僕は絶対に「パーキンソン病」に負けません
衝撃の告白だった。東京・銀座の「ヴァンパイアカフェ」や「ベルサイユの豚」など、数々のユニークな食空間を展開することで知られるダイヤモンドダイニング。その創業者で、「外食業界のファンタジスタ」と賞される松村厚久(48)が、若年性パーキンソン病であることを公にしたのだ。「これから何が起ころうと、決して屈しない。熱狂こそ、与えられた試練に対する答えだ」。病気と戦いながら懸命に経営を続ける松村の姿勢が、人々に勇気を与えている。■ なぜ自分の病気を告白したのか
私は若年性パーキンソン病です。
パーキンソン病は進行性の難病で、進行を遅らせることはできますが、現代医学をもってしても、完全治癒は困難とされている病気です。普通は40歳、50歳以降に発病するケースが多いのですが、実は私の場合は若年性といって、30代で発症するケースでした。
私が体調の不良を訴えたのは38歳の時です(現在は48歳)。肩の痛みが治らない。最初は疲労による肩こりくらいに考えていたのですが、たまたま実家のある高知に帰省していた時、左腕がぶら〜んと垂れ下がり、妙な格好で歩いていることを、自分の母親に指摘されました。
正直、医者に行くときは不安でした。ダイヤモンドダイニングの経営を軌道に乗せるため、不眠不休で働いている時でしたから。そうはいっても、自分の身には、明らかに異常が起きていました。それで診察を受けた結果が、若年性パーキンソン病だったのです。
治る見込みがないといわれる難病であることを知らされた時は、「どうしてこの俺が・・」という気持ちにもなりました。
しかし同時に自分の心底に、「こんなところで倒れるわけにはいかない。とにかく突き進まなければならない」という気持ちがフツフツと湧いてきたのです。
■ 「病気なのに経営ができるのか」という疑問に答えよう
その想いが「100店舗100業態」という、外食産業の世界ではクレイジーとまで言われた目標を、2010年に達成できたモチベーションにつながったのだと思います。
今回、私は作家の小松成美さんに書いていただいた「熱狂宣言」(幻冬舎刊)で、病気のことをすべて公表しました。すでに病気の症状を隠しきれなくなったからです。 このまま何も言わずにいれば、周りの人たちに余計な心配を掛けさせてしまいますし、進行性の難病を抱えた私が経営に関わること自体、リスクだという意見も、いろいろな方々から頂戴しています。
その意味で、今回の本では、私が今、置かれている状況について、嘘偽りのないところをすべて文章にしていただきました。ダイヤモンドダイニングが将来、どこを見据えて、さらなる発展を目指しているのかが、お分かりいただけると思います。
オーナー系企業も一般企業も同じですが、オーナー系企業のほうが、所有者兼経営者としてのトップの采配が、業績の浮沈により大きく影響を与えると考えられています。私の健康状態が心配されたのも、ダイヤモンドダイニングという会社がオーナー系企業だからでしょう。
ただ、私はこの数年で大きく権限移譲を進めてきました。もともと、前々から「任せる経営」を行ってきたのです。どういうことかといいますと、「コンセプトを外さない」「適正な利益を出す」「お客様を喜ばせる」という3つの約束さえ守ってくれれば、社員には何をやっても良いと言ってきました。
だから、トップがいちいち細かいことにまで口を差し挟まなくても、現場の社員が自主的に考え、動いてくれます。既存店舗の運営、新規店舗の出店などは、私が直接関わらなくても、特に問題はありません。
一方、まったく新しい事業展開などについては、私の判断が必要ですので、こうした戦略については、今後もしっかり関わっていきます。
たとえば、ダイヤモンドダイニングは2010年に「100店100業態」という目標を達成した後、新たな目標として「1000店・売上高1000億円」を掲げました。しかし、1000店舗は、「100店、100業態」を実現した時のように1店、1店を手掛ける形では途方もない時間がかかります(直近の2015年2月期は売上高260億円、営業利益9.6億円)。今後は恐らく、M&Aなども行うことになるでしょう。
また、これからは国内のブライダル事業にも進出します。2016年秋には築100年の歴史的建造物を、大型パーティや結婚式が行える施設にリノベーションしてオープンする予定です。このジャンルで高いノウハウを持った人材も獲得できましたので、とにかく勝つしかないと思っています。
あとは自分の手で100人の社長を輩出したい。ダイヤモンドダイニングも出資してファンドを組成すると共に、ノウハウも注ぎ込んで、会社を100社立ち上げます。
こうした新しい事業展開は、基本的に私のジャッジが入るのですが、恐らく中には、「病気を持った松村に重要な経営判断を任せられるのか」といぶかる方もいらっしゃると思います。
ご安心下さい。パーキンソン病は確かに進行性の病気ではあるのですが、不自由なのは身体だけで、判断力に支障を来すような脳への障害はないのです。
いや、むしろ今の私は、身体の自由が利かなくなっている反面、頭脳は非常にクリアな状態です。不思議なことに、病気になる前にも増して、感性や判断の切れ味が増しているような気がします。また、身体が不自由なため、頭で考えるよりも先に身体が反応することがなくなり、物事を冷静に捉えられるようになりました。
確かに、何かと不便な病気ではありますが、悪いことばかりでもないような気がします。どうして私はこの病気になったのか。ひょっとしたら、この病気にかかったことに、何か意味があるのではないか。まだ答えは見いだせていませんが、最近は、そんなことをよく考えます。
■ 身体は不自由でも走り続ける
2013年1月の全社員総会で、私はダイヤモンドダイニングの行動指針を、それまでの「お客様歓喜」から「熱狂宣言」にすることを発表しました。外食産業には「売上高300億円限界説」というのがあります。つまり、多くの外食産業は、売上高300億円で成長が頭打ちになってしまうのです。オーナー経営者のカリスマで伸ばせていけるのは、大体、売上高200億円くらいまでと言われています。
だからこそダイヤモンドダイニングとしては、その壁を何としてでも打ち破りたい。今期(2016年2月期)は300億円を目指していますが、300億円は通過点であって、決してゴールではありません。
ここ数年、ダイヤモンドダイニングの売り上げは250億円前後で横ばいが続いていました。リーマンショックや東日本大震災など、外食産業にとっては非常に厳しい外部環境があったためです。
しかし、それを理由にしてはいけないと思います。攻撃は最大の防御。これからどんどん攻めていきます。今期も全社員一丸となり、目標を達成させるべく突き進んでいます。そして300億円を達成したら、次は500億円、さらにその先には1000億円という新たな目標が待っています。
それを実現するためには、経営者をはじめ、全社員が熱狂しなければ、到底達成できません。
こんなにしらけている世の中だからこそ、私は自分だけでも熱狂してやろうと思っています。わざと熱いことをやるのです。
でもね、熱狂していれば周りの人たちもどんどん巻き込むことができるはずです。それが自分にとって大きな財産になり、力になります。
5年前、100店舗100業態を達成した時、パーティに集まって下さった人たちは、大半が外食産業の方でした。でも、今回、「熱狂宣言」の出版記念パーティにお越し下さった方は、外食産業の方々が半分で、もう半分は外食産業とは全く関係のない分野の方々でした。この5年間で、私自身の交友関係が大きく変わった何よりの証拠です。
私は自分の病気を通じて、人生は有限であることを改めて認識しました。限りがあるのだから、立ち止まっている暇などありません。常に走りながら考える。走り続けるために熱狂する。その熱狂が周りの人を巻き込み、新しい風を生む。身体は不自由ですが、まだまだ私は走り続けますよ。