三菱自動車 再建にメド…重工などの優先株処理へ

三菱自動車が今年度内に2000億円規模の公募増資を行い、調達した資金で三菱重工業など三菱グループ4社が保有する優先株(約3800億円)の大半を買い取って処理する方向となった。三菱自は2000年の大規模リコール(回収・無償修理)隠し問題を端緒に厳しい経営が続いたが、円安や海外販売好調で14年3月期は過去最高益の見込み。経営の重荷の優先株問題にケリがつけば、再建に向けて大きく前進する。

 ◇2000億円公募増資

 三菱自は1990年代にはRV(レジャー用多目的車)「パジェロ」のヒットで販売を伸ばしたが、00年7月に大規模なリコール隠しが発覚。死傷事故も起こり顧客離れが進んで経営が悪化した。

 苦境に陥った三菱自は独ダイムラークライスラー(現ダイムラー)から出資を受けたが、04年に新たなリコール隠しが判明。ダイムラーは経営支援を打ち切った。

 代わって三菱自の母体の三菱重工業や、三菱商事、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の「御三家」など三菱グループが主体の14社が総額約6300億円の優先株(議決権がない代わりに普通株に優先し配当が受けられる株)を引き受け、経営危機を封じた。三菱重工は会長を派遣、社長に三菱商事出身の益子修氏が就いた。

 大規模な優先株発行は三菱自の財務基盤を強めた半面、配当負担の重さは経営の重荷に。三菱重工など4社以外の引受先は保有する優先株を普通株に転換、市場で売却するなどしたため、現在は三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行の4社が保有する3800億円が残る。この分だけでも年間の配当負担は約190億円にもなり「優先株処理が再建の課題」(三菱東京UFJ銀行筋)だった。

 三菱自は東南アジアでの好調な新車販売を背景に13年3月期まで3期連続増益を達成。今年8月には資本金などを取り崩して累積損失(約9226億円)を解消した。円安も追い風に14年3月期の連結最終利益が過去最高の500億円になる見込みとなり、三菱自は公募増資で得た資金で優先株処理に踏み切る。三菱自は公募増資に向けて今秋にも14〜16年度の中期経営計画を策定・公表する方針。

 4社が優先株の買い入れ消却に応じれば、計1000億円を超す損失が生じる可能性があるが、再建を後押しする方向で調整している。また、三菱重工など御三家は公募増資後も出資比率を計約34%程度に維持、三菱自を支える方針だ。

 ◇問われる攻めの戦略

 公募増資による優先株処理の具体化で三菱自動車は再建に一定のメドを付けるが、エコカーの研究開発に巨額投資が必要な自動車業界で生き残るには、成長戦略が不可欠。益子社長ら経営陣には、他社との提携も含めた攻めの戦略へのシフトが求められそうだ。

 益子社長は05年のトップ就任以降、経営基盤の強化に向けて「事業の選択と集中」を進めてきた。エコカーでは電気自動車(EV)の開発と早期発売を目指す一方、主力の軽自動車では日産自動車と提携。共同開発体制を敷き、シェア拡大を目指す戦略を進める。同時にEVを除く商用車からは撤退を決めるなど「思い切った経営資源の集中」(関係筋)に復活をかけてきた。

 ただ、東南アジアなどで好調といっても、三菱自の12年度の世界販売台数は約99万台と、トヨタ自動車の1割程度にとどまる。エコカーなどの開発費も年間約700億円とトヨタの約10分の1だ。

 トヨタはCO2を一切排出せず、1回の燃料充填(じゅうてん)当たりの走行距離もガソリン車並みの究極のエコカー「燃料電池車」を15年にも発売する計画。ホンダも米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携し、燃料電池車実用化を加速させる中、投資力が乏しい三菱自が生き残るには「資本力のある他メーカーとの提携が必要不可欠」(三菱グループ幹部)だ。

 益子社長はこれまでも国内外で提携を模索してきたが、優先株の処理を含む財務問題が大きな足かせだった。その足かせが外れた時、どう動くか。三菱自経営陣には周到な戦略が求められる。

公募増資

企業が広く株主を募集して新株を発行し、資金を調達する方法。これに対して、取引や融資などで関係が深い特定の投資家だけを対象に新株を発行し、資金を調達する方法を第三者割当増資という。

 資金調達の目的は企業の財務基盤強化や設備投資の手当てなどさまざま。公募増資は株主層を広げるなどのメリットがあり、株価や業績が安定している時に行うのが一般的。株式相場が低調な時や、大規模な新株発行を伴う場合には、1株当たりの価値が下がることが嫌気されることもある。

 新株発行による資金調達方法としては、公募増資や第三者割当増資のほか、既存の株主だけを対象に新株を割り当てる「株主割当増資」もある。