座間9人切断遺体事件にみる「8つの謎」と誰もが殺人鬼になる可能性

【短期間に9人を殺し、バラバラで捨てるのは可能か?】

 長年、事件を追っている事件記者が話す。

「白石容疑者は、被害者を自宅に招き入れて、すぐ殺害に及んだと供述している。遺体をバラバラにする際、最初の被害者の処理には3日かかり、2人目以降は1日で処理したという。一部はゴミと一緒に出し証拠隠滅を図ったが、頭部は室内のクーラーボックスなどに隠していた」

 一帯は住宅地のため、容疑者宅周辺にも10数か所のゴミ捨て場が設置されている。

 近所に住む60代の女性は、「この地域は、行政が指定するゴミ袋による回収をしていないので、可燃ゴミはコンビニやスーパーのレジ袋で捨てることができます」

 頭部と240本近い骨は、容疑者宅に残されていた。さすがに、小さなレジ袋に頭部を入れると目立つ。

「そういえば、遺体がまったく残らなかったバラバラ殺人事件があった」と前出・事件記者が振り返る。

「2008年、東京・江東区のマンションで起きたバラバラ殺人事件。33歳(当時)の派遣社員の男が、同じマンションに住む23歳(当時)の女性を“性奴隷”にする目的で自室に連れ込み、殺した。

 マンション内の捜索が始まったため、男は浴室で、ノコギリなどの刃物を使いバラバラに切断。細かく刻んだ肉片はトイレに流し、大きな部位は可燃ゴミにまぎらせ捨てるなどして、約2週間で証拠をすべて隠滅している」

被害者の身元が判明しないこともあるのか?

「11月6日、警視庁は被害者の1人が、逮捕の端緒になった八王子市の田村愛子さん(23)と発表しました」

 と前出の事件記者。今後、8人の身元確認作業について、

「容疑者は被害者の名前を知らず、所持品も捨てたなどと供述していたが、現場検証で複数の女性のキャッシュカードや身分証明書が見つかった。それでもわからなければ残された遺体の一部からDNAを採取して、行方不明者と照合していくしかない」

 全国の警察に届けられる行方不明者は、年間約8万5000人。事件・事故に巻き込まれたのか、家出なのかわからないケースも多い。

「『特異行方不明者』のデータベースがある。そこには不明者の家族がDNA型を提出している約4000人も含まれている。事件発覚後、わが子ではという問い合わせが多いという。家族にDNA型の提出を求め、1人ずつ調べていくことになる」(同記者)

自殺願望のある人を殺した場合、罪が軽くなるって本当?

「2005年、大阪府堺市で、人材派遣会社に勤務する36歳(当時)の男が、自殺サイトに書き込みをした14〜25歳の男女3人を殺害する事件がありましたが、殺人罪が適用されました。男が、殺人目的で自殺サイトを物色し、自己欲求を満たすために犯行に及んでいたからです」

 と話すのは、ジャーナリストの渋井哲也氏。

「自殺願望者の中には、探偵のサイトや便利屋のサイトにアクセスして“私を殺してください”と依頼し、実際に事件化した例もあります。常識的には考えられませんが、“なんでもやります”という宣伝文句をはき違え、頼んだということでしょう」

 白石容疑者は現状、9人全員の殺害を認め、嘱託殺人の主張はしていないが、供述はいつ翻すかわからない。前出・事件記者が解説する。

「自殺を手伝った場合は自殺幇助罪。殺害を依頼され犯行に及んだ場合は嘱託殺人罪。量刑はいずれも、6か月以上7年以下の懲役または禁錮刑で、死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役の殺人罪の量刑より軽くなる」

容疑者はごく普通の青年だった。誰でもやれることなのか?

「今回の事件は、本当にレアケース。このような犯罪をする人間は、1億人の中に1人いたって珍しい。それくらいのレベルなのです。

 殺人の動機として最も多いのが怨恨に基づくものですが今回の被害者は会ったばかりの他人。ということは殺すことが強い快感であったか、遺体に興味があったか。この2つの仮説が支持されます」

 そう分析するのは、犯罪心理学者で東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授。

「9人も殺し、遺体の一部を部屋に残していることから、よほど遺体に強い執着、興味があったのでしょう。解体している最中も自分が相手を支配しているという強い快感があったのだと推測できます。

 そして女性ばかりを狙ったのは、単純に襲いやすかったから。相手を殺害できなければ意味がないわけですから、絶対的弱者を狙ったということです」

小さいころの経験と事件を結びつけるものはあるのか?

「殺人事件の報道で“小さいときにカエルを殺していた”などと出ることがありますが、これらが直接殺人に結びつくことはありません。殺意というのは徐々に形成されていくものではなく、何らかのきっかけで殺人に興味を持つことがある。ただ、そのきっかけは本当に千差万別です」

 と前出・出口教授。ひとつの引き金として“支配感”というキーワードをあげる。

「誰にでも支配感はありますが、何かしらのきっかけで、人を殺すことで強い自身の支配感を満たし、快感を得られるのかもしれないと興味を持ったのではないか」

被害者の最低所持金は500円。殺人の対価になりうるのか?

容疑者は性的暴行と金銭目的もあったと供述している。

「例えば強盗殺人は金銭を目的とし、その手段として殺人を選択している。しかし今回の事件で容疑者が求めているのは、人を殺すということが目的であったと推測でき、金銭目的や乱暴目的だと供述していたとしても、それは2次的、3次的な動機で、あわよくばというレベルです」

 と出口教授は指摘する。遺体の一部を部屋に保管していたことも出口教授が知る殺人犯とは違っていると続ける。

「刑務所などでさまざまな殺人犯と面談しましたが、死体と一緒にいたいと話す殺人犯に私は会ったことがありません。殺人をしてしまったら、死体を遠ざけて遺棄したいと思うものです。だから今回は非常にレアなケースだといえる」

立て続けに9人も殺害。発覚しやすいのになぜ?

「殺害をするときや解体をするときに、かなり強い快感があった。だから次もやろう。もっと強い刺激や快感があるかもしれないと繰り返していくわけです。薬物依存と同じような状態であったのではないかと考えられます」

 快楽殺人の様相も見える事件で、容疑者は死にたがっている人間にまんまと接触し、口車に乗せ、犯行現場に誘い込んだ。その手口は、手慣れたものだ。

「普通の人は、コミュニケーション能力をよい方向に使う。しかし彼は、悪用する術として使用して、被害者を自宅に誘い込み殺害した。容疑者はコミュニケーション能力が非常に高く、社会生活の中で培った経験から、その素顔を使い分け、誰にも怪しまれないように、善良な人間を演じていたのでしょう」

被害者たちはなぜ、容疑者の部屋に素直に入ってしまったのか

犯行現場になったアパートは、線路沿いに位置する。電車の通過音は頻繁で、近くには米軍座間キャンプがあり、

「戦闘機の飛行訓練の音に、住人は慣れていますよ」

 と近所に住む50代の男性。物音に慣れっこになっていたからか、殺害の際の物音に気づく近隣住民はいなかった。

 自殺願望者は、容疑者に抵抗することなく部屋に入る。

「自殺願望者は、見知らぬ人に頼り、自分を追い込もうとする。何度も自殺に失敗している人ほど途中で断念しないように“監視要員”に頼るのです」(前出・渋井氏)

 “監視要員”の役目を期待した容疑者に裏切られ、自殺願望者は納得できない死を押しつけられたことになる。
白石隆浩 座間9遺体 殺人事件