オウム麻原の主治医「中川智正」が綴った「金正男」殺害の分析レター

刑執行のカウントダウンが始まったと言われるオウム真理教の死刑囚13人。そのうち、地下鉄サリン事件をはじめ11の事件に関わり、25人の殺害に手を染めたのが、教祖・麻原彰晃の主治医だった中川智正死刑囚(54)である。そのマッド・ドクターが、猛毒のVXガスが使われた金正男暗殺事件を分析するレターを綴っていた。

現在、13人の死刑囚は全員、東京拘置所(東京・小菅)に収監されている。

 司法担当記者によれば、

「これまで、再審請求中の死刑囚には刑の執行がなされることはほぼありませんでした。オウム裁判でも、麻原をはじめ複数の死刑囚が再審請求を申し立てています」

 ところが、今夏、18年ぶりに大阪拘置所で再審請求中の死刑囚が刑に処された。

「つまり、死刑執行における再審請求のハードルとしての役割が低くなってきたわけです。また、長期逃亡のすえに逮捕された高橋克也に無期懲役の高裁判決が昨年下され、オウム裁判は事実上終結しました。その結果、13人はいつ処刑台に立たされてもおかしくはない状況です」

 麻原に次いで多い11の事件で罪に問われた中川も、刑場の露と消えるのをただ待つしかない立場。人生の幕引きを前にして罪滅ぼしのためなのか、金正男暗殺事件に関する分析レターを書き記していた。

 7月25日にそれを受け取ったのは、毒性学の世界的権威、コロラド州立大学のアンソニー・トゥー名誉教授である。6年前から、テロ研究のために、オウムでサリン製造のメンバーだった中川との面会を重ねてきたという。
発表前に

その分析レターの中身を見てみると、〈彼ら(北朝鮮)は、この殺人を病気による突然死に偽装しようとしたのだと思います。(略)3件のオウムVX事件では、犯罪が起きたと考えた医師はいなかった。(略)最初の診断は脳卒中、心臓発作、農薬中毒でした〉〈VXは、金氏の皮膚だけではなく、より容易かつ急速に浸透する目を通じて吸収されたに違いありません。その結果、(略)飛行機搭乗より前に死亡し、最も重要な証拠である遺体がマレーシアに残りました〉。

 さらに、〈犯人の女性達は死亡する可能性が高かったと思います。(略)我々がVXを使用した時は、実行犯は針なしの注射器から数滴のVXを飛ばしました。マレーシアVX事件では女性達はVXを手に取り、金氏の顔に塗りつけました。彼女達が手袋を着用していようと他の部分は保護されていませんので、一種の自爆攻撃と言えます〉などと論じている。

 アンソニー・トゥー名誉教授に聞くと、

「2月13日に金正男暗殺事件が起こったときも、中川さんは弁護士を通じてメールを送ってきました。そして、マレーシア当局によって、VXガスが殺害に使用されたと発表されるよりも前にVXガスに言及していたのです」

 その後、4月に入り、11回目となる面会をしてきたという。

「そこで、中川さんから、VXガスについて何を書けばみなの役に立つだろうかと相談されました。私は人間にどのような作用をもたらすかを書いたらいいのではとアドバイスした。歴史上、VXガスで人を殺害したことがあったのはオウムだけ。しかも、中川さんは製造過程でVXガスに触れたオウム信者の解毒処理も行っていますし、自らも中毒症状を起こしたことがあり、実体験に基づいた証言をすることができるのです」(同)

 死して残すは、凶悪犯罪の体験談か。