ジビエ「夏鹿」じわり存在感 安定供給、質も向上

日本では冬に食すイメージが強いシカやイノシシなどの野生鳥獣肉「ジビエ」だが、夏場に流通するシカ肉が増え始めている。その名も「夏鹿(なつじか)」。農作物の食害を防ごうと捕獲頭数が年々増えているのを背景に、専用の食肉処理施設が増加し、処理マニュアルも整ってきた。新鮮で良質な肉が流通するようになり、これまで口にしなかった消費者も、おいしい料理に引き寄せられているようだ。

兵庫県篠山市のホテル「篠山城下町ホテルNIPPONIA(ニッポニア)」のレストラン。7〜8月末、看板メニューに「夏鹿」を出している。ミートソースやたたきなど初めての人でも食べやすい料理をそろえる。

 昨年は8月の1カ月間、夏鹿をメニューに載せた。低カロリー・高タンパクなシカ肉に、客からは「あっさりして軟らかい。臭みもなくて想像以上においしい」と好評で、今年は提供期間を延ばした。

 「夏場は草をよく食べており、特に雄ジカは脂が乗ってうま味がある」と、シェフの大西健さん。猟師から直接、雄ジカを中心に仕入れて調理する。

 夏にシカ肉を口にできる場は広がっている。JR東日本では、駅ナカ飲食店を運営する子会社が昨年7月から、長野県産を使った夏季限定の「夏鹿カレー」を47店で提供。今年は260店に増やし、ハンバーガーやコロッケなどメニューも大幅に充実させた。

ジビエ料理に冬のイメージがついたのは、そもそも国が猟期を冬に定めているため。兵庫県内でもイノシシ肉を煮込む「ぼたん鍋」は、丹波地域の冬の味覚として知られている。

 一方、シカなどの個体数増加を受け、食害防止に向けて自治体が冬場以外にも駆除期間を設け始めた。捕獲数が急増したシカは山に埋めたり、焼却したりしてきたが、衛生面や費用など課題も多く、食肉としての活用を積極化している。

 県内でも15年度の捕獲数は目標を1万頭上回る約4万5千頭に達し、5年間で2割増加。食害の被害額は5年前の半分以下に減ったが、なお2億円弱に上り、県は16年度から目標を4万5千頭に設定し直した。

 シカの食肉処理施設は県内に11カ所(17年7月時点で)。県が調査を始めた2年前から3カ所増えた。

「以前はシカ肉の注文を断っていたが、安定供給のめどが付いた」。篠山市の老舗シシ肉店「おおみや」の大見春樹社長は夏鹿の流通増に期待を寄せる。

 猟師からシカを買い取って食肉にし、2年前から本格販売を始めた。昨年は約400頭が持ち込まれ、東京のフランス料理店やホテルのレストランを中心に販売を伸ばしている。

 東京駅にある東京ステーションホテルのレストランでは、25年以上前からシカ肉料理をメニューに載せている。ローストや煮込み料理が人気という。

 石原雅弘総料理長は「かつては冷凍肉が中心だったが、処理マニュアルを整えた施設が増え、最近は冷蔵で運ばれてくる。肉質は格段に良くなった」と指摘。「よりおいしい料理を提供できるようになり、シカ肉ファンが増えている」と手応えを示している。