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ユニクロを脅かすアマゾンの"超個客主義"

ユニクロを脅かすアマゾンの"超個客主義"

amazon201711180002アマゾンはこれまで大量の購買情報を蓄積してきました。そして人工知能(AI)の進歩により、そのデータを使った商品開発の環境が整いつつあります。「私の好み」を把握するアマゾンは、どの分野から手を広げるのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「ユニクロのようなカジュアル・ファッションに参入するはずだ」と分析します――。(第2回、全3回)

※以下は、田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)の第3章「アマゾンの収益源はもはや『小売り』ではない」を再編集したものです。

■全商品が「低価格」ではない理由

AIの登場によって、アマゾンはこれまで蓄積してきたビッグデータの出口を見つけた、と見ることができます。「天の時」が到来し、ようやくビッグデータをユーザー・エクスペリエンスの向上につなげられる時代になったのです。

また「ビッグデータ×AI」は、アマゾンの売上増を直接的にプッシュするものでもあります。アマゾン本体の売上方程式を整理してみると、やはり売上向上のためにビッグデータが活用されていることがわかります。

売上を因数分解すると、「客数×客単価」です。これをさらに分解すると、客数は一般顧客とプライム会員に分けることができます。また、セット率を高める、購買頻度を高めるというのが、客単価を上げるための代表的な施策です。

アマゾンの価格はダイナミックプライシングが特徴です。全商品が低価格というわけではなく、「ビッグデータ×AI」を使いこなし、検索上位の商品や人気商品を中心に低価格にしています。競合と比べれば安価かもしれませんが、ロングテールやあまり数が出ない商品は価格を大きく下げずに、きちんとマージンを取っています。

■新サービスのターゲットは低所得者層

さて、セット率(購買点数)を高める、購買頻度を高める、プライム会員を増やすという点に関しては、プライム会員の増加が直接的に寄与します。また、「ビッグデータ×AI」によりリコメンデーション機能が洗練していくほどに、セット率が高まります。あるいはホールフーズの買収によって生鮮食料品の取り扱いが本格化すれば、やはり購買頻度が高まる方向に進むでしょう。

そして一般の顧客を増やすため、最近アマゾン・キャッシュというサービスが始まっています。アマゾン・キャッシュは米国で最近始まったサービスで、銀行口座やクレジットカードを持っていなくてもネットで買い物ができる、というもの。これまでネット通販を利用してこなかった低所得者層がターゲットだとされています。

こうして見ていくと、「客数×客単価」によって売上を伸ばすというプロセスの至るところに「ビッグデータ×AI」が活用されていることがわかります。

従来のマーケティングにおいては、属性のデータは比較的収集しやすいものであり、一方で、消費者の行動パターンと、心理パターンは、わざわざアンケートを行わなければ集められないものとされてきました。マーケティング上の有用性としては行動パターンや心理パターンのほうが高いのに、獲得するのが難しいというジレンマがあったのです。

ところが、アマゾンはここにもイノベーションをもたらしました。アマゾンが蓄積しているビッグデータは行動パターン、心理パターン、属性まですべてを含んでいます。その結果、アマゾンは通常のセグメンテーションよりもはるかに細密な「1人のセグメンテーション」「0.1人のセグメンテーション」を可能にし、売上向上につなげています。

■なぜアマゾンは顧客の好みを知っているのか

ビッグデータを売上増につなげるとき、ひとつの強力なエンジンとなるのが、リコメンデーション機能です。アマゾンのリコメンデーションのアルゴリズムは「協調フィルタリング」といいます。ユーザーごとの購入予測モデルといってもいいでしょう。

一般的にはまだ知られていない言葉かもしれませんが、アマゾンで買い物をしている人であれば、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という表示に馴染みがあるはず。あれが協調フィルタリングによるリコメンデーションです。アマゾンの売上を押し上げているひとつの要因でもありますので、解説しておきましょう。

リコメンデーションのアルゴリズムとして協調フィルタリングと呼ばれているものは、マーケティングにおけるセグメンテーションであり、統計では分類と呼ばれているものです。似たもの同士を集めてグルーピングし、それを分類したり、セグメントに分けていくのがその本質なのです。

アマゾンで使われている協調フィルタリングには、顧客に着目した分類やセグメンテーションであるユーザーベースの協調フィルタリングと、商品に着目した分類やセグメンテーションである商品ベースの協調フィルタリングの2つがあると考えられます。

■おすすめの精度が爆発的に高まっている

ポイントは、あるユーザーが商品をチェックまたは購入したデータと、また別のユーザーがチェックまたは購入したデータの両方を用いていることです。その購入パターンから、ユーザー同士の類似性や商品どうしの共起性を解析、ユーザー同士の購買履歴を関連づけることで、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というリコメンドにつなげるのです。

実際には、さらにそれぞれのユーザーのさまざまな行動ログや各種の検索履歴などもビッグデータとして活用されて、解析とリコメンデーションがなされています。これが高度になったものが、本書でも何度か言及している「0.1人セグメンテーション」なのです。

ここで前提になっているのは、「自分と似ているユーザーの評価と自分の評価は似ているだろう」という仮説です。その仮説から「自分は持っていないが、自分に似ている人が持っている商品はほしがるに違いない」という、さらなる仮説を導いています。

あえてシンプルに述べると、アマゾンにおけるリコメンデーションは、多くのユーザーのなかから自分に似ているユーザーを探し出し、彼らが持っていながら自分は持っていないアイテムをお勧めする、というのが基本です。

ユーザーにしてみれば、それまで知らなかった、意外性のあるアイテムがお勧めされることになり、そのためコンバージョンレートのアップも期待できる、というわけです。アマゾンが驚異的であるのは、ビッグデータとしての行動履歴の範囲とボリューム、リコメンデーションする商品・サービス・コンテンツの範囲とボリューム、そしてリコメンデーションの精度が、爆発的に伸びていることなのです。

アマゾンのビッグデータ分析は今後も「個の分析」の完成度を高めていき、やがては大量生産とパーソナライゼーションを組み合わせることで、マスカスタマイゼーションに着手することになるだろう――これが私の未来予測です。

■アマゾンがユニクロの脅威になる

ここまでを踏まえて考えずにはいられないのは、「アマゾンがユニクロの脅威になる」という未来です。アマゾンはすでにプライベートブランドとして7つのファッションブランドを展開しています。そのうえで同社がプライベートブランドでファッションに乗り出すとすれば、最適な分野はユニクロが得意とするベーシック・カジュアルだといえます。アマゾンで高価なブランドを買うことに抵抗感をもつ人はいると思いますが、ベーシック・カジュアルであればブランドごとの違いも小さく、アマゾンも入り込みやすいのです。

顧客ネットワークを持ち、顧客のビッグデータを持ち、それをAIで活用できるアマゾンが自ら開発・製造・販売まで行なうアパレル業界の脅威・SPA企業となる――。

そしてその先では、おそらく「マスカスタマイゼーション」の時代が本格的に始まることになるのでしょう。つまり「ビッグデータ×AI」によって導き出した1対1のセグメンテーションを背景に、一人ひとりにあわせて製品をつくる。それを始めるとすればファッションから、というのが私の予測です。

そもそもアパレル・ファッションは、アマゾンの武器である「ビッグデータ×AI」を活かしやすい分野でもあります。消費者の志向を把握し、最適な商品を勧められるからです。アマゾン・エコーに続くスピーカー型人工知能の新機種「エコー・ショー」や、カメラ付きアレクサデバイス「エコー・ルック」との相性も抜群です。エコー・ショーは、タッチスクリーンつきで画像の表示や動画の再生が可能。エコー・ルックには顧客が撮影した画像からAIがファッション指南してくれるという機能が付いています。当然ながら、ここからもビッグデータを取得しており、今後の商品ラインナップに反映されていくことになります。

■「メーカーとしてのアマゾン」という新たな顔

冒頭で「アマゾンのビッグデータ分析は個人を特定することを目的としていない」と述べましたが、個人を特定する意図はなくとも、顧客一人ひとりの購買を増やすため、そして顧客第一主義を貫徹するため、言い換えればユーザー・エクスペリエンスのさらなる向上のために、個の分析は不可欠です。将来的にはマスカスタマイゼーション、すなわち顧客一人ひとりにカスタマイズされた商品を企画、製造、販売するところまでを担うようになるはずです。

ECの王者アマゾンが、ネット上のエブリシング・カンパニーを経て、リアル店舗展開から小売り・流通の王者というポジションを狙うばかりでなく、メーカーとしてのアマゾンという新たな顔を持つ。そんな未来がすぐそこまでやってきています。

2017年5月に米国インターネット協会で行われた対談において、ジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)はアマゾンのAI戦略についても触れています。本書の問題意識でもある「アマゾンはなんの会社なのか」「アマゾンは10年後どうなっているのか」「そこでAIはどのような影響を持つか」といった問いにもベゾス自身が答えている貴重な資料となっています。

「アマゾンはなんの会社なのか」という問いには、「最近ではクラウドコンピューティングや動画配信のための番組制作まで行っているが、アマゾンにおいては事業に対するアプローチが統一されており、そのアプローチにこだわった事業展開をしているのがアマゾン」だと答えています。

■常にパイオニアとして新たな商品を提供する

ここでいうアプローチとは顧客第一主義、イノベーション、超長期主義のことであり、第1章でも触れたアマゾンのバリューに対応しています。企業によっては、競合主義、ビジネスモデル主義、テクノロジー主義、商品主義などさまざまな主義を掲げるところですが、アマゾンを特徴づけているのは、やはり顧客第一主義であると強調しているのです。

一方で、ベゾスはこうも話しています。

「顧客に対してはただ単に顧客の声に耳を傾けていればいいということではなく、顧客は常によりよいものを求めており、そのためにもアマゾンが顧客に代わって常にパイオニアとして新たな商品・サービスを提供することが重要である」

これはイノベーションを追求する姿勢を改めて示したものだといえます。超長期主義については、「2〜3年でも5〜7年でもなく、さらに長期の視点で事業を考えることである」と述べています。たとえば今四半期の決算結果は3年前からすでに予測されたものであり、CEOとしての自分はすでに3年後である2020年の当該四半期の結果を注視していると語っています。真偽のほどはわかりませんが、超長期主義についての徹底ぶりは十分にうかがい知ることができます。

Amazon対抗策を模索する、消費財メーカーたちの戦い:「EC=Amazonではない」

Amazon対抗策を模索する、消費財メーカーたちの戦い:「EC=Amazonではない」

消費財(CPG)各社は、いま岐路にさしかかっている。Amazonという脅威にどう対処するか。Amazonを無視すれば、きわめて重要な販売チャネルを失うリスクがある。一方、Amazonと組んだ場合、Amazonが自社でもっと安い代わりの商品を扱いはじめた際に、ブランド価値が損なわれる危険がある。そのため一部のCPG企業は、Amazon以外の選択肢に目を向けようとしている。

ロンドンで10月10〜11日(現地時間)に開催された「IGD Online and Digital Summit 2017」に参加した小売業者によれば、Amazonの力が大きくなっているために、小売業者のあいだでは、型破りな提携先を模索したり、スーパーマーケットとの提携をeコマースに拡大したり、簡単に注文できるAmazonの特徴を模倣する動きが起こっているという。

たとえばケロッグ(Kellogg)は、オンラインサイトでシリアルを販売するより、Airbnb(エアビーアンドビー)と提携して朝食を販売する方がうまくいくかもしれないと、同社でeコマース担当グローバル・バイスプレジデントを務めるオスカー・カシューブスキー氏は話す。同氏によると、同社の菓子部門では「EC=Amazonを意味するわけではない。もっと違うパートナーシップを考えるべきだ」と、チームを鼓舞しているという。

カシューブスキー氏の構想は次のようなものだ。「Airbnbと提携すれば、我々にとってシリアルを販売するプラットフォームとして活用することができる。知らない街に滞在するとき、シリアルがどこで売ってるか知らない人も多いし、レストランやホテルの朝食は高くつくこともある。(中略)我々は、『eコマース=Amazon』という考えをくつがえそうとしてるのだ」。

適切なパートナーが重要

一方、コカ・コーラ(Coca-Cola)は、急成長している食材宅配サービスが広まることで、顧客の日常的な買い物がオンラインを活用した定期購入へ移行していくと見ている。同事業には、ブルー・エプロン(Blue Apron)やハローフレッシュ(HelloFresh)のようなスタートアップから、英国老舗スーパーのセインズブリーズ(Sainsbury’s)などが参入している。

コカ・コーラでグローバル・カスタマーディレクターを務めるサイモン・マイルズ氏は、「(食材宅配サービスなどを利用した買い物の自動化が)人々が買い物をしたい方法になりつつある」と話す。eコマースは同社の将来にとって極めて重要な戦略と位置付けられており、最近の投資家会議でも時間をかけて説明された。一方で、同社のEC戦略はいまのところ、既存のプラットフォームで現行のパートナーとの販売を拡大することに留まっている。

マイルズ氏は、「単一のブランドはもちろん、単一の企業だけで買い物客を増やそうとしても、いまの時代は難しくなってきている」と指摘する。「適切なパートナーを見つけることが重要だ。それは、ブランドと小売かもしれないし、ブランド同士の提携かもしれない。いずれにしても、自社の市場で自社のブランドに合った提携先を見つけなければならない」。

見つけてもらうための戦略

同じくCPG事業で、コカ・コーラの先を行くのがネスレ(Nestle)だ。ネスレでは、eコマースが全売上高に占める割合は約5%で、2012年の2.9%から伸びている。業界全体で見たとき、オンライン販売がもっとも増えているカテゴリーはペットフードであり、ネスレはまさに主要ペットフードブランド「ピュリナ(Purina)」により、その成長を牽引している。

ペット関連ビジネスでは、新製品のオンラインでの売り方に特に注意を払っている。いまやオンラインで食品を買うことは珍しくないにもかかわらず、ほとんどの業界では、消費者がいかに自社製品を見つけているのか、十分に時間をかけて検討していない。英国では、食料品を買う人の5人に2人(42%)が毎月オンラインショッピングを利用して商品を買っていると、食品業界の調査会社IGDは、1700人以上の英国の消費者を対象に行った調査で報告している。

ネスレ・ピュリナ・ペットケア(Nestle Purina Petcare)でeコマースチャネル責任者を務めるビシャル・クリシュナ氏によれば、同社は新製品の発売にあたって、製品を見つけてもらうための戦略に細心の注意を払っているという。同社では、リスティング広告で大きめの画像を活用して製品を目立たせたり、異なるリテールパートナーのリスティングでも同じように表示されるなどの工夫をしている。

「規模の経済が存在することはわかっている。だが、各社でテクノロジーが違うのにテスコ(Tesco)とAmazonのサイトで同じコンテンツを掲載しても、商品の見え方がサイトごとに大きく異なってしまい、その結果、たいした効果を上げられなくなる」と、クリシュナ氏は話す。「我々は、市場へのルートとそれぞれの違いについて、きわめて慎重に検討することを心がけている」。

酒類メーカーのディアジオ(Diageo)も、オンラインでの食料品販売の成長に合わせて、利益を確保しようと密かに計画を立てている広告主のひとつだ。たとえば同社は現在、「スミノフ(Smirnoff)」ブランドで小売業者と提携してワンクリック販売を開始。しかし、同社ではこの5年間に複数のテストを実施したものの、消費者への直接販売がまだうまくいっていないことを認めている。1月には、高級ブランド酒を扱う自社のオンラインストアが閉鎖された。

Amazon向けヤマト送料が4割値上げで合意、Amazonプライム会費にも影響か?

Amazon向けヤマト送料が4割値上げで合意、Amazonプライム会費にも影響か?

Amazonの当日配送サービスから撤退が話題になっていたヤマト運輸。深刻な人手不足に伴って27年ぶりの基本運賃の値上げを行ったことも報じられましたが、今回はAmazon向けの割安送料の値上げが決まりました。

ヤマト運輸とAmazonは運賃交渉の結果、値上げに大筋合意。ヤマトのAmazon向けの運賃は全体平均の半分の280円前後とされていましたが、400円台へと4割超の値上げで最終調整を行っています。

ヤマト運輸はこれらの値上げで得た原資をう従業員の負担軽減のための宅配ロッカーの設置拡大などの投資に回すとのこと。また、同時に値上げを通じて全体で取り扱う荷物数を減らす「送料抑制」も当面継続する方針です。

今回の4割超のAmazon向け送料値上げ、最終的に消費者の全額負担となるのか、Amazon側が幾分かを負担するのかは現時点では不明。Amazonプライムの会費価格にも影響してくるのか、今後のAmazonの方針も注目されます。

アマゾンおひざ元「シアトル」悩ます異常事態

アマゾンおひざ元「シアトル」悩ます異常事態

「アメリカでは政権が変わると、街もガラッと変わってしまう」。アマゾンやマイクロソフトが本拠地を置く米ワシントン州シアトルは、豊かな自然に恵まれた、米国屈指の「住みやすい街」である。が、最近では市民から冒頭のような「嘆き」が少なからず聞こえてくるようになった。

実際、筆者が経営する会社は、シアトル市のダウンタウンから10キロメートルほど離れた所にあるが、たまに打ち合わせなどで街の中心部に行くと、「あれ、シアトルって、こんな場所だった?」と、確かに首をかしげてしまいそうになることが増えた。

シアトルを悩ます3つの存在 アマゾンおひざ元「シアトル」悩ます異常事態

この街の人は元来、人当たりがよく、みな「気さく」な人が多い。成功していても、スーツで全身をキメるよりは、ラフな服装で自転車を楽しむのが好きという飾らない人が多いし、移民や性的マイノリティにも優しい土地柄なので、誰に対しても、どんな文化に対しても寛容性がある。そこがこの街の強みであり、すばらしさだ。しかし、やはり最近、何かが違う。街も人も何となく行き詰まっている感じがするのだ。

リベラルな土地だけに、確かに政権への反発はある。しかし、それでも、それだけを理由にするのは無理がある。では、いったいなぜシアトルは変わったのか。具体的な理由は3つある。肥大化し続けるアマゾン・ドットコム社の存在と、それに伴う渋滞の悪化、そして増え続けるホームレスの3点だ。

大リーガーのイチロー選手がシアトル・マリナーズに在籍していた頃は、日本からの観光客も非常に多かったが、日本人にとってシアトルは、ニューヨークやロサンゼルスに比べると、なじみが薄い土地かもしれない。しかし、この街はマイクロソフト、ボーイング、スターバックス、コストコなどの大企業が本社を構える街である。その中でも、圧倒的な存在感を放っているのが、アマゾンだ。

アマゾン本社があるのは、シアトルダウンタウンの北端。ユニオン湖に近く、街中にありながら解放感もあり、散歩を楽しみたくなるようなすばらしいロケーションだ。実際、本社を訪ねてみると、社内の敷地で、散歩を楽しんでいる人が非常に多い。理由は犬。アマゾンは「犬に優しい企業」としても知られており、愛犬同伴で出勤することができる。受付にもドッグフードが置かれ、エレベーターの表示にも犬のイラストがついているほどだ。

世界的な大企業でありながら、社員の飼い犬にも配慮する社風、そして当然のことながら好待遇と聞けば、アマゾンで働くことは、多くの人にとって憧れでもあるだろう。

そんなアマゾンが先日、アメリカ国内に第2本社を設立する計画を発表した。全米から誘致に名乗りを上げる街が殺到していると聞くが、アマゾン1社がもたらす経済効果を考えれば、それは当然の流れだろう。同社を誘致するだけで、そこに多くの雇用が生まれ、街が活気づくのだから、のどから手が出るほどアマゾンに来てほしいと願う街はあるはずだ。

しかし、実際に同社があるシアトルの住民として発言をしてもよいならば、「アマゾン誘致は、いいことばかりじゃないですよ」と伝えたい本音もある。

アマゾンの従業員は昨年1年で11万人増加 アマゾンおひざ元「シアトル」悩ます異常事態

アマゾンがシアトルの街に与えた影響はよくも悪くも非常に大きい。シアトル・タイムス紙によると、事業が拡大し続け、従業員数も増え続けたアマゾンは、現在シアトル市内中心部のオフィス面積全体の19.2%を所有しているという。たった1社でこれだけの面積を占める都市の例はほかにない。

アマゾンによると、同社の社員数は昨年末時点で34万人。昨年1年だけでも、11万人も増えたという。これだけ急激に人が増えると何が起こるか。1つは住宅難である。

アマゾンの成長と比例するかのように増え続ける人口によって、シアトルは現在深刻な住宅不足に陥っている。想像にたやすいが、そうした状況下では不動産は完全に売り手市場になるため、物件が恐ろしいほどの高騰ぶりを見せている。冗談のような古い家でも、冗談のような値段で素早く売れていく様子には驚かされるばかりだ。

先日も友人が、1940年代に建てられた、雨漏りがするボロボロの小さな家を売りに出したが、市内でも人気のエリアだという理由で、売りに出した途端に購入希望者が20人も殺到した。アメリカでは売り手に買い手が「いくらで購入したい」というオファーを出して売り手に値段を提示するが、どんどん値段が吊り上がってしまい、最後には日本円で1億円近い値が付いたというのだから本当に驚きである。売った本人ですら、喜びつつも「普通なら、ありえないこと」と困惑ぎみだった。

シアトル市があるキング郡の発表では、今夏に売れた不動産の平均価格は約65万ドル(約7200万円)で、前年度平均より14.6%上昇した。「いつか、この住宅バブルは弾けるだろう」と誰もが不安を口にしているが、不動産実績の数字は上がり続けており、一向にその気配は感じられない。

「The Puget Sound Reginal Council」のデータを見ると、昨年シアトルの人口流入数は、今世紀に入ってからの最高値を記録していることがわかる。平均すると、1日に約250人がシアトル市に引っ越してくる計算になる。現状シアトル市内で働いていても、家を市内に所有することはかなり難しいため、市の郊外に家を求める人も増えており、その数を入れたら実数はもっと増えるはずだ。

そして当然のことだが、急激な人口増に伴って、シアトルおよび近郊都市の渋滞は年々ひどくなっている。リアルタイム交通情報を配信するINRIXが発表した昨年のデータによると、シアトルに仕事で通う人が1年間に巻き込まれる渋滞時間の平均は55時間。これは全米ワースト10位、世界ではワースト23位に入る。

渋滞に巻き込まれる時間は増える一方 アマゾンおひざ元「シアトル」悩ます異常事態

車通勤をやめて、公共機関を使う人も急増しており、47%は自転車や公共機関、「カープール」と呼ばれる相乗り車などを利用しているとのことだが、それでも渋滞は緩和されず、1年間に巻き込まれる渋滞時間平均は、むしろ年々増え続けている状態だ。INRIXによると、来年にはこの数字は66時間を超える見込みだ。

実際、シアトル在住の人からは、「車で20分程度のところに行くにも1時間かかる」「渋滞がひどすぎて直接会って打ち合わせをするのもはばかれる」といった声が聞こえてくる。

また、アマゾンに勤める人たちが、配車サービスのUber(ウーバー)を使いまくることで、渋滞をさらに悪化させているという声も聞く。シアトル市内に住んでいれば、バスで会社まで行けるはずなのに、ウーバーを通勤手段に選ぶ社員は少なくないようだ。シアトルに住む友人たちは「ただでさえアマゾンのせいで渋滞が悪化したのに、勘弁してほしい」と、ぼやいている。

住宅高騰に渋滞の悪化。これらはシアトル市民が疲弊し、街の雰囲気が変わってしまった大きな要因であることは間違いない。アマゾンの第2本社を誘致したい州や街は、はたして、こうしたシアトルの現状をいったいどのくらい把握しているのだろうかと、思わずにいられない。

もうひとつシアトルが変貌してしまった大きな理由がある。それはホームレスの存在だ。

ホームレスが増えたのは、人道的支援に手厚かったバラク・オバマ政権が終わり、トランプ大統領が社会保障にかかわる予算を削減しているせいだと非難する人もいるが、残念ながらそうとは言い切れない。確かに政権交代後にホームレスは明らかに増えてはいるが、それは毎年のことなので、何も今に始まったことではないからだ。

シアトルはもともと大きなホームレス問題を抱える都市だった。そんなシアトル市のあるキング郡が、ホームレス撲滅10年計画を発表したのは2005年のこと。10年以内でホームレスを限りなくゼロにするはずだった同計画に、当時は誰もが期待したようだが、実際には失敗に終わっている。

計画の最終年であった2015年、シアトルのホームレス人口はゼロに近づくどころか、過去最大になった。アメリカ住宅都市開発省が同年発表したデータを見ると、シアトルのホームレス人口はニューヨーク、ロサンゼルス、ラスベガスに次ぎ、全米ワースト4位。しかも、その翌年にはさらに1408人もホームレスが増えて全米ワースト2位になり、シアトル市は緊急事態宣言を発令するまでに至った。

アマゾンに代表される国際企業が名を連ね、裕福な人たちが多いとされる一方で、シアトルでは広まる格差から、ホームレスに転落してしまう人は後を絶たないのだ。また、最近ではあまりに市内にホームレスが増えてしまったために、シアトルの救済施設に入り切らなくなった人たちの多くが近郊の都市に流れる傾向も見られている。特にシアトルから南に位置するタコマ市では子どものホームレスが急増しており、公立学校にはホームレスの子ども専用の救済部屋まで用意されている異常状態だ。

アマゾンがホームレスシェルターを開始 アマゾンおひざ元「シアトル」悩ます異常事態

タコマ地域で現在確認されているホームレスの学生の数は4600人にも上る。ホームレスの子どもは1年で20%も増えたという。しかも、そのうちの半分は小学生なのだ。小さな子どもたちが飢えて住む場所がない――こんな悲しいことはないだろう。

ホームレスが増えた原因の一端は、アマゾンのような国際企業が好待遇で人を雇い続けることで、周辺地域の住宅価格を押し上げているせいだという批判をかなり耳にする。その罪滅ぼしなのだろうか、アマゾンは現在増設中の本社ビルに65家族を収容できるホームレスのシェルターを併設すると発表した。

この支援は、女性や子どもへの人道支援を行う非営利団体「メリーズ・プレース」との共同事業だ。完成すれば、常時200人の家族にシェルターを提供することができるようになる。タコマ市にあふれかえっている子どものホームレス救済にも、役に立つかもしれない。本社敷地内にホームレスがやってくれば、アマゾン社員たちもボランティア活動をする機会を得ることになるだろう。シェルター完成は2020年。建設にかかる総予算は数十億円規模だという。

しかし、せっかくホームレスたちに手を差し伸べているのに、それに対する批判もあるようだ。「アマゾンがやっていることは、企業イメージアップでしかなく、ワザとらしい」と酷評されてしまった宣伝ビデオが話題となっている。

アマゾンがシアトルを拠点にしたことで、雇用が生まれ、街が活性化されたことは確かだ。一方で、シアトルはその「副作用」を消化できないでいる。今後、この解決策を見いだせたならば、シアトルは成長する街の新たなあり方を示せるのかもしれない。

トイザらスを破滅させた「アマゾンとの10年契約」

トイザらスを破滅させた「アマゾンとの10年契約」

かつて玩具業界の巨人と言われたトイザらスが9月18日、米連邦破産法11条の適用を申請して破綻した。負債総額は約52億ドル(約5800億円)と報道されている。

アマゾンでの玩具の売上が、2016年に四半期あたり40億ドルまでに膨らんだ一方で、トイザらスは2013年以降、利益を生み出せていなかった。ただし、トイザらスにも失地回復のチャンスはあった。もう少し早めに手を打っていれば、このような結果は避けられたかもしれない。

世間がドットコムバブルに沸いた2000年、アマゾンとトイザらスは10年契約を結んだ。これはアマゾン上でトイザらスが唯一の玩具の販売業者となる契約で、トイザらスの公式サイトをクリックするとアマゾン内のトイザらス専用ページに飛ぶ仕掛けになっていた。

この取り組みは当初、アマゾンとトイザらスの両社にメリットをもたらすと見られていた。しかし、アマゾンはその後、トイザらスが十分な商品を確保できていないことを理由に、他の玩具業者らをサイトに招き入れ始めた。

トイザらスは2004年にアマゾンを提訴し、10年契約を終了させた。そして2006年に自社サイトを立ち上げた。しかし、その後のトイザらスの動きは遅すぎた。

書店のBordersも同じ過ちを犯した。Bordersも2001年にアマゾンにオンライン販売を任せる契約を結び、2008年に契約を終了したが、その間にウェブのビジネスをアマゾンに奪われた。アナリストは「彼らは未来を譲り渡してしまった」と述べた。

米量販店のターゲットはこの罠にはまらなかった。ターゲットも2001年にアマゾンにEコマースを任せる契約を結んだが、2009年に契約を解除。2011年に自社のEコマースサイトを立ち上げ、年間25億ドルをテクノロジーとサプライチェーンに投資すると宣言した。ターゲットのEコマース売上はまだわずかなものではあるが、ウェブ経由の売上は四半期あたり30%増のペースで伸びている。

その一方、トイザらスの場合は今年5月になってようやく、Eコマース事業の立て直しに向け、今後3年間で1億ドルを投じるとアナウンスした。しかし、彼らの取り組みは遅すぎたとしか言えない。

破産申請を行ったトイザらスは今、同社のブランド名の存続を目指してはいるが、「トイザらス」の商標は今後、他のオンライン業者の客寄せの看板として利用されることになるかもしれない。

最新の統計では米国人の90%が今も実店舗で買い物を楽しんでいる。しかし、小売業者を破滅に追い込むには、残りの10%が実店舗での購入をやめるだけで十分だ。米国では今年に入り、靴の販売のペイレスシューソースや子供服のジンボリーらが相次いで破産した。

トイザらスがもっと早く、大きな投資をウェブ向けに行っていればこの事態は防げたはずだ。しかし、トイザらスもまた他の小売業者と同じ破滅への道を歩んでしまった。

Amazon.co.jpでセール「プライムデー」開始 トップページがポメラニアンに

Amazon.co.jpでセール「プライムデー」開始 トップページがポメラニアンに

Amazon.co.jpで7月10日18時にプライム会員向けのビッグセール「プライムデー」がスタート。アクセスが殺到しているのか、トップページがつながりにくくなっています。

プライムデーの特設ページや個別の商品ページはアクセス可能ですが、Amazon.co.jpトップページは「お探しのページは見つかりませんでした」というメッセージとポメラニアンが表示される事態に。

 セールは7月11日23時59分までの30時間にわたって開催。一部の時間を除き5分ごとに商品が続々と登場し、数十万種類以上の商品を特別価格で販売します。

※当初「ダウン」としておりましたが、Amazon.co.jpからつながるケースもあるとの連絡があり表記を変更いたしました。

アマゾン、「当日配送」維持へ独自網強化 ヤマト縮小で

アマゾン、「当日配送」維持へ独自網強化 ヤマト縮小で

通販大手のアマゾンが、「当日配送」ができる独自配送網の拡大に乗り出していることが分かった。宅配最大手のヤマト運輸が人手不足から当日配送を縮小しており、アマゾンはこれまで東京都心の一部で使っていた独自配送網を強化することで、サービスの維持を図る考えとみられる。

 今月上旬から、新たに中堅物流会社の「丸和運輸機関」(埼玉県)に当日配送を委託し始めた。23区内の一部から始め、委託するエリアを首都圏に拡大していくとみられる。丸和はこれまで、ネットスーパーの配達などを手がけてきたが、当日配送を含めた宅配事業を大幅に拡大する方針だ。

 アマゾンの配送を担う主力のヤマト運輸は、ドライバーの負担や人手不足を理由に、当日配送を縮小している。更に、アマゾンなどに対し実質的な値上げも求めている。

 一方、アマゾンは配達のスピードや、有料会員向けの「送料無料」などのサービスが売り。アマゾンは日本郵便など他の物流大手を活用しつつ、中堅や中小の物流会社との関係を深めることで、自分たちが期待するとおりのサービスを実現させる狙いがある。

米国株は横ばい、アマゾンによるホールフーズ買収で一部小売株に売り

米国株は横ばい、アマゾンによるホールフーズ買収で一部小売株に売り

米国株式市場はほぼ横ばいで引けた。アマゾン・ドットコムがホールフーズ・マーケットを買収すると発表したことで一部小売株が大きく売り込まれたほか、アップルの下落がナスダック総合の重しとなったものの、エネルギー株の買いがダウとS&Pの支えとなり、全体としてはほぼ横ばいとなった。

アマゾンは2.4%、ホールフーズは29.1%、それぞれ上昇して終了。

一方、スーパーマーケットチェーンのクローガーは9.2%、 スーパーバリューは14.4%、それぞれ下落したほか、ウォルマート・ストアーズは4.7%安、ターゲット、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス、コストコ・ホールセールは5─7%下落して引けた。

S&P食品・生活必需品小売指数は4.2%下落。

アリアンツ・グローバル・インベスターズのダラス投資チーム最高投資責任者(CIO)、バーンズ・マッキニー氏はアマゾンによるホールフーズ買収は「究極の波乱要因」だったとし、「衝撃は株式市場全体に広がる」と指摘。「今回の案件による明確な勝者と敗者が出てくる」と述べた。

ハイテク株は0.2%下落。アップルが1.4%安となったことが響いた。年初からの株価上昇をけん引してきたハイテク株はこのところ失速している。

エネルギー株は1.7%上昇。

この日に発表された米経済指標では、5月の住宅着工件数が年率換算で前月比5.5%減の109万2000戸と、昨年9月以来8カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。

騰落銘柄数は、ニューヨーク証券取引所では上げ銘柄が下げ銘柄を上回り、比率は1.36対1、ナスダックでは下げ銘柄が優勢で比率は1.22対1だった。

米取引所の合算出来高は約97億株で、直近20営業日の平均である約68億株を上回った。

楽天がAmazonに勝てない理由は「物流哲学の差」にあった 割引している場合じゃない

楽天がAmazonに勝てない理由は「物流哲学の差」にあった 割引している場合じゃない

かつて国内ネット通販の二大巨頭として激しい勢力争いを繰り広げてきたアマゾンと楽天に、決定的な違いが生じつつある。次々と新しいサービスを繰り出すアマゾンに対して、楽天は具体策を打ち出せない状況が続いている。アマゾンと楽天は何が違ったのか、今後、楽天に復活の可能性はあるのかについて探った。

■「楽天ポイント」に頼りすぎ

楽天の2016年12月期決算は、営業利益が前年比17.6%減の739億円と2期連続の減益となった。売上高は9.6%増だが、主力のEC事業で販促費用がかさみ利益を圧迫した。減益要因のひとつといわれているのが、同社が2016年1月からスタートさせた「楽天スーパーポイントアッププログラム(SPU)」である。

これは楽天市場におけるポイント制度を大幅に拡充した新しいキャンペーンである。通常、楽天市場では商品を購入すると100円あたり1ポイントが付与される仕組みになっている。貯まったポイントは商品の購入などに使うことができるので、ポイント制度の存在は顧客の囲い込みにつながる。

楽天の三木谷浩史社長 Photo by GettyImages

楽天では、こうした通常ポイントに加え、楽天カードを利用すると追加でポイントを付与したり、期間限定でポイントが数倍になったりするキャンペーンを、随時行なっている。今回、実施されたSPUはこれをさらに拡充したものである。

注文をアプリ経由にする、プレミアムカードを利用する、電話サービスの楽天モバイルに加入するなど、あらかじめ決められた条件を満たすと、通常ポイントの比較で最大7倍のポイントをゲットできるというものだ。

ポイントは最終的には商品と交換できるので、このキャンペーンは事実上の値下げということになる。このため楽天では、キャンペーン実施のために、かなりの予算を確保する必要に迫られ、これが営業利益を押し下げた。

同社の国内EC事業の売上高は3112億円と前期比9.3%と大きく伸びたが、同部門の営業利益は775億円と20%近くのマイナスとなっている。営業利益の減少分が販促活動に回ったと考えていいだろう。

つまり楽天は、国内のEC事業を伸ばすため、コストをかけて販促活動を行ったわけだが、EC事業での売上高を確保するため、消耗戦を行ったと解釈することもできる。楽天がここまで必死になっているのは、当然のことだが、アマゾンの追い上げが激しくなっていることが要因である。

■なるほど、この仕組みが…

楽天は2015年の第3四半期から楽天市場単体での流通総額を公表しなくなった。上場企業が開示をやめる時というのは、当該事業が順調ではないというケースがほとんどである。

2016年度に楽天が取り扱ったEC流通総額は約3兆円と前年比で12%増えたが、この数字は楽天トラベルにおけるホテル予約なども含めた数字であり、以前、開示していたECサイトの流通総額とは異なる。楽天市場単体の流通総額の伸びはもう少し小さいと考えた方がいいだろう。

一方、アマゾンの日本国内における売上高は約1兆2000億円で2015年と比較すると20%以上も拡大している。アマゾンは、一部でマーケット・プレイスなど自社以外の出店者の商品も扱っているが、楽天とは異なり、自社で仕入れた商品を中心に販売を行っている。

楽天のビジネスモデルは、楽天市場という場所を貸し出すことで出店者から料金を徴収するというものなので、あくまで販売主体は出店者側にある。

この仕組みこそが、楽天が一気に業容を拡大できた理由だが、すべてを自社で取り仕切るアマゾンとの差がここまで縮まっているというのは、楽天にとってはかなりの脅威となるはずだ。

Photo by GettyImages

アマゾンはここ1〜2年で斬新なサービスを次々と繰り出している。2015年に開始したプライムナウは、年会費3900円のプライム会員を対象に、アプリを通じて注文した商品を1時間以内に配送するという即時サービスである(1回あたり2500円以上の注文が条件で890円の配送料が必要。2時間以内でよければ配送料は無料)。

2016年には自社で直接販売しないマーケット・プレイスの商品についても「お急ぎ便」で受け取ることができる新サービス「マケプレプライム」を開始した。一定基準を満たした出店者の商品については、アマゾンが取り扱う商品と同様、お急ぎ便の対象となる。

2017年に入るとプライムナウのサービスを拡充し、三越日本橋本店、マツモトキヨシなどの商品も即時配達サービスの対象にした。また同じタイミングで、野菜や果物、鮮魚など生鮮食料品を配送する「アマゾンフレッシュ」もスタートさせている。

10万点近くの食料品や日用品を最短4時間で自宅に届けてくれるというもので、プライムナウと同様、アマゾンフレッシュについても、アマゾンの自社配送網を使ってサービスを提供する。

アマゾンからの取り扱いを増やしたヤマト運輸が荷物をさばき切れなくなり、アマゾンに対して値上げ交渉を行うという事態になっているが、これもウラを返せば、アマゾンが便利なサービスを次々と打ち出し、利用者数と利用頻度を増大させたからにほかならない。

アマゾンがサービス・レベルにおいて楽天を大きく引き離すことができた理由は2つある。ひとつは物流に対する考え方の違いであり、もうひとつはビジネスモデルそのものの違いである。

アマゾンは一連の高度なサービスを実現するため、ここ数年、大型の物流センターを相次いで建設しており、すでに13ヵ所のセンターを自前で運用している。

その中でも最大規模となっているのが2013年に稼働した小田原の物流センターで、延べ床面積は約20万平方メートルに達する。米アマゾンの物流センターの平均的な面積が11万平方メートルであることを考えると、小田原の施設は世界的に見ても大きい。

また、昨年8月に川崎市にオープンした物流センターでは、国内初となるロボットによる商品管理システム「アマゾンロボティクス」が導入されている。

アマゾンは全社的になかなか利益が出ない状況が続いていたが、ウラではこうした巨額の投資を続けていた。一連の巨額投資がようやく実を結び、利益に貢献するようになっている。

楽天もアマゾンに対抗するため、出品者の配送を取りまとめる物流センターの構築を計画していた。当初は全国に8ヵ所のセンターを構築する予定だったが、計画は順次縮小となり、現在では千葉県の市川市に2ヵ所、兵庫県川西市に1ヵ所の合計3カ所の運用にとどまっている。

3拠点を合計しても延べ床面積は15万平方メートル程度なので、アマゾンと比較すると規模の小ささは一目瞭然だ。

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■再起できるか

両社の違いを分けたのは、物流に対する考え方そのものである。楽天にとって物流は付随的なものでしかなく、ビジネスの根幹部分であるとは認識してなかった可能性が高い。もしそうだとするならば、原因は楽天のビジネスモデルそのものにある。

先にも述べたように、楽天は、出品者から出店料を徴収するビジネスモデルを基本としている。楽天にとって直接利益をもたらしてくれる「お客さん」は出店者であって利用者ではないのだが、この事実は、時に利用者との間に利益相反をもたらす可能性を秘めている。

楽天にとっては、出店者のサービス水準が低くても、出店者から徴収する料金さえ確保できれば自社の業績は拡大する。

もちろん最終的に利用者の支持があってこそだが、顧客である出店者側の事情が最優先されやすいのは事実である。新しいサービスを登場させるにしても、出店者側の協力を得ないとプロジェクトは進まない。

一方でアマゾンの顧客は常に利用者である。アマゾンは自らの収益を拡大するためには、利用者の満足度を向上させなければならず、こうしたプレッシャーが高度なサービス開発につながった可能性は高い。

とりあえず楽天はEC取扱量を拡大させることに成功したが、これは多少無理な値引きで実現した数字といってよい。無制限にポイントを引き上げることはできないので、この販促もいつかは限界がやってくる。

取扱量を継続的に確保していくためには、「お金」ではなく「サービス」の中身で「最終利用者」という「顧客」の満足を確保しなければならないが、超えなければならないハードルは高そうだ。

「Amazonプライム」の月間プラン、月額400円で提供開始

「Amazonプライム」の月間プラン、月額400円で提供開始

アマゾンジャパン合同会社(Amazon.co.jp)は8日、「Amazonプライム」月間プランの提供を発表した。料金は月額400円(税込)で、申し込みから30日間は無料の試用期間となっている。

 Amazonプライムは、2007年6月より年額3900円(税込)で提供されている。会員は「お急ぎ便」や「お届け日時指定便」を無料で利用できるほか、「Amazonフレッシュ」「Amazonパントリー」「Prime Now」「プライム・ビデオ」「プライム・フォト」「Prime Music」「Kindleオーナーライブラリー」などの会員向けサービスも提供されている。

 Amazon.co.jpバイスプレジデントプライム統括事業本部長の紣川謙氏は、「ショッピング、観る、聴く、読むといった特典が使い放題のAmazonプライムを、この度、月会費400円でご提供できることを大変うれしく思います。より多くのお客様に、『Amazonプライム会員にならないなんて考えられない』と感じていただける特典を提供していきたいと考えております」と述べている。
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