日本人も突然退去で「難民」に…住民追い出し売り急ぐ 鬼城と化した「中国のロッテルダム」

北京や上海で「マンション難民」と呼ばれる現象が起きている。

 外国人向けマンションに住む日本人などが突然退去を求められ、次の物件探しに奔走しているのだ。

 北京で働く日本企業駐在員の男性(44)は6月初旬、3年間暮らした日本人家族向けマンションから引っ越した。昨年末、1年後に退去するように全160世帯が一方的に通告されていたためだ。

 外国人向け物件はどこも数十件の空室待ち。同僚が退去した部屋を何とか借りることができたが、家賃は月4千元(約6万5千円)の負担増となった。

 3年間生活したマンションは、日本の住宅総合メーカーが出資し1990年に開業したものの、2年前に資本撤退。「日本と同じような環境で、すごく住みやすかったのに…」と男性は残念がる。

 マンション側は老朽化した設備を全面改修するとしているが、その後について住民に明確な説明はない。「分譲の形で売り出すのでは」(日本の商社幹部)との見方が広がる。

 北京では昨年末、外国人向け住宅に住む約220世帯が3カ月後の退去を求められたケースもあり、そのビルは11億元(約180億円)で売却されたという。ほかにも売却が噂されるマンションは少なくない。

 外国人向けマンションのオーナーがビルの売却や分譲に走っているのは、賃貸経営に不利な税制改革に加え、不動産価格がピークを迎えているとの判断があるからだ。「ビル所有者の多くは今、高値で売り抜けたほうが利益が出ると考えている」と北京の不動産業者は解説する。北京市内では今年からオフィスの空室も増え始め、賃貸価格が下落している。

過熱する「炒房(住宅投機)」ブームにも暗い影がさし始めた。不動産バブルの抑制にむけて当局は金融引き締めに本腰を入れ、矢継ぎ早に対策を繰り出している。

 3月中旬、北京市では2件目の住宅購入などに対して60%以上の頭金支払いが課され、市内の中古住宅の取引量は3割未満まで冷え込んだ。北京周辺でも中古住宅の売買平均価格が3週間で1割超下落した地域が出ている。

 「確かに金融分野にはリスクがある」。李克強首相は6月27日、大連で開かれた経済フォーラムで、不動産市況の悪化が引き起こす混乱を念頭にこう強調した。「われわれにはシステム危機を起こさない能力がある」

巨大なビルは工事の足場が組まれたまま廃虚と化し、周辺道路は舗装が途中で放棄されていた。通り過ぎる人は一人もおらず、周囲は雑草が生い茂る荒れ地が広がる。

 河北省唐山市の臨海部を埋め立てた「曹妃甸(そうひでん)工業区」。6月上旬、商業エリアに建設が予定されていた住居・オフィス複合ビルを訪ねると、中国の典型的な「鬼城(ゴーストタウン)」と化していた。

胡錦濤前政権時代の2003年に開発が始まった曹妃甸工業区が目指したのは、上海をしのぐ港湾機能を擁する「中国のロッテルダム」だ。第11次5カ年計画(06〜10年)では環境重視型の工業団地として国家重点プロジェクトに位置付けられた。

 中国は日本企業進出用の専用区「中日唐山曹妃甸エコ工業パーク」も整備。10年には温家宝首相が当時の鳩山由紀夫首相との首脳会談で、自ら日本企業誘致への協力を要請するほど力を入れていた。

 しかし、曹妃甸への企業誘致は思惑通り進まなかった。過剰な投資が裏目に出て現在は1日あたり約1千万元(約1億6千万円)ともいわれる利払いに苦しむ。多くの投資プロジェクトが凍結されたままだ。総合商社の双日は08年、同工業区のインフラ整備を見込んで配水管用パイプの製造工場を建設したが、計画が滞る中で撤退を決めた。

 同パーク入り口の大型看板は何度か書き換えられた形跡があり、当初60平方キロの計画だった敷地面積は13・2平方キロに縮小されていた。現在操業している工場の多くが国内企業だ。

 日本の化粧品メーカーが出資した工場は稼働している様子がなく、周囲の人影もまばら。「歴史を鏡に未来に目を向け日中友好の花を咲かせよう」。工場の敷地近くには村山富市元首相が16年4月に揮毫(きごう)した記念碑が静かにたたずむ。ただ「日本企業が成功した事例はほとんど聞かない」(北京の日本企業関係者)のが実態だ。

 マンション区画も住民の姿は決して多くない。ただ政府系開発業者が建設した約1500戸はほぼ完売状態だという。20代の男性販売員が解説した。「ここの工場で働く人以外にも、北京など外地の人間が投機のために物件を買っている。何年も使っていないケースが多い」

 全国的な「炒房(住宅投機)」ブームを背景に流れ込んだ資金もあり、12年の売り出し時に1平方メートルあたり3千元足らずだった住宅の平均価格は、現在4千〜5千元に値上がりしているという。

 多くの企業誘致や開発計画が頓挫する中で、住宅販売だけが好調を維持している奇妙な現象。だが工業区全体の前途は多難だ。

今年4月、習近平指導部は曹妃甸の西約200キロの河北省雄県などに新都市「雄安新区」を建設すると発表した。北京への一極集中を避けるために「非首都機能」を移転し、「深セン経済特区や上海浦東新区に続く、全国的な意義を持つ新区」(習氏)をつくるとぶち上げたのだ。

 雄安新区は今年秋に任期の折り返しを迎える習氏の実績づくりの側面が大きい。一方、曹妃甸工業区を推進してきたのは、習派とライバル関係にある共産主義青年団(共青団)出身者グループをまとめる胡錦濤前国家主席だ。プロジェクトの優先順位が一層下がるのは想像に難くない。

 ただ雄安新区は水源不足の懸念もあり、立地への疑念は根強い。海外の華字メディアは、伝統的な風水を基に場所が選ばれたと報じて議論を呼んだ。

 ある中国人教授は声をひそめて言う。「政権のメンツをかけて雄安新区への投資を集中させるだろうが、指導者が変われば、“第2の曹妃甸”になりかねない」