東芝メモリ争奪戦「日米連合」が本命も資金面に不安

東芝が進める半導体フラッシュメモリー事業の入札に、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と官民ファンドの産業革新機構が共同で応札する意向を固めた。東芝メモリ争奪戦で突如、本命視された「日米連合」だが、実際の枠組みはガラス細工のように不安定。なお波乱含みの展開が続いている。

 「この枠組みが実現するなら『最適解』になるだろう」。2兆円ともされる東芝の半導体新会社、東芝メモリの入札が難航する中、KKRと革新機構が共同応札する見通しになったことに、東芝幹部は最有力候補として期待を寄せている。

 KKRは、パナソニックからヘルスケア事業を、パイオニアからDJ機器事業を、日立製作所から日立工機を、それぞれ買収しており、日本の大手電機メーカーのスピンアウト事業の投資に実績がある。3月29日に締め切られた東芝メモリの1次入札にも単独で応札していたが、提示金額は低く、水面下で他社と連携を模索してきた。

 一方で、革新機構は1次入札には参加していないが、IoT(モノのインターネット)時代に爆発的な需要が見込める東芝のフラッシュメモリー事業に関心を持ち、経済産業省が中国・台湾企業の買収に「外為法(外国為替及び外国貿易法)」で阻止する構えを示すのを背景に、日本政策投資銀行や、他社との提携による共同出資の枠組みづくりを急いできた。

今年3月、KKRはカルソニックカンセイを買収。同社株を保有していた日産自動車の副会長でもある志賀俊之・革新機構会長とKKRの関係は深い。両者の思惑は一致し、5月中旬に締め切られる2次入札に共同応札する方向で調整に入った。

 2017年3月末の債務超過が確実な東芝は、来年3月末までに解消できなければ上場廃止となるため、東芝メモリ株の早期売却は必須。

 1次入札では、米ウエスタンデジタル(WD)、韓国SKハイニックス、米半導体大手ブロードコム、台湾・鴻海精密工業と世界大手の4陣営が有力候補として残ったが、WDやハイニックスといった競合メーカーでは、各国の独占禁止法の審査が長引いて来年3月に間に合わなくなる恐れがある。さらに、中国本土に巨大工場を展開する鴻海の場合も、技術流出を懸念する日本政府が外為法で阻止に動くため、東芝側は難しい選択を迫られていた。

 独禁法と外為法の壁、さらに来年3月末までの売却完了を目指すなら、KKR・革新機構は「最適解」になり得るというわけだ。

 また、この枠組みでは、早ければ2〜3年後にもIPO(新規上場)するとみられ、海外メーカーの傘下で、開発・生産の主導権を奪われることを懸念していた東芝メモリの技術者にとっても、自立の道が開ける。

● 2兆円の調達に難航も日本連合に現実味なくWDの合流は波乱要因

 だが、有力とされるこの連合も、およそ2兆円の事業価値とされる東芝メモリの価格が最大のネック。

 KKRは、世界で13兆円超の運用資産を持つが、アジア向けには13年6月に募集した60億ドル(約6600億円)の「アジア2号ファンド」が資金源で余力は少ない。関係者によると、現在3号ファンドを募集中だが、東芝メモリ1社に使える資金は限られるとみられている。

また、革新機構も、ジャパンディスプレイやルネサスエレクトロニクスへの投資などで、残された投資余力は1兆円程度。「この全てを東芝メモリにつぎ込むわけにはいかない」(革新機構幹部)状況で、資金確保が大きな課題だ。

 経産省や経済界は4月上旬から、複数の日本企業に「奉加帳方式」で50億〜100億円の出資を募って工面することを目指してきたが、経団連の榊原定征(さかきばら・さだゆき)会長から東芝メモリへの出資参加の打診を受けた有力企業首脳は「株主に説明ができない」と拒絶。こちらの「日本連合」も難航しているもようだ。

 さらに厄介なのが、東芝の四日市工場を合弁で運営するWDの動向だ。WDはKKR・革新機構の枠組みに合流することが検討されているが、WDの出資を高めれば、懸念する独禁法の審査の対象にもなり得る。

 もともと、WDは4月9日付で東芝の取締役会宛てに送った意見書で、東芝メモリを他社に売却することを拒否する意向を示している。革新機構と連携することには柔軟な姿勢だが、東芝内部では、東芝メモリ設立後に突如「待った」をかけたWDに対し、「危機に乗じてフラッシュメモリー事業を乗っ取ろうとしているのでは」との警戒があり、提携相手でありながら、WDの影響力が強まることに抵抗がある。

 KKR・革新機構の連合の実情は、WDや日本連合との「接ぎ木」を想定する不安定な枠組みだ。さらに永田町では4月25日、超党派の国会議員が「経済・技術安全保障を考える議員連盟」を発足。東芝メモリの「外資への売却反対」の圧力を強めており、「日米連合」実現の波乱要因ともなり得る状況だ。東芝メモリ売却に向けた混迷は続く。