なぜ「小中一貫教育学校」創設を目指すのか 教育再生会議が提言

学制の見直しを検討していた政府の教育再生実行会議が7月にもまとめる第5次提言で、全国一律に6・3・3制を変えることは見送り、代わりに小・中学校9年間の教育を一つの学校種で行う「小中一貫教育学校」(仮称)を創設し、自治体が選べるようにすることを提言する見通しになりました。いったい、なぜこのような提言が出てきたのでしょうか。

「小中一貫教育校」は100校以上

 小中一貫教育学校のモデルは、一部自治体ですでに実施されている「小中一貫教育校」です。しかし1999年度に創設された「中高一貫教育校」(中等教育学校、併設型、連携型の3種類)と違って、法令などで制度化されたものではありません。

 広島県呉市(2000年度から)、京都市(04年度から)、東京都品川区(06年度から)など一部の先進的な自治体が取り組み始め、徐々に他の自治体に広がっていったものです。自治体によっては全校で実施したり、一部の学校で実施したりしている他、施設一体型の校舎を建てて「〇〇学園」という通称を付けているところもあれば、別々の校舎のまま児童・生徒や教員が行き来する形でカリキュラムや指導上の一貫教育を行っているケースもあります。

 正式な制度ではありませんから、小中一貫教育校が何校あるか正確な数は分かりません。文部科学省の調査によると、09年度に「〇〇学園」といった組織は全国47自治体に111ありました。13年4月現在で教育課程の特例制度を活用して6・3制の区切りを変えて実施しているのは、4・3・2制が127校、5・4制が2校、5・2・2制が2校と、4・3・2制が圧倒的です。

 小中一貫教育に取り組む自治体では、いわゆる「中1ギャップ」の解消や、学力の向上が導入の契機になっていることが多いようです。小学校高学年で中学校の教員による教科担任制が進めやすいのもメリットのようです。

「1校」に校長が複数いるケースも

 小中一貫教育はあくまで正式な制度ではありませんから、運用上さまざまな課題を抱えているのも確かです。例えば「〇〇学園」として一体の運営を行っていても、制度上は別々の小・中学校ですから、両方の学校の校長を兼ねる「兼務発令」で学園長を1人に絞っている場合もあれば、校長が別々にいるケースもあります。

 また教える教員の免許状は小学校と中学校の校種別に分かれていますから、片方しか持っていない教員は小中一貫校に配置できません。教員の数も特別の算定基準があるわけではなく、小、中それぞれの児童生徒数(学級数)に従って算定された教員数を合わせた中でやり繰りしなければなりません。独自カリキュラムの研究や児童・生徒の指導などで教員に過重な負担が掛かっているとの指摘もあります。

 そのため、小中一貫教育を実施する自治体でつくる「小中一貫教育全国連絡協議会」(事務局・東京都品川区教委)は毎年、小中一貫教育学校制度の創設を国に要望していました。

「地域の事情に合わせられる」「9年間で挫折した場合が心配」

 かつて文科省は中央教育審議会に作業部会を設けて、義務教育学校制度を創設するかどうか検討したことがあります。その際、「地域の事情に応じて制度が選択できる」「学力向上を図るには極めて自然」といった賛成意見の一方で、「9年間の途中で挫折した場合が心配だ」「人間関係が固定化する」「受験エリート校化も懸念される」といった慎重意見もありました。

 結局、12年7月にまとめた報告書(意見整理)では、諸外国でも初等教育(小学校段階)で複数の学校種の設定(複線化)をしている国がないこと、特例の活用などで十分対応できることなどを理由に、制度化を事実上見送りました。

 しかし教育再生実行会議では、かつて中教審作業部会で慎重派だった委員が制度化の賛成意見を展開するなど、政権交代と「アベデュケ―ション」への期待が高まる中で議論の雰囲気は変わっていたようです。