえAI時代が到来しても、IT分野で人を使いこなす手腕はおそらく引く手あまただろう。よって、今後も高給取りの座に君臨する可能性は高そうだ。

▼稼げる・稼げないIT系 何が収入の多寡を決めるのか?

ただし、同じIT系の職種でも、工程の下流に近いシステム開発分野では、ゼネコン業界のような「大手の元請け会社と中小の下請け会社」という構造になっているため、同じ職種でも下請けの社員は元請けに比べると年収は3〜4割低くなるという。

こうした構造があるため、IT系企業だからといって年収が高いとは限らない。Vokers調査の「上場企業の時給ランキング」では、上位30社のうちIT系企業といえるのは21位の野村総合研究所だけだった(図表2参照)。同社はシステム開発では業界トップクラスの企業だ(時給4620円、平均年収1156万円)。いわば「大手の元請け会社」なので年収も高い。

■プレゼンテーション能力は「打ち出の小槌」

●将来も稼げる職種 IT系2:セキュリティコンサルタント

同じIT系でも、システム開発とは違う分野で注目度が高まっている職種がある。マイナビ調査の「職種別年収ランキング」で21位、663万円の「セキュリティコンサルタント」だ。

ITセキュリティに関しては、大きくコンサルタントとエンジニアの2種類に分けられる。セキュリティの観点から経営者や部門の責任者に企画・提案し、意志決定の支援を行うのがコンサルタントだ。サイバー攻撃が多発している現状を踏まえ、よりスピーディーに対応するために業種を問わずITセキュリティに詳しい人材を内部に抱え込む企業が増えている。

マイナビ調査ではセキュリティコンサルタントの平均年収は663万円だったが、私が最近取材したあるIT系企業では、20代後半から30歳前後のエンジニアで年収500万〜800万円程度、会社のセキュリティの責任者クラスになると35〜40歳前後で800万〜1500万円の範囲とのことだった。話を聞いた人事部社員によれば、「日本企業は1000万円が上限だが、外資系のシニアマネジャークラスは1500万円を超える人もいる」という。そういう意味で、ITのセキュリティコンサルタントは今後、給与面で伸びしろのある職種と言えるかもしれない。

●将来も稼げる職種:アセットマネジャー

将来有望な稼げる職種はIT系ばかりではない。ここで挙げたいのは、高い専門性を有し、さまざまな情報を分析しながら資産の運用を行う「アセットマネジャー(コンサルタント)」だ。マイナビ調査は10位で平均年収737万円だった。

彼らはファンドマネジャーとも呼ばれ、運用専業の投信・投資顧問会社、信託銀行、生損保会社に在籍し、日本に約2000人存在する(投資運用会社要覧)。投資信託や年金資産を預かり、内外の株式や債券をはじめ不動産、デリバティブなど多彩な商品を扱い、運用成績で評価される。

証券系投資顧問会社の元ファンドマネジャーはこう語る。

「扱い資産が50億円だと小さいなという印象。200億〜500億円だと普通のレベル。投資理論や運用哲学など基礎的素養に加えて、社内会議で自分が推奨する商品を入れてもらうにはプレゼンテーションの能力も要求される」

現役時代の報酬について、この元ファンドマネジャーはこう話す。

「30代前半のジュニアマネジャークラスで、ベース年収が900万〜1000万円、これに運用成績がよければ400万〜500万円のボーナスが上乗せされる。40〜45歳のシニアマネジャークラスになるとベース手年収で1300万〜2000万円、ボーナスを入れると2000万円は超えていた。外資系はボーナス込みで4000万〜5000万円の報酬を出すところもあった」

マイナビ調査のランキングによれば、平均年収は737万円とそれほど高くはないが、これはおそらく転職時のベースサラリーだと考えられる。

■AI時代到来でも、モノを売る仕事は生き残る

●将来も稼げる職種:不動産営業、営業・企画営業

「不動産営業」「営業・企画営業」などの営業職についても、私はすたれることはないと思う。契約を取り交わすうえで、最後の一押しとなるのは人間同士の信頼関係だからだ。

マイナビ調査では「不動産営業(コンサルタント)」が4位で870万円、「営業・企画営業(個人向け)」が8位で756万円だった。営業職は、商品提案やプレゼンテーションなどで顧客とのコミュニケーション力を求められる仕事だ。

とくに不動産業界は、現在の再開発ブームで絶好調である。優秀な営業職は個人業績に応じて高額のボーナスが支給される。AI時代になっても、不動産のような高額商品であれば、客が買うか買わないかは営業担当のマンパワーによるところが大きいに違いない。

●将来も稼げる職種:セールスエンジニア職

コミュニケーション力に加えて高度の商品知識が要求される「セールスエンジニア職」も上位にランクしている。12位の「セールスエンジニア 精密・医療用機器系」(729万円)を筆頭に、「セールスエンジニア 自動車・輸送用機器系」(626万円)などが目立つ。

▼会社の売買仲介という営業で時給7682円、平均年収2154万円

一方、Vokers 調査の「上場企業の時給ランキング」を見ても、制御・計測機器の営業職が数多く在籍するキーエンスが2位(時給:6548円、平均年収:1777万円)に輝いている。

また、時給ランキング1位のGCA(時給:7682円、平均年収:2154万円)は、M&Aアドバイザリー会社だが、代表的職種のM&Aコンサルタントは会社の売買の仲介をする仕事だけにコミュニケーション力は不可欠である。加えて、会社のヒト、モノ、カネなどの資産を精査するため、会計知識の専門性も要求される仕事だ。

■「時給の高い」大企業の社員は他社では通用しない?

●時給の高い上場企業はどの会社か?

さて、あらためてVokers調査の「上場企業の時給ランキング」をじっくりみてもらいたい(図表2)。このランキングは、平均年収を(標準労働時間+残業時間)で割って算出しており、上位であるほどコストパフォーマンスがいい企業だと言える。

業種にははっきりした傾向があるとはいえず、時給の高さの「理由」はひとことでは説明できない。しかし、「高い専門性と企画・提案力」、そして「相手を納得させるプレゼン・コミュニケーション力を兼ね備えたプロフェッショナル」が集まる企業であることは確かだろう。

ただし、総合商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅など)、製薬(第一三共、ステラス製薬、エーザイ、武田薬品工業など)、石油(国際石油開発帝石など)、海運など社員の年収(時給)がきわめて高い業界は、個々の社員のプロフェッショナル性というよりも、企業体としての総合力で利益を上げている。

▼専門性の高い職種なら、高給での転職も可能

IT系企業でははっきりした実力主義をとることが多いが、こうした大企業では総合力が求められるため、30代までは年収格差があまり生じない年功的な人事制度を持つことが多い。給与レベルがもともと高く、雇用も比較的安定しているが、さらに高い給与をもらうために出世するには、さまざまな職種を経験し、総合力を高めたうえで、はげしい昇進レースを勝ち抜いていく必要がある。

就職するにしろ転職するにしろ、職種のプロフェッショナル性が問われる会社を目指すのか、あるいは総合力重視の会社を選ぶのかは個人の自由だ。

だが、総合力重視の大企業の場合、その会社でつちかってきた経験は、他社ではまったく通用しないというリスクがある。一方、マイナビ調査が転職求人のモデル年収からランキングを算出していたように、専門性の高い職種であれば、高給での転職もやりやすい。

AI時代にどんな激動が起きるかはわからない。将来のキャリアを考えるうえで、こうした事実はおさえておくべきだろう。