鬼畜・白石隆浩容疑者に毒牙にかかった被害者たちの身元特定に壁 元監察医、警視庁捜査一課元幹部が指摘

神奈川県座間市のアパートで9人のバラバラ遺体が見つかった事件で、被害者の身元特定に大きな壁が立ちはだかっている。

遺体遺棄容疑で逮捕された白石隆浩容疑者(27)は、8月下旬にアパートに転居した直後から犯行を開始。10代後半4人、20歳ぐらいを4人、20代後半1人の計9人を殺害した。うち8人が女性で、全員に性的暴行も加えていた。

 遺体はバラバラに切断して、生ゴミとして処分したという。ある解剖医は言う。

「最初は時間がかかったそうですが、遺体の解体はコツさえ覚えれば、すぐに早くなります。ただ、解体した遺体をクーラーボックスで保存していたとなると、部屋の中の腐臭はすごかったはず。そんな場所で2カ月も暮らすなんて、普通の人間はできません」

 白石容疑者は、ツイッターなどのSNSを使って自殺志願者を“スカウト”し、自宅に呼び寄せて犯行に及んでいた。やりとりはお互いに匿名で、殺害について被害者の同意は得ていなかったという。

 警視庁は、白石容疑者の携帯電話に残された履歴や、SNSでのやり取りも調べている。だが、SNSの履歴は証拠隠滅のために削除されていた。元警視庁捜査一課理事官の大峯泰廣氏は言う。

「履歴を消していても、メールのように携帯電話の端末に保存された内容は復元できます。しかし、インターネット上に投稿されたツイッターなどSNSは、一度消去されると復元が難しい場合もある。そうなると被害者の身元特定はより困難になります」(前出の大峯氏)

 一方、遺棄の難しかった頭部は部屋の中に残されており、警視庁はDNA型鑑定による身元特定も急いでいる。だが、ここにもハードルがある。東京都監察医務院で死体の解剖に携わってきた監察医の上野正彦医師は、こう話す。

「遺体が腐乱していても、頭部があれば髪の毛などからDNA型の検出はできます。問題は、被害者の家族などから捜索願が出されているかどうか。女性であれば、母親のDNA型と照合すれば、被害者の身元特定は簡単にできます。しかし、捜索願が出ておらず、家族からDNA型の提供がなければ照合することもできない。その場合、身元特定までに時間がかかるでしょう」

警察庁の統計によると、行方不明者の捜索願の届け出は毎年8万人を超えている。うち、犯罪に巻き込まれた可能性のある不明者は580人いた(2016年)。また、行方不明者全体に占める10代と20代の割合は約4割を占める。家族関係のトラブルなどから家出をする人が多いためと思われる。

 しかし、これも氷山の一角にすぎないという。前出の大峯氏は言う。

「最近では、若い行方不明者で捜索願が出ていないケースも多い。自殺願望を持っている人の場合、家族が『どこかで自殺したんだろう』と放置している場合もあるようです。捜索願が出ていない場合、身元の割り出しが難航します」

 わずか2カ月の間に9人も殺害されていながら、被害者のほとんどの身元が判明していない今回の事件。事件の全容が明らかになる日は来るのか。
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