希望で再教育、自動車教習所の「ブラッシュアップ講習」始まる その狙いとは?

GPSで運転動作を測定、技能をデータで提示

 全指連(全日本指定自動車教習所協会連合会、東京都千代田区)に加盟する一部の指定自動車教習所で、「ブラッシュアップ講習」と呼ばれる新しい講習プログラムがスタートしました。自動車運転免許所有者を対象に希望を募り、教習車で教官が運転指導などを行うもので、2017年9月20日(水)から36都道府県132校(9月19日現在)にて順次開始されるといいます。

免許取得後に教習所で受ける講習には、任意の企業研修やペーパードライバー講習、そして70歳以上の人が免許更新時に受講することが義務化されている高齢者講習などがありますが、それらとは内容が異なるものだといいます。また、公的な制度に基づく講習でもないそうです。全指連に話を聞きました。

ーー「ブラッシュアップ講習」とは、どのようなものなのでしょうか?

 安全運転に関する再教育の場を提供するものです。企業研修やペーパードライバー講習は各教習所で独自のカリキュラムが作られていますが、ブラッシュアップ講習は全国の警察や安全運転協会、自動車安全運転センターが参画し策定した共通要件のもとで行われます。

ーー具体的にはどのようなことを行うのでしょうか?

「実車指導」「危険予知の座学」、そして「受講効果の『見える化』」という3要件に基づきます。具体的には、GPS機器などを搭載した教習車に教官が同乗したうえで受講者の運転動作を測定・解析し、その場で運転に関するレポートを発行します。それに基づき教官がさらに運転技術や危険予知などを指導するものです。

ーーどのようなニーズを想定しているのでしょうか?

 さしあたっては、法定の高齢者講習の前段階として高齢の方が受講されることを想定していますが、制限はありません。働き盛りの人はもちろん、企業研修のひとつとしても幅広く受講していただきたいと考えています。

免許取得から50年間は再教育の「空白」 新講習はどう展開?

ーーなぜ新たな講習を導入するのでしょうか?

 指定自動車教習所で免許を取得しようとする人の97パーセントは20歳前後で、以後、ほとんどの人は70歳代での高齢者教習まで、再教育を受けることがありません。この期間は「空白の50年」とも呼ばれています。公安委員会などでも再教育の重要性が説かれているものの、これまで具体的な制度がつくられてきませんでした。

 一方、少子化の影響から指定自動車教習所の経営はますます厳しくなっており、現時点(編集部注:2017年9月現在)で1279校ある当会の加盟校も、毎年10校くらい閉鎖を余儀なくされています。免許取得のための教習はもちろん、高齢者講習の受け皿という公的役割を指定自動車教習所が担っていくための施策のひとつとして、「ブラッシュアップ講習」を位置付けています。

ーー普通自動車以外も対象でしょうか?

 はい。当会が推奨している運転測定機器はシガーソケットに取り付け可能ですので、シガーソケットがある4輪の教習車であれば、普通自動車に限定するものではありません。

ーー今後、この講習をどのように展開していくのでしょうか?

 まずは世にしっかりと認知され、効果を認めてもらうことが大切です。そのうえで、国や警察などから公的な制度として検討されれば、対応していきたいと考えています。たとえば、現在の高齢運転者制度は年齢に応じ一律で、“個人差”があまり考慮されていませんが、その人の運転技術を証明するものとして講習の結果が活かせるのではないでしょうか。また、近年は「テレマティクス保険」といって、個人の運転技能に応じて保険料を決める自動車保険も登場していますが、こうしたものにも運転データを活用できるかもしれません。

全指連によると、講習は共通の要件に基づくものの、教習所ごとにカスタムが可能で、受講時間や料金も異なってくるといいます。

 たとえば9月20日(水)から講習を開始した栃木県の宇都宮清原自動車学校(宇都宮市)では、1時間あたり税別6000円で、1講習につき2時間を設定。まず実車走行を行い運転レポートを発行し、それに基づき運転技術を指導。再度実車に乗り1回目の走行と比較し、最後に危険予測の講習を行うという流れで、全指連の講習会を受講した教官が担当するそうです。これは全指連の基本的な案に基づいたカリキュラムで、今後、必要に応じてカスタムしていく可能性もあるといいます。

 同校には講習開始前から問い合わせも寄せられているそうですが、その多くは「70歳を過ぎた方からです。運転に自信はあるものの、自分の技能を目に見える形で確認したいという声があります」(宇都宮清原自動車学校)とのことです。