「丸源ビル」創業地で姿消す 北九州市内の物件全て売却

東京や福岡の繁華街に「丸源」の名称で飲食ビルを展開している貸しビル業「丸源」(東京)が、北九州市内に所有するビル全17棟(信用調査会社調べ)を売却したことが分かった。北九州市は同社の創業地。ビルの多くは老朽化し、地域衰退の象徴ともなっており、売却後の再開発による市街地活性化に期待が高まる。

丸源関係者や同市によると、17棟の多くは1960〜80年代に建設、老朽化が進み空室も多かった。数年前から複数の不動産関連会社や個人への売却を進め、今年8月、地場不動産会社のヒット(北九州市小倉北区)に最後の8棟を一括して売却し、不動産の登記移転も完了させたという。売却額は非公表。

 ヒットはこの8棟と合わせ計9棟を購入したほか、サッカーJ3のギラヴァンツ北九州の本拠地ミクニワールドスタジアム北九州(同)隣接地に1万800平方メートルの土地も取得。多くがJR小倉駅に近く、飲食ビルの開発や住居としての再生などを検討している。同社幹部は「北九州の価値を上げるように頑張りたい」と話している。

 同市内の丸源ビルを巡っては、市が2014年、複数のビルに防火設備の不備があるとして、会社と経営者の川本源司郎氏を消防法違反容疑で刑事告発(後に不起訴)した。昨年4月までに対象ビルが閉鎖されるなど消防法上の不備は解消されたという。

 川本氏は1960年代に小倉周辺で貸しビル業を始め、福岡市・中洲や東京・銀座に進出。米国にも物件を所有し、米経済誌に「日本の億万長者の一人」として紹介されたこともある。川本氏の関係者は西日本新聞の取材に対し「市内の丸源ビルの売却は数年前から進めてきたことだ」と語った。

丸源ビル経営者 川本 源司郎

川本 源司郎(かわもと げんしろう、昭和7年(1932年)は、日本の実業家。銀座や中洲、小倉などに「丸源ビル」の名称で多くの雑居ビルを所有する。日本の億万長者の1人として知られる。

川本 源司郎とは

1932年、福岡県小倉市(現・北九州市)の呉服屋「丸源」に生まれた。子供のころの夢は「金閣寺に住みたい」であった。

地元小倉の私立常磐高等学校を卒業。慶応大学を中退し家業を継ぐ。もうけの大半を不動産に投資[4]。高度経済成長による不動産価格の高騰で莫大な利益を上げ、貸しビル業に乗り出す。

呉服屋を廃業後、1960年に飲食ビル賃貸業に転じる。家具付きで飲食店を貸し出す手法が人気を博し、事業は順調に伸び、福岡の中洲に進出する。

1972年には東京へ進出する。2年後の1974年には、当時は飲食ビルが少なかった銀座の目抜き通りに10階建てのビルを建設。1980年には銀座に8棟のビルを所有するまでになった。丸の中に「源」という赤いネオンは、夜の銀座の象徴にすらなった。バブル期には、銀座をはじめ赤坂、六本木、福岡の中洲などに計60棟ほどの飲食テナントビルを所有、約5,900のテナントが入居していた。

バブル期の総資産は1,000億円を優に超え、資産家として雑誌に度々登場[3]。映画『地平線』(新藤兼人監督)の制作に際し8億円をキャッシュで出した。徹底した現金主義者として知られ借金もゼロ、クレジットカードすら持たず現金でできる範囲のことをやっていたために、バブル崩壊期もほぼ無傷で乗り切った。バブルも川本は異常な状態と認識し、競うように不動産に投資を行っていた銀行も信用せずに自らの目で物件を選んだ。こうした川本の冷徹な一面を虚無主義者と評する者もいた。

自身の事を『日本一の資産家』と自称し、かつては『1000億、2000億は簡単に動かせる』と豪語して回っていた。また、1996年にハワイに高級住宅を購入し、そこに低所得者を住まわせたり建物を管理せず放置して近隣住民とのトラブルになった。金銭に執着しない一面、税金の支払いには極度に消極的な姿勢を見せ「節税をしない経営者はバカ。無駄な税金を支払う必要はない」と公言。節税対策には細心の注意を払った。

丸源ビルとは

スナックやクラブなどが多数入居するビル(ソシアルビル)が中心である。ビルには番号が付いており、例えば「丸源29ビル」のように表記される。ちなみに、1番は福岡県北九州市小倉北区京町にあったが、小倉駅前東地区第一種市街地再開発事業によるセントシティ北九州ビル(現在、コレットが入居)建設に伴い解体された。

また、売却されたビルや、売却後解体されたビル[7]もある。

川本は不動産の管理に特定の会社を設けず、丸源興産、みなもと興産、丸源、丸源商事、東京商事など自身が代表を務める会社の設立と清算を繰り返してきた。

2013年3月4日、会社の所得約28億円を隠し、約8億円を脱税したとして、東京地検特捜部に法人税法違反容疑で、5日に社長に対する強制捜査が行われた。翌6日特捜部に法人税法違反で逮捕された。同月25日に起訴。

2016年、北九州市にある2棟の丸源が所有するビルに防火設備の不備があるのに、改善命令に従わなかったとして、福岡県警察に消防法違反容疑で、4月20日付けで代表の川本と法人としての丸源が書類送検された。

生涯独身の川本 源司郎の考え方

2013年現在、川本は独身で、後継者も育ててこなかった。

周囲には「僕が死ねば資産は国に接収されて丸源は終わり。それでいい」と漏らしていたという。ある知人男性は「あれだけの成功者なら、たいこ持ちのような人間を周囲に集めたり、若く美人な妻などを欲しいと思うもの。しかし彼はそうしたものに興味がない」と明かした。

あるとき、商売仲間が“結婚しない理由”を問いただすと、川本はこう答えていたという。「子供ができて変なことされても困るからな。この商売をやるのは俺1人でいいんだ」