ヒョウ柄の巨大外来ナメクジ、北海道で生息域が急拡大 農作物の食害の恐れも

体長が最大15センチにも達する巨大な外来ナメクジが、北海道で猛烈な勢いで生息域を拡大していることが、北海道大などの調査で分かった。鮮やかなヒョウ柄の模様が特徴の「マダラコウラナメクジ」で、このまま繁殖が続けば農作物への食害が懸念される。

 ■2006年に国内侵入

 マダラコウラナメクジは体長10〜15センチの巨大ナメクジ。北欧が原産で北米、南米、豪州、南アフリカなど世界中に分布を拡大中だ。日本では2006年に茨城県土浦市で初めて発見された。輸入された観葉植物の鉢などに付着していたのではないかとみられている。

 生息域は長野県や福島県にも拡大。北海道では札幌市中央区の円山公園で12年に初めて発見された。その後も札幌市周辺で目撃が相次いだため、研究チームは16年、道内の分布状況調査に乗り出した。

 研究チームは地元の新聞やテレビなどを通じて、一般市民に目撃情報の提供を呼びかけた。その結果、約40件の情報が寄せられ、情報提供者が撮影した画像や日付を確認したところ、発見から5年間で生息域が急速に拡大していることが判明した。

 ■5年で130キロ移動?

 生息情報の多くは札幌市に近い江別市、岩見沢市、北広島市などに集中していた。だが札幌市の北東85キロの芦別市、南西130キロの八雲町、同110キロの島牧村、同90キロの室蘭市など、遠く離れた地域でも生息が確認された。

 在来ナメクジの移動速度は種類や個体によって差はあるが、一般に分速10センチ程度といわれる。時速に直せば6メートル、年速なら約53キロだ。マダラコウラナメクジの速度も同程度と仮定すると、生息が確認された地域の中で、札幌から最も遠く130キロ離れた八雲町まで、およそ2年半で到着できる計算になる。

 ただ、24時間休みなしで動くのは無理で、一直線の最短距離で移動することなどあり得ないため、実際はこの何十倍もの時間がかかるはずだ。こう考えると、マダラコウラナメクジの生息域拡大のスピードは驚異的過ぎるように見える。

 研究チームの森井悠太・北海道大研究員は「遠方への拡大が早いことには驚いた。自力で到達できる距離ではないので、園芸植物や工事用土木資材などに付着して輸送されたのだろう」と推測している。

 国内の他地域や海外から新たに移入した可能性もあるが、これについての確認はDNA解析など、さらに詳しい研究が必要という。

 ■寄生虫媒介の可能性も

 マダラコウラナメクジは雑食性で落ち葉や草、木の実、小動物の死骸などを食べる。海外では農作物への食害が問題になっており、最初に発見された茨城県内でも、茨城県自然博物館がヒラタケや観葉植物への食害を確認したと報告している。

 このため北海道でも農作物被害が懸念される。北欧原産だけに寒さに強いことから、繁殖しやすい環境かもしれないためだ。

 実際、森井さんが14年に円山公園内でマダラコウラナメクジ2匹を見つけて解剖したところ、「生殖器官が発達し繁殖できる状態だった」。繁殖力は強く、環境さえ整えば1年に何度でも産卵するそうだ。

 繁殖した場合、懸念されるのは食害だけではない。ナメクジは細菌や寄生虫を媒介する。人の脳や脊髄の血管、髄液の中に寄生し、重篤化すると死に至る髄膜脳炎を起こさせる寄生虫「広東住血線虫」を媒介することもあると知られている。マダラコウラナメクジ自体は無毒で、広東住血線虫を媒介した例の報告もないが、もし触ってしまったら念のため、手をよく洗うことが必要だ。

 ■在来大型ヒルが天敵

 今回の調査では、マダラコウラナメクジにも天敵が存在することも判明した。市民からの情報に、在来の大型ヒル「カワカツクガビル」が捕食している写真が含まれていたのだ。

 ミミズを専門に捕食する体長10センチほどの黒色のヒルで、北海道だけに生息する。それが、自分の体より太いマダラコウラナメクジを飲み込んでいた。

 外来種は日本古来の在来種を駆逐することが多いが、やられっぱなしではないらしい。このヒルは、新たな侵入者に対して自身の食性を変えて対応していた。研究チームの中野隆文・日本学術振興会特別研究員は「主食のミミズは豊富なのに、なぜ外来ナメクジを食べたのか。進化生物学的な観点からも非常に興味深い」と話す。

 もしマダラコウラナメクジを見つけたらどうすればいいのか。何か気をつけることはあるのだろうか。中野さんは「むやみに触らない方がいいが、攻撃性もなく恐れる必要はない。通常のナメクジと同様に駆除してかまわない」と話す。

 駆除の具体的方法は、大量に塩をかけて退治することもできるが、土壌の悪化で環境に影響を及ぼす可能性があるため、「踏みつぶしたり切断したりする方が良い」という。