青山商事は利益7割減! 紳士服大苦戦のワケ
紳士服大手が収益悪化に直面している。2014年4〜9月上期の営業利益は、業界トップの青山商事が紳士服事業で前年同期比7割(68%)減へと急下降した。業界2位のAOKIホールディングスも、紳士服を含むファッション事業が赤字転落。いずれも下期に稼ぐビジネスモデルだが、今後も急速な業績改善は難しいとみて、2015年3月期通期の業績をそれぞれ下方修正した。同3位のコナカ、同4位のはるやま商事も厳しい状況だ。主因は高価格の礼服やスーツを中心に、消費増税前の駆け込み需要が大きく、その反動減が長引いていることだ。青山もAOKIも、リーマンショック後の落ち込みから回復し、前期まで増収増益と業績堅調だったため、一転した格好である。
青山は駆け込み需要が売上高で26億円分あったと推測、これは同社の年間売上高の10%超にも上る。例年、3月はフレッシャーズフェアなどで売上高が増える最大商戦期だが、今年はそれに増税前の駆け込みが加わり、ヤマが一段と大きくなった。それだけに客足の戻りは遅く、4月から10月までの7カ月間累計のスーツ事業の既存店客数は、2ケタ減と苦戦。客単価は約4%アップしたが、補えてはいない。こうした状況は各社とも似たり寄ったりだ。
■ 「2着目1000円」はもうやめた
さらに今年は秋冬商戦もそれほど見込みにくい。例年であれば、12月の就職活動解禁前にリクルートスーツが売れる時期だが、16年春の入社から、解禁が3月へと後ろ倒しになるからだ。そのため「月次で前期を上回るのは2月頃まで待つ必要があるだろう」(業界関係者)との声が聞かれる。青山は上期の実績も踏まえ、下期に予定していた50店舗のリニューアルをすべて中止し、営業日数の確保で客数拡大に全力を傾ける方針だ。同時に、セール内容を「2着目1000円」から「2着目半額」に実質アップすることで、粗利益率向上も狙う。
ただ、団塊世代の大量退職やクールビズといった逆風が続く中、市場拡大は今後も見込みにくい。足元では特に地方で、所得水準が増税後の価格引き上げに追いついておらず、アベノミクスの恩恵が回ってきていない。そこで各社が力を入れているのが、これまで手薄だった都市型店舗やレディス市場開拓だ。
あくまで本業を深掘りするのが青山。同社は都市型の若年層向け業態「ザ・スーツカンパニー」が増税後も堅調。スーツ事業のレディス売上高は、有名女優を使ったプロモーションも相まって、2ケタ増と大きく伸ばしている。
一方、AOKIの場合、郊外から都市部へと、出店地域のシフトを加速している。さらに業態を多様化することで、紳士服の落ち込みをカバー。今や紳士服事業の売上構成比が6割超にとどまる一方、「アニヴェルセル」で有名な高級ウエディング施設やカラオケルーム、複合カフェなど、他業態を育成して稼いでいるのが実態だ。
特に好調なアニヴェルセルは、今年2月に約110億円を投じて、みなとみらい横浜で地上5階建ての大型施設を開業した。同社が持つ14施設の平均組単価は436万円に上り、全国平均を100万円近く上回るなど、競争力が高い。
紳士服チェーンはかつて20社近くが乱立していたが、現在はほぼ大手4社に絞られてきた。ライバルの百貨店や量販店が戦線縮小する中、確実にシェアを奪って大きくなってきた経緯があり、まだまだ“残存者利益”が見込めるとの見方もある。粗利益率が30%〜50%のアパレル業界において、紳士服は60%程度と非常に高いのが特徴である。
3月期決算である紳士服業界は今期、消費増税後の反動減や就活時期の変更など、”不運“が重なったこともある。だが、はたしてこれは、一過性で終わるのか。本当の見極めはこれからだ。