化粧した女性はおしぼりで顔を拭くのはアウト? NGなおしぼり使用例

タオル地の木綿布をロール状に丸め、熱々や冷え冷えの状態で提供される飲食店のおしぼり。それを手にするたびに考えることがある。手だけでなく顔も拭けば爽快だろうな、と。ただ気が引ける。周りに「オジサン臭い」と不快感を与えないか。衛生的に大丈夫か―。こんな葛藤をするサラリーマンは少なくないはずだ。

 で、サラリーマンを代表して調べてみた。結論は「ノー・プロブレム」だ。全国おしぼり協同組合連合会(名古屋市)に聞くと、おしぼりの本来の目的は「顔や手の汚れを拭き取ってリフレッシュしてもらう」。厚生労働省の指導基準に沿って処理され、衛生的にも問題はないという。ただ、あくまで男性とすっぴんの女性に限った話。化粧した女性はどうも具合が悪いらしい。

おしぼりNG使用例は…

 一般的なおしぼりは、業者が飲食店などに供給し、使用済みを回収後に洗濯して再供給するリサイクル型のリース方式、いわゆる貸しおしぼり。連合会は、そうした業者団体でつくる全国組織だ。

 では、なぜ化粧した女性は具合が悪いのか。連合会によると、顔の皮脂汚れは回収後の洗濯で落ちるが、ファンデーションや口紅に含まれる顔料や合成油は落とせず、変色の原因に。通常、貸しおしぼり1本につき40〜50回は再利用されるが、変色したものは新品状態でも廃棄される。つまり、エコでなくなるわけだ。

 連合会が業者を通じて飲食店などに呼び掛けるNG使用例は(1)雑巾として使う(2)靴を拭く(3)割れたガラスを包む―。廃棄につながる事例として女性の化粧汚れはごく少数だとか。最も多いのは卓上にこぼれたコーヒーや醤油などの拭き取り跡。食事中の口元の油汚れは紙ナプキンなどを使った方がいいかもしれない。

最大のライバルは使い捨ての紙おしぼり

 ついでに、おしぼりに関するいろんな“トリビア”を聞いた。ルーツは平安時代。公家が客人を自宅に招く際、ぬれた布を提供したのが始まりという。江戸時代には「旅籠(はたご)」と呼ばれる宿屋が玄関に水を張ったおけと手ぬぐいを用意。旅籠を訪れた旅人は手ぬぐいを水に浸してしぼり、汚れた手足をぬぐう。この「しぼる」という行為が語源になったらしい。

 現在の貸しおしぼりが登場したのは高度経済成長期の1960年代。それまで各飲食店が自前のおしぼりを用意していたが、好景気を背景に客が急増して追いつかなくなり、専門業者や団体が生まれたそうだ。

 最大のライバルは使い捨ての紙おしぼり。30年ほど前から支持を広げているという。店が負担するコストは貸しおしぼりが1本7〜8円なのに対し、紙おしぼりは1本1円〜1円50銭。低コストを武器に押され気味ではあるが、貸しおしぼりは「ごみを出さず、地球環境にやさしい」とひるまない。

おもてなしの精神とエコ

 連合会幹部が続ける。

 「貸しおしぼりの文化や産業が根付くのは世界中で日本だけ。ヨーロッパにはフィンガーボウルで指を洗い、ナプキンで拭く習慣があるが、日本のおしぼりはその発展形といえる。文化を支えるのは、おもてなしの精神とエコ。2020年の東京五輪を機に、おしぼりを世界に発信できれば」

 飲食店で熱々のおしぼりを顔に当て、自分なりの発信方法をあれこれ考えつつ、タオル地の織り目の隙間からおしぼり文化の明日を透かし見ている。