外国人実習生、介護現場にも 11月から職種拡大 指導に戸惑う施設も

11月1日から外国人技能実習制度の対象職種に「介護」が加わるのを前に、これまで外国人を雇ってこなかった九州の介護現場で歓迎ムードが広がっている。制度の趣旨は「国際貢献」だが、2025年には全国で38万人の人材不足に陥るとされるだけに関心は高く、宿舎を新築して待ち構える動きも。一方で、文化や価値観の違いを踏まえた十分な指導ができるかどうか、戸惑う声も漏れる。

 福岡市博多区のビルに今月21日、介護施設や病院に勤める介護福祉士ら約80人が集まった。日本介護福祉士会が全国に先駆けて開催した講習会だ。多くは、外国人実習生を指導する「技能実習指導員」になる。

 「受け入れは技術移転であり、国際貢献である」と意義を説明。「単純に手順を指導するだけではなく、根拠を説明する」「分かっていないのに『分かった』と返事するケースもあるので、本当に理解しているか確かめる」。指導の心構えも含め、7時間に及んだ。

 厚生労働省によると、受け入れに向けた審査はこれからで、実習生の来日は早くても来年3月ごろ。政府間の経済連携協定(EPA)に基づき、これまでにフィリピンなどから約2800人(今年2月時点)が来日したが、今後は実習生も加わり、介護現場で働く外国人が大幅に増えるとみられている。

「人手不足なのに、指導なんて無理」

長崎県五島市の特別養護老人ホーム「きじの里」と養護老人ホーム「たちばな荘」は、フィリピンなどから実習生を計5人受け入れる予定だ。きじの里の神之浦文三施設長は「高校新卒者が毎年1、2人は採用できていたのに、ここ3年くらいはゼロ。定年退職者が出ることも考え、受け入れを決めた」と言う。

 実習生が劣悪な環境に置かれるケースも指摘されてきたのを教訓に、施設近くに宿舎も新築する。「個室は寂しいのでは」という外国人の意見を参考に、4人部屋にして仕切りも付ける。年明けに着工し、実習生が現場に入る来年6月までに完成させるという。

 同施設では、夜勤時間帯は職員1人当たり高齢者20人を担当し、休憩もなかなか取れない。神之浦施設長は「実習生にも夜勤に加わってもらえば、日本人の介護職の労働環境改善にもつながる」と期待する。

 ただ、人件費を除く施設の費用負担は、1人当たり初年度だけで約100万円とされる。実習計画を事前に提出する必要があるなど、受け入れ側の事務負担も大きい。言葉の壁だけでなく、入浴を巡る習慣の違いなど教えるべき内容は多く「ただでさえ人手不足なのに、指導なんて無理」(別の介護施設関係者)という声もある。

 淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「介護は単純労働でなく、安易な受け入れは失敗する」と指摘。「お茶を『ぬるく』『温かく』など繊細な日本語も必要。介護現場のリーダーを育てるという長い目で、しっかり教育できる自信がある施設に受け入れてほしい」と話す。

【ワードBOX】外国人技能実習制度

外国人が日本の企業や農家などで働いて習得した技術を母国の経済発展に役立ててもらう目的で創設。今年6月末時点で約25万人が在留。新たに加わる介護では、訪問サービスを除き、開設3年以上の老人ホームやデイサービスセンターなど幅広い事業所で受け入れ可能。実習生は入国時に「基本的な日本語を理解できる能力」が必要で、2年目は「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる」のが要件。介護の経験者や看護師資格を持つ人などが想定されている。在留は最長5年。