公衆電話「赤字」でも設置続ける理由

「10円玉をたくさん握りしめて、ふるさとの両親や彼氏に公衆電話で話したものよ」(福井市50代女性)。青春時代の思い出と、公衆電話が結びつく人は少なくないのでは。現在、福井県内の設置台数は1980年代の約2割。携帯電話の普及でめっきり数が減った今は、災害時の通信インフラとして重要な役割を担っている。9月11日の「公衆電話の日」にちなみ、県内の公衆電話事情を調べてみた。

 1900年9月11日、日本初の街頭に置かれる公衆電話が東京の新橋と上野駅構内に設置された。金沢市にあった電電公社北陸電気通信局(当時)の社内文書によると、福井県での初設置は06年。場所は現在のJR福井駅だったらしい。

 福井県の統計では、県内の設置台数は84年度が最多で6378台だった。88年ごろ、携帯電話が県内で初登場し、普及に伴って公衆電話の設置台数は減少。携帯電話の県内保有率が55%を超えた2002年に台数は84年度の約半分となった。昨年度は1290台となっている。

 「現在設置されている公衆電話は、第1種と第2種があります」。NTT西日本福井支店によると、第1種は総務省令の電気通信事業法施行規則で、人口が集中する市街地では500メートル四方に1台の設置が規定されている公衆電話。防犯、防災の観点から、緊急時や災害時、外出時の最低限の通信手段として設置している。県内の約3分の2が第1種に当たるという。

 残りが第2種で、収益目的として置く公衆電話だ。同支店は、一番収益を上げている公衆電話がどれかは言えないが「電話機の維持や整備費用がかかるため、公衆電話の運営全体は赤字」とのこと。

 それでも設置を続けるのは、やはり災害時などの通信インフラとしての必要性から。公衆電話は停電時でも使えるうえ、回線は災害時に優先的につながるようになっている。11年の東日本大震災の際、3月11日の東日本全域の常設公衆電話の通信回数は前日比の約10倍だった。

 災害時に備え、避難所などにあらかじめ回線だけを引いておく「特設公衆電話」も越前市など県内6市町で導入が進んでいる。停電時にも使え、無料でかけられる。

 公衆電話の設置箇所はNTT西日本のサイトで紹介しており、災害への備えとして近くの設置場所の確認は大事だろう。