高級スーパー成城石井を誰が射止めるのか
東京都を中心に展開し、高級スーパーとして有名な成城石井の動向に注目が集まっている。現在、三菱商事と三菱UFJ証券ホールディングスが設立した投資ファンド・丸の内キャピタルの傘下にあるが、業界では出口(保有株の売却)が近いとささやかれているからだ。「狙っているのはローソン、三越伊勢丹ホールディングス(HD)、エイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)、イオンだろう」。流通関係者は4月、こう口にしていた。
H2Oの主力は百貨店事業だが、子会社で関西を地盤に高級スーパーの阪急オアシスを展開しており、成城石井との共通項はある。しかし、買収の可能性を首脳に尋ねると、「うちは関西だから」とにべもなかった。イオンも同じような反応だ。5月、首都圏スーパーマーケット(SM)連合の創立で会見を行った岡田元也社長に買収意向を尋ねると、「何も聞いていない。(SM連合とは)何も関係がない」と否定的だった。
■ 有力視される2社
そうした中、4月から5月にかけて、買収先としてローソン、三越伊勢丹HDが最有力候補として浮上。丸の内キャピタルは「何も話すことはない」、成城石井も「大株主のことであり、当社としては情報を把握していない」とする。ただ関係者によれば、丸の内キャピタルが各社に対し、入札の意向確認を行っているもようだ。
3月時点では、本誌の取材に対し、三越伊勢丹HDの大西洋社長は成城石井の買収について「あの規模の(企業に)投資をするのは少し難しい」と述べ、百貨店の改装を優先することを示唆していた。
だが、同社の幹部は5月に、「まだ何も決まったわけではない」と含みを持たせ、「スーパー事業をどうしていくか。つねに、いいアライアンスがあれば考えていきたい」と、色気を隠さなかった。
■ ローソン会長はベタ褒め
ローソンのほうは積極的だ。新浪剛史会長は「個人的には、たいへんいい会社だと思う。物流や商品開発などシナジーはものすごくある。特に、健康系の分野では一緒にやれるのではないか」と話す。実は、ローソンと成城石井は商品面で提携関係を築いている。ナチュラルローソン(2014年2月末105店)は、13年2月から成城石井のワインを取り扱っており、現在ほぼ全店で販売している。菓子類や生ハムなどの商品も取り扱い、通常のローソンでも菓子類を販売する間柄だ。
ローソンには丸の内キャピタルとも“接点”がある。12年3月に丸の内キャピタル取締役に就いた田邊栄一氏は、三菱商事常務執行役員・新産業金融事業グループCEO(最高経営責任者)を兼務している。それ以前にはローソンの取締役で、05年から07年は副社長・CFO(最高財務責任者)を務めていた。
成城石井が同業他社から評価されるのには、いくつかの理由がある。輸入品の商品力の強さや、店舗が都心部の好立地であることに加え、何より同社の好収益体質が挙げられる。決算公告によれば、成城石井の13年度の売上高は543億円(前期比5%増)、営業利益は33億円(同約7%増)を稼ぎ出す。営業利益率は約6%と、通常2〜3%が一般的なスーパーの利益率を大きく上回る水準だ。
一方、買収のネックとなるのが、その金額だろう。丸の内キャピタルの前に成城石井の経営権を握ったのは、焼き肉店の「牛角」などを展開するレインズインターナショナル(当時)だった。
同社が成城石井の商品開発力の活用やグループの仕入れ規模拡大などを狙い、経営権を取得したのは04年。発行済み株式の約67%を65億円で取得した。つまり、当時の企業価値は約100億円。その後、丸の内キャピタルが買収を発表したのは11年。買収価額は非公表だが、400億円ともいわれる。
■ 買収額は最低400億円?
仮に、ファンドの投じた金額がこの水準だとすれば、当然、丸の内キャピタルの売却意向額は400億円以上になる。13年末の成城石井の純資産額は約190億円。単純計算すると、400億円で買収できたとしても、200億円強もののれん代が生じる。決して安い買い物とはいえない。
成城石井は近年、毎期10店舗前後の出店を進め、高級スーパーとしては110店(13年末)と最大級の店舗数を誇る。こうした動きに対し、業界関係者からは「高級スーパーとしての希少価値が薄れ始めている」「輸入した加工食品の強さは認めざるをえない。だが、多店舗化で、今後は総菜などの店内加工の手薄さが目立ってくるのではないか」といった声も聞かれる。
各社が展開する業態と成城石井との親和性、そして関係者や各社首脳の反応を総括すると、有力視されるのがローソンで、それに続くのが三越伊勢丹HD。大穴でH2O、イオンといった構図だろう。最終的に成城石井を掌中に収める企業はどこか。そして同社は今後も快進撃を続けられるのか。業界の誰もがかたずをのんで見守っている。