デフレ王者「マクドナルド」転落の断末魔…鶏肉ダメージを悪化させたチグハグ経営

■“ひっつめ”スタイルで「心機一転」を演出したが…
先月7日、東京都中央区のホテルで開かれた日本マクドナルドHDの緊急会見。参加した記者たちがまず驚いたのが、カサノバ社長のスタイルだ。後で束ねる「ひっつめ」のヘアスタイルで白いシャツに濃紺のスーツで、登場した。これまではソバージュ、スーツもカジュアルなものが多かったが雰囲気が一変した。
会見での質疑応答の中、テレビ局の経済部記者が髪形などを変更した理由を尋ねた。カサノバ社長は「心機一転」と応じ、さらに「この髪形好きですか」と切り返し、思わずその記者が「好きです」と応えてしまう場面もあった。
しかし、会見での質疑応答が進む中で、その心機一転も、外見だけで、業績改善の中身は薄く、“期待はずれ”になっていることが判明していく。
鶏肉問題では、使用する鶏肉をすべてタイ製に切り替え、材料の抜き打ち査察や食品衛生の専門家を集めて安全指針をつくったほか、こういった取り組みをCMで告知している。しかし、食の安全問題は極めてセンシティブな問題なだけで、消費者から厳しい意見が途切れない。「あの事件以来、チキンナゲットは食べることができない」(30代主婦)、「キャンペーンの『妖怪ウォッチ』のグッズを子どもがほしがったので久しぶりに行ってみたが、妻が子どもに食べさせるのを心配するので自分が食べた」(40代男性会社員)といった声が相次ぐ。
■「子供に食べさせられない」
外食産業に詳しいいちよし経済研究所の鮫島誠一郎主席研究員は、「中国製ギョーザによる中毒事件など過去のさまざまな食の安全問題をみても、販売が前年実績を上回るには1年はかかる」と語る。対策をアピールしても、マクドナルドも「来年7月までは既存店の売上高、客数は落ち続ける」と、影響の長期化は避けられないと予測する。
その上、鶏肉問題以前からの客離れへの対策も、的確とはいえない。今年3月にカサノバ社長は、現在ベネッセホールディングス(HD)会長兼社長の原田泳幸氏から、マクドナルドHDトップを引き継いだ。すでに、既存店ベースでの来客者数の減少が始まっている中で、新カサノバ体制の施策として、ファミリー回帰、宅配サービス拡充を業績回復のメーンに据えた。
しかし、それまでの主な顧客層が大人のランチ需要や、喫茶店代わりの利用といった店のコンセプトで展開しており、急速な店舗イメージの変更が追いついていない。その上、全店禁煙措置などもあって、喫煙場所を求めてマクドナルドを利用していた層も失い、狙っていた新しい顧客も獲れない状況に陥った。
■再びランチを値下げしたが…
それでもカサノバ社長は、「改革のエリアは正しい。ただ、そのフォーカスの絞り方が正しくなかった」という。戦略の方向性やターゲットとなる消費者層にアプローチはできたが、具体策だけがうまくいかなかったと主張する。経営者の反省としては「極めて甘い自己評価」(証券アナリスト)だが、正しいとした方向性でも疑問が出てくる。それは、鶏肉問題以降の戦略で、再び平日のランチメニューの値下げを決め、これを戦略の軸としたことだ。
通常のセットよりも100〜120円安いというが、目玉商品として出したとんかつバーガーのセットは550円。これがコンビニや牛丼などのファストフードと勝負できるものになるかは疑問符が付く。それ以上に狙いをファミリーでなく、従来のサラリーマンや若者のかつてのターゲット層に戻したことにも首をかしげる声も多い。
現時点ではカサノバ社長の戦略に一貫性がなく、その場しのぎのように見えかねない。この点を日本経済大学の西村尚純・経営学部教授は、「会社のライフサイクルはピークを打った」と、マクドナルドの成長が行き詰まったためだと指摘する。成長の方向性がみえないため、試行錯誤に陥っていると分析する。
さらに、このマクドナルドHDの方向性のなさは、結果として各店舗を展開するフランチャイズ(FC)店に大打撃を与えることになる。いちよし経済研の鮫島氏は「マクドナルドはFC本部に問題があっても、現場の力は強かった。しかし、今回は現場も疲弊が進んでいる」と指摘する。8月に起きたメニューミスによる料金の過剰徴収などがその証左だという。
販売が回復する可能性のある来年夏。それまでに成長のビジネスモデルを見つけ、立て直しを図れるのか。昭和46年の会社設立以来、最大の危機に見舞われている日本マクドナルド。カサノバ社長はこの大きなハードルを乗り越えられるのか、巨大外食企業の一挙手一投足に注目が集まっている。