円安の恩恵どこまで? 最高益のトヨタも下請けは悲鳴
安倍晋三首相は18日夜の会見で、衆院を解散する理由の一つに経済政策「アベノミクス」の信任を問うことを挙げました。同時に「地方にもアベノミクスの成果が行き渡るように」「円安による燃料費高騰の対策」を行うことなども表明しました。急激な円安が進み、輸出企業には好影響が続いています。代表格のトヨタ自動車は、2014年9月期の中間決算で1兆1200億円余りの過去最高益を記録、来年3月までの通期では日本企業として初めて純利益2兆円の大台に達する見通しを示しました。しかし、足元では国内の部品メーカーが苦境に立たされているとも言われます。それは一体どういう構図なのでしょうか、円安の恩恵はどこまで届いているのでしょうか。下請けの現場の声から探ってみました。
「実感まったくない」
部品工場が立ち並ぶ愛知県内の工業団地。甲高く響いていたプレス機の機械音が、徐々に小さくなっていく昼休みの時間帯。作業の手を止めた若い工場長に声を掛けると、一瞬戸惑いながらも、はっきり言いました。
「円安の恩恵? まったくないですね」
トヨタ系の二次下請けだというこの工場では、車のシャシーなどの部品を生産しています。2008年のリーマンショック時は、まったく仕事がないこともありました。
「あのときに比べればかなり回復しました。しかし、その後のピーク時より、今は2割ぐらい生産量が減っています。ものによっては半分ぐらいに減った部品も。アクアやプリウスといったハイブリッド車など、売れる車の部品をつくっているところはそれなりに忙しいようですけど、後は海外調達になってきているんでしょう。最高益なんて実感はないですよ。(トヨタ自動車)本体だけなんじゃないですか。下請けはみんなそう思ってるはずです」
一方で原料や物価高、電気代の高騰にさらされ、「給料なんか増やせる状態じゃない。できるのは電気代を節約するぐらい」と苦笑いする工場長は、照明をしっかり落として昼食に出て行きました。
その他の下請けを回ってみても、聞こえてくるのは「何も変わらない」「リーマンショック時よりはましだが、景気がよくなったわけではない」といった言葉ばかり。「利益の還元はない。今後もその予兆すら感じない」との恨み節も聞こえてきます。
本社の「配慮」にも不信
トヨタ本社は先月、部品メーカーに対して半年ごとに要請している部品価格の値下げ、つまりコストダウンの見送りを決めました。円安効果を享受できない下請けの苦境をある程度、把握した上で、遠回しの利益還元となる「配慮」を見せたとされています。
しかし、これにも現場からは「あくまで一時的なもの。今後もコストダウンは続くはず」と、あきらめにも似た声が。本社と下請けの信頼関係は、とことん冷え込んでしまったようです。
全トヨタ労働組合の関係者は「売れる車種の部品を扱うかどうかで、下請けも二極化している。そうした事情も反映して、円安の利益は還元されるべきだ」と訴えます。
日銀が主導する今回の急激な円安では、原料を輸入に頼る食品企業などが悪影響に直面し、商品の値上げに追い込まれています。一方、トヨタなど輸出企業も、足元の不確かさはかなり深刻なものだと言えそうです。
そうした混沌とした実態が、17日に発表されたGDPのマイナス成長という数字によって裏付けられたのではないでしょうか。