ワタミ「復活報道」も虚しく、18億円の最終赤字に転落したワケ

従業員の過労自殺や創業者である渡邉美樹氏の過激な発言が注目を集め、ブラック企業の烙印を押されてしまった「ワタミ」。しかしその後の経営努力で倒産という最悪の事態は免れました。そんな同社が発表した3月期の決算は、最終損益18億円の赤字という芳しくないもの。この状況について、無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』の著者でMBAホルダーの安部徹也さんが、ワタミが展開する各事業別に分析しています。

18億円の最終赤字に転落したワタミの経営の危険度

ワタミが発表した2017年3月期の決算で、最終損益が18億円の赤字に転落したことが明らかとなりました。

ワタミは、これまで顧客の「居酒屋離れ」を食い止めるために、自ら率先して値下げ競争を繰り広げたものの、事態は好転せずに経営は悪化していきます。

加えて、従業員に過労を強いる「ブラック体質」が社会問題化し、悪評によってブランドが著しく傷つけられたことにより顧客離れが加速。2015年3月期には128億円という巨額の最終損失を計上して、経営は抜き差しならないところまで追い込まれます。

この危機的な状況を脱するために、ワタミが繰り出した苦肉の策が虎の子の介護事業の売却だったのです。

ワタミは2015年12月に事業の一つとして大きな柱であった介護事業を損保ジャパン日本興亜ホールディングスに210億円で売却し、150億円を超える売却益を計上して最悪の事態を免れます。

ところが一転、2017年3月期はまたもや18億円という少なくない最終赤字に転落してしまったのです。

もうすでに介護事業という一つの大きな柱を失い後がないワタミですが、経営は大丈夫なのか?

今回は発表された財務諸表を分析しながら、ワタミの業績面の検証を行っていきましょう。

最終赤字の原因は何なのか?

さて、2017年3月期のワタミの最終赤字ですが、原因はどこにあるのでしょうか?

まず、売上高から見ていくと2017年3月期は1,003億円と前年から21.7%も減少しています。

ただ、営業利益は前年の2億9,000万円の赤字から1億8,000万円の黒字に転換。経常利益に至っては11億3,000万円の赤字だったものが、7億2,000万円の黒字と急回復しています。

前期の赤字の要因となったのは、不採算店舗の撤退などに伴う一時的な費用であり、特別損失にとして減損損失を21億円計上したために最終赤字に転落してしまったというわけです。

この損益計算書の内訳を見る限りは、ワタミの経営は健全化に向けて順調に回復しており、前期は最終赤字に陥ったといえども、一時的なものでそれほど深刻に考える必要はないといっても過言ではないでしょう。

セグメント別の業績はどうなっているのか?

それでは、続いてセグメント別の業績を見ていきましょう。

現在、ワタミには、
居酒屋を中心とした国内外食事業高齢者向けに弁当を宅配する宅食事業海外で外食事業を展開する海外外食事業再生可能エネルギーを中心とした電力小売業を展開する環境事業主に自社の食材に使うための安心安全な農産物を生産する農業
という5つのセグメントがあります。

このうち、主力の国内外食事業は479億円とほぼ前期並みの売上高をキープしました。

ただ、収益面を見ると2億円の赤字となっており、その前の期の15億円の赤字に比べれば改善しつつあるものの、まだ黒字化できていない状況です。

この国内外食事業において、最近では、ワタミの不採算店を閉鎖する一方、「ミライザカ」や「三代目鳥メロ」といったワタミブランドを冠しない新業態への転換を積極的に行っています。

これらの新業態は、今や居酒屋業界で成長著しい鳥貴族のような低価格のメニューを提供することで人気を博しており、今後の国内外食事業黒字化の鍵を握ることになりそうです。

続いて、今やワタミの屋台骨を支える宅配事業を見ていくと、2017年3月期は売上高359億円、セグメント利益は25億円と好調に推移しています。

売上自体は前期比4.4%の減収となったものの、利益は18.8%増で今後もワタミが復活を目指すうえで、宅配事業は重要な「キャッシュカウ」となるといえるでしょう。

次に、事業的に苦戦を強いられているのが海外外食事業です。

2017年3月期には新規に7店舗の出店を行いましたが、不採算店舗の18店を閉鎖するなど、なかなか軌道に乗せることができていない状況といえます。売上高は19.8%も減少して128億円に留まり、損失は5,000万円を超えるなど、今のところは大きな赤字要因ではありませんが一つの心配の種といえそうです。

また、電力小売りを展開する環境事業は、旺盛な電力需要に支えられて順調に成長しています。

売上高は12.9%増の26億円、利益は5,000万円を記録し、規模的には主力事業に及びませんが、今後も安定的に収益をもたらす役割を担うのではないでしょうか。

そして最後の農業部門ですが、売上高こそ、10億円と前期比54.1%という高い伸びを記録しますが、利益は思うように伸びずに2億円近い損失を計上することになりました。

今後は、より差別化された農産物の生産に注力して付加価値を高めていくことが、ワタミグループの外食および宅食のブランド価値向上にも直結するために、より一層の努力が期待されます。

このように事業セグメント毎に見ていくと、ワタミが今後完全復活するためには、主力の国内外食事業のテコ入れを急ぐ必要がありそうです。前期はセグメント損失も15億円から2億円まで大幅に改善していることを考えれば、新業態への転換を加速させることによって、今期中の黒字化も決して不可能なことではないでしょう。

また、海外外食事業においては収益化を図る一方でグループのシナジーを活かせないと判断すれば、現地企業への売却や最終的には全面撤退も含めて選択と集中を行うなど戦略を練り直す必要があるかもしれません。

いずれにしろ、業績面では前期最終赤字を計上したといえど、かつてほど深刻な事態ではないと判断できます。

ただ、経営の危険度は業績面だけでは図ることはできないので、次回はバランスシートとキャッシュフローの面からワタミの経営分析を行っていきたいと思います。