30歳の安室奈美恵がAERAに語った「どん底」と「カッコイイ安室奈美恵」

ステージ上では強い女性。アラサー女子にとって、常にトップランナー役を果たした。でも、実際は――。9月20日に来年9月での引退を発表した安室奈美恵さん(40)。30歳のときにAERAのインタビューに応じ、知られざる苦悩と葛藤の日々を語っていた。当時の記事から抜粋して再掲する。

1990年代後半、圧倒的な歌唱力とダンスで、シングル曲は軒並みチャート1位。街には「アムラー」があふれた。でも彼女は、常に不安を募らせていた。

「一気にブームになってしまった当時は、次はどこを目指せばいいのか分からなくなったんです。だから“カッコイイ安室奈美恵”として、求められるままに歌って踊る。自分のやりたいことは二の次で、だんだん息がつまりそうになっていました」

 人気絶頂の20歳で結婚した。出産のため、1年間休業。復帰直後から数年の間に、「2度のどん底」を味わった。

「当時は結婚も、出産で仕事を休むことも、何も怖くなかった。でも(復帰後はつらいことが続いて)、なんでこんなに濃い人生なんだろう。もう仕事も“安室奈美恵でいること”もやめたいと思っていました。だけど、今がどん底だとすれば、これ以上悪くなることはないはず。そう思うと、少しずつ楽になれました」

 一人になった時が、アーティストとしての真価が問われる時。だったら、やりたい音楽を片っ端から形にして、聴いてもらいたい。以来、多くのミュージシャンと出会い、自らの音楽を模索した。「安室奈美恵」の名前を出さずにアルバムも出した。「人気低迷」と言われても、気にしなかった。

「スロースターターで、何かに気付くのにも時間がかかるから、音楽も作り続けることでしか自分のスタイルは見つけられないと思ったんです。やっと今、自分の歩き方が分かった気がする。そのせいかな、最近歌うことがすごく楽しい」

 今年、シングル「60s70s80s」で、9年3カ月ぶりにチャート1位を獲得した。メディアは「安室復活」と書き立てる。でも、彼女の中では信じる音楽を続けてきたことに結果がついてきたに過ぎない。焦りがなくなり、「たまに取る1位は楽しい」と言えてしまう余裕も生まれた。去年のコンサートツアーでは、「Chase the Chance」など、懐かしいヒット曲も歌った。


「一時期、小室さん時代の曲はしばらく歌わない方が良いのかもと思っていました。過去は振り返りたくないし、私は今の自分を見てほしかったから。でも、小室さんが作ってくれた歌はいい歌が多いんですよ。今でも歌うとテンションが上がる。やっぱり、いいものはいいし、そう素直に言える大人でいたい」

 どん底を味わい、苦しみを乗り越えた中から生まれる言葉や音楽だからこそ共感できるし、信じられる。今もコンサートで、アムラー世代は「アムロちゃん、カッコイイ!」と声援を送る。小室時代を知らない10代の新しいファンも増えている。

 素顔は、とてもシャイ。旅行前に「ユニクロ」へ買い物に出た時のこと。買い物客でごった返す店内で、人と肩がぶつかるたびに「すみません」と謝ってばかり。結局、謝ってばかりで目当ての商品にたどり着けないまま、敗北感を背負って家に帰った。人を押しのけてまで、前へ前へと進めない性格。

「もっといろいろ積極的にならないといけないと思うんですけど、人見知りも相変わらずです。“やっと打ち解けてくれてうれしい”と言ってくれたスタッフは、実は、出会って5年たっていたり(笑い)。歌番組でも共演者の方に“私は放っておいてくださいオーラ”を放っていましたが、それじゃいかん!と、今は友達作りに励んでいます」

 今、30歳。アムロの新たなベクトルは、ずばり「ラブリー」。「安室奈美恵はカッコよくあるべき」との思いから、洋服はモノトーンばかり、花束を持っての撮影では「どんな表情をすればいいのか分からない」と戸惑っていた頃を考えると、劇的な変化だ。

「カッコイイだけだと、仕事はよくても、一人の女としてはどうなの?って考えるようになって。勇気を出して、女らしい色も取り入れてみようかなって」

 クローゼットにはカラフルな色が並ぶようになった。部屋のカーテンはピンク色に替え、キラキラの可愛いシャンデリアも買うつもり。苦手だった料理にも挑戦し、目下の愛読書は、少女漫画の王道『王家の紋章』。今、恋愛モード?と思わずにはいられないほど、笑顔がまぶしい。

「これから先、また結婚して出産することがあっても、きっと前以上に冷静に怖くないと思う。今の自分だったら、何が起きても大丈夫って自信があるから」

 毎朝10歳になる息子と食事をとり、学校へ送り出す。「最近はいっぱしの男子に育ってきてますねー」と、母の表情……に、あんまり見えない。それぐらい、彼女の女子力は、その音楽同様、誰も追いつけない進化を見せる。

「いくつになっても、ミニスカートははくつもりです。人に止められるまではね(笑い)」