ICO 資金調達に拡大 仮想通貨利用、長期審査なく

仮想通貨を使った新たな資金集めの手法「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」が、世界的に広がっている。従来の株式上場などに比べて素早い資金調達が可能となる一方、詐欺など犯罪のリスクもあり、普及に向けたルール整備が課題となりそうだ。

 ◇詐欺も存在 中国は全面禁止

ICOは、新たな事業・サービスを展開したい企業や個人が、「ビットコイン」や「イーサリアム」といった流通量の多い仮想通貨での出資を投資家に募り、見返りに「トークン」と呼ばれる独自の仮想通貨を発行する。集めたビットコインなどの仮想通貨は売却し、米ドルや日本円などに換金して事業資金に充てる仕組みだ。

 投資家側は、事業やサービスが実現した場合に、トークンを支払いに使えたり、普通の株式同様、配当を受け取れたりする。取引所で売買できるケースもあり、将来の値上がり益も期待できる。

 ネット上での告知やトークン発行など一連の手続きを支援する企業もある。証券取引所に上場するのに比べると長期間の審査もないため、アイデアを素早く実現したい個人や新興企業にはメリットがある。インターネット情報サイト「コインデスク」によると、ICOによる世界の累積調達額は2017年10月1日時点で25.2億ドルで、1年前から約10倍に急増した。

 日本でも金融IT会社の「エニーペイ」が9月からICOについて支援事業に乗り出し、国内外の100社から問い合わせが来ているという。同社は「教育や不動産などの業種のほか、スポーツ選手など意外な方面から問い合わせがあり、関心は高い」(広報)といい、日本でも今後本格化する可能性がある。

 ただ、ICOで発行するトークンは、株式とは違い、購入しても議決権は持てない。経営陣の監視ができず、計画倒れになっても責任追及は難しい。

 株式上場のような情報開示の義務も無いため、企業がウェブサイトに簡単な計画書しか提示していないケースも多い。最初から事業を実現する気がない詐欺案件も存在するとされる。

 各国の当局で対応は分かれる。中国は9月、ICOを全面禁止にした。米証券取引委員会(SEC)も7月、配当などがあるトークンは株式並みの規制対象とする可能性を指摘した。

 仮想通貨に詳しい野口悠紀雄・早稲田大ビジネス・ファイナンス研究センター顧問は「ICOは有望な資金調達手段だが、怪しい案件も潜り込んでいる。一概に禁止するのではなく、トークンを売り出す際の情報公開に基準を設けるなど改善が必要だ。取引所もトークンを上場して取引できるようにするなら、事業の実現性の『目利き』に責任を負うべきだ」と指摘する。