進む自動車メーカー再編、これがホンダの生きる道

自動車メーカーの世界的な再編が進む中、ホンダの行く末に市場の注目が集まっている。

 自動車産業は成熟期を迎えており、グローバル市場では4大メーカーによる寡占化が進行中だ。こうした事態を受けて国内メーカーの多くが、トヨタもしくは日産の傘下入りを決めている。だが、資本提携の話がまったく出てこないのがホンダである。クライスラーを擁するFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の中国企業による買収観測が伝えられるなど、中堅メーカーに対するグローバルな包囲網は狭まっている。最後の独立系メーカーとなりつつあるホンダについて考察した。

上位4社による寡占化が急ピッチで進む

 世界の自動車販売は、好調な米国経済に支えられて順調に拡大してきた。しかし、米国では新車需要を先取りしてしまったとも言われており、市場拡大はそろそろ限界に達しつつある。

 市場の伸びが鈍化すると、当然のことながらメーカー間の競争が激しくなる。パイが大きくなっていれば、シェアは変わらなくても各社の業績は増収だが、パイの拡大が限定的である場合、シェアを広げなければ増収を維持することは難しい。

 実際、自動車業界は大手4社による寡占化傾向が鮮明になっている。2016年の世界新車販売台数は、1位が独フォルクスワーゲン(VW)で1031万台、2位がトヨタで1017万台、3位はゼネラルモーターズで1000万台、4位は仏ルノー・日産連合で996万台だった。

 5位以下は、韓国現代、米フォード、ホンダ、FCAと続くが、現代が790万台、フォードが660万台、ホンダとFCAがそれぞれ500万台弱となっており、上位4社とは少し開きがある。2017年の上期は、日産の傘下入りした三菱自動車の生産が回復したことから、ルノー・日産連合が首位となっており、上位4社による寡占化はさらに進んでいる可能性が高い。

 自動車産業は典型的なグローバルビジネスであり、世界市場でのシェアは重要な意味を持つ。かつては、国内シェアにもそれなりの意味があったが、状況は大きく変わった。2016年における日本国内の自動車販売台数はわずか500万台と、米国の3分の1、中国の5分の1しかなく、しかも販売台数は年々減少している。国内市場のシェアは、もはや自動車メーカーの経営に影響を及ぼすファクターではなくなっている。

 世界市場の伸びが鈍化している現状を考えれば、上位4社の影響力は今後、さらに大きくなってくるだろう。このような環境下では、中堅以下のメーカーは厳しい展開を余儀なくされる。生き残っていくためには、特徴あるクルマ作りを前面に押し出したニッチなメーカーになるか、M&Aなどを通じて規模を拡大し、上位メーカーに食い込んでいくしか方法はない。

ホンダだけが取り残された?

 このところ国内の自動車メーカー各社が、立て続けにトヨタもしくは日産の傘下に入っているが、一連の動きはこうしたグローバル市場の動向と無関係ではない。

 ダイハツはすでにトヨタの完全子会社になっているし、スバル(旧富士重工)も傘下入りを決めた。今年に入ってトヨタは、3月にスズキと業務提携を結び、8月にはマツダとの資本提携を発表している。スズキとの業務提携は、業界では「遺言提携」と呼ばれており、スズキの創業家がトヨタに生き残りを託したとも言われる。最終的にスズキもトヨタ・グループ入りする可能性は高いだろう。マツダとの資本提携も現状では対等だが、トヨタによるマツダ救済という側面があることは否定できない。

 一方の日産は、燃費不正問題で経営危機に陥った三菱自動車をグループに取り込んだ。冒頭でも触れたように、2017年の上半期においてルノー・日産が世界シェアでトップに立ったのは、三菱自動車の生産が回復したからである。

 ここで、市場の注目を集めているのが、どのメーカーとも提携の話が進んでいないホンダである。

 かつてのホンダはスポーティカーを得意としており、どちらかというとニッチな存在だった。だが1990年代に入って同社は戦略を大きく転換。ファミリー層を取り込み、フルラインナップのメーカーとなった。

 あくまで結果論だが、ホンダはニッチメーカーとしては大きすぎ、フルラインナップのメーカーとしては小さすぎるという微妙な立ち位置になってしまった。

FCAは発展的に解体していく?

 同じような状況にあるのがFCAだ。同社をめぐる動きはこのところ活発化している。

 FCAは米クライスラーにイタリアのフィアットが資本参加する形で出来上がった企業だが、上位メーカーには水をあけられており、その動向に注目が集まっていた。そのような中、中国の自動車メーカーである長城汽車など複数社が、FCAの買収を検討していることが明らかとなった。

 長城汽車は中国政府からの支援を受けていない純粋な民間企業で、販売のほとんどが国内向けだが、ピックアップトラックなどを得意としており、このところ販売台数を大きく伸ばしている。

 各種報道によると、長城汽車が買収を検討しているのは、SUV(多目的スポーツ車)など複数部門で、同部門には4輪駆動車の代名詞にもなったジープというブランドもある。もし買収が実現すれば長城汽車はこのブランドを武器に、得意のSUVでシェアを伸ばすことができるだろう。

 このほか複数の中国企業がFCAに関心を寄せているとされるが、FCA側は、高級ブランドであるマセラティやアルファロメオは残す方針といわれる。最終的にどのような形で再編が落ち着くのかは分からないが、同社は、クライスラー・ブランドの一般車、ジープ・ブランドを中心としたSUV、マセラティなどの高級車に分離していく可能性が高い。

 一連の動きの背景には、特徴あるブランドを持つニッチメーカーと、シェアを重視した巨大メーカーへの二極分化という流れがあることは間違いない。

 もしFCAが、前向きな形で解体された場合、数少ない中堅メーカーとなるホンダにはどのような選択肢が残されているのだろうか。もっとも有力なのは、他社との資本提携だが、国内メーカーのほとんどがトヨタ系列もしくは日産系列となっており、国内メーカーと組む選択肢は考えづらい。

 何よりホンダの八郷社長は他社との資本提携について今のところ完全否定しているので、あくまで仮定の話ということになってしまうが、ホンダの企業規模を考えると、現代との提携あるいは合併というのは十分にあり得るだろう。ホンダと現代が提携すれば、販売台数は1300万台となり、一気にトップメーカーに躍り出ることになる。

中国市場におけるEVが今後のカギを握る

 今後の再編のカギを握るのは中国におけるEV(電気自動車)の動向だろう。このところ自動車業界ではEVシフトが鮮明になっているが、特に注目を集めているのが中国市場である。中国は政府の決定によって市場をある程度コントロールできるので、場合によってはEV化がもっとも早く進む可能性がある。

 中国の自動車市場は圧倒的な規模であり、今後の世界シェアの決め手となるのは中国市場といっても過言ではない。ホンダはあまり積極的にアピールしていないが、従来の方針を撤回し、EVの開発に軸足を移している。同社は、中国市場向けのEVについて、基幹部品であるモーターや蓄電池を中国国内で調達する方針を明らかにしており、価格競争力を重視する方針だ。

 EVで先行するルノー・日産連合は、中国の東風汽車集団とEV開発の合弁会社設立を発表しており、2019年から現地工場での生産を開始するなど、中国市場攻略に向けた動きは加速している。

 ホンダが中国のEV市場でそれなりの存在感を示すことができれば、今後の再編劇において優位に立てる可能性は高い。現代は中国市場で高いシェアを獲得していたが、米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備をめぐって中韓関係が悪化。国内では不買運動も発生しており、現代の中国市場でのシェアは低下している。

 一連の出来事は中国市場のリスクをあらためて認識させる結果となったが、一方で、中国市場の環境は大きく変化しているともいえる。ホンダが独立を貫くにせよ、資本提携を進めるにせよ、同社の将来は、戦略的EVをどれだけ迅速に開発できるのかにかかっている。